人的資本・知的時代のマネジメント~人材を人財に育み、知恵を事業として結実させる方法
第5回
いま考えたい、50代ミドルシニアのリアルな働き方(3)
株式会社ベーシック 田原祐子
5週にわたり(水曜日公開)、『いま考えたい、50代ミドルシニアのリアルな働き方』をテーマに、役職定年、定年退職後の雇用形態の変更など、50代後半にさしかかるミドルシニアの働き方を考えます。
・前回の記事はこちらからご覧ください。いま考えたい、50代ミドルシニアのリアルな働き方(2)
棚卸しが必要な理由を、ミドルシニアに伝えていく
40代半ばから50代の従業員にセカンドキャリアやライフプランを考えてもらう――いわゆる「たそがれ研修」を行う企業があります。いまの時代、ミドルシニアの体力も向上し、寿命も延びているので、50代で「たそがれ」という言葉は相応しくないと思います。拙著(『55歳からのリアルな働き方』)では、90歳の方が現役社員として働き、社内で新入社員教育も行っている事例も記載しています。
もし、「研修」の名のもとにミドルシニアを集めるのなら、企業は、その前提として、「一人ひとりのミドルシニアは、暗黙知という無形資産を持っている」と意識するべきです。先ほど言ったとおり、年齢で十把一絡げにするのは、人的資本経営の本来あるべき姿に反しています。一般的に行われている「たそがれ研修」のうち、「ワーク(プライベートな生活)」に偏ることなく、「ミドルシニアも前線で働く貴重な戦力」という考え方で、受講者一人ひとりをリスペクトしていただきたいです。
ミドルシニアに対しての研修プログラム
私が行っている研修や授業は、人材一人ひとりの暗黙知を形式知化し、部下や後輩への指導や、社内に伝授・蓄積することを目的にしています。まず、私が提示する「12個の質問(*)」で、業種・専門知識・エリア・人脈・職種など、ご自身のキャリアを見える化していただき、自分がこれまでに何を行ってきたのかを棚卸ししていただきます。「研修」といえば、講師が受講者に教えるイメージがありますが、そうではなく、まさに、自分自身のキャリアを棚卸しする場です。「知識」「スキル」「コンピテンシー」の把握から自分の強みを知り、経験知・暗黙知を特定していきます。そのプロセスを通じて、はじめて、「私はこれが得意なんだ」「これは、部下や後輩社員に教えられる」と気づくことで、暗黙知が形式知になっていきます。ミドルシニアにとって、暗黙知の棚卸しはセカンドキャリアへの架け橋となり、また、ミドルシニア一人ひとりの「知識」「スキル」「コンピテンシー」が社内に伝承され、全社に共有されることで、企業にとっては、事業継続計画(Business Continuity Planning)やサスティナビリティ経営、さらに、新事業の開発などにも繋がります。
人事部がミドルシニアのキャリアや暗黙知を棚卸ししてもらう研修において、忘れてはいけないポイント
いちばん最初に、この研修で“棚卸しを行う意味”を説明することが大切です。「今日、集まっていただいたのは、単なる研修ではなく、ご自身のいまある能力・経験知を可視化して市場価値を高め、これから先のキャリアを充実したものにしていくためです」と。研修を受講することで、ご自身も認識できていなかった「知識」「スキル」「コンピテンシー」を活かし、一人ひとりのミドルシニアに拓かれた道があることを、集まった方々に伝えるのです。そして、キャリアを社内外で活かすための具体策や事例も伝えます。すると、どちらかと言えばネガティブに捉えていたご自身のこれからのキャリアを真摯に捉え、思わぬ芽吹きを見せる方もいらっしゃるのです。なかには、社内講師になったり、強みを伸ばして社内ベンチャーなど、独立したりする方もいます。
*田原祐子著『55歳からのリアルな働き方』(2024年3月、かんき出版刊)の読者特典として、この12個の質問が1枚のシートになったオリジナルワークシートが得られる。
転載元:HRONLINE(エイチアールオンライン)インタビュー記事
プロフィール
株式会社ベーシック
代表取締役 田原 祐子 (たはら ゆうこ)
社会構想大学院大学「実践知のプロフェッショナル」を養成する実務教育研究科教授、日本ナレッジ・マネジメント学会理事
仕事ができる人材は、なぜ、仕事ができるかという“暗黙知=ナレッジ”を20年前から研究し、これらをモデリング・標準化・形式知化(マニュアル、ノウハウリスト、システム等の社内人材を育成する仕組み)を構築。企業内に分散する暗黙知やノウハウを組織開発・人材育成に活用する、【実践知教育型製ナレッジ・マネジメント】を提唱し、社内インストラクターの育成にも寄与。約1500社、13万人を育成指導。
経営者・トップマネジメント・次世代を担うエキスパートの、行動特性分析・意思決定暗黙知の形式知化や、企業内の知財の可視化(人的資本・知的資本・無形資産含む)にも貢献し、上場企業3社の社外取締役も拝命している。
環境省委託事業、経産省新ビジネスモデル選定委員、特許庁では特許開発のワークショップ実施。2021~2023年度、厚生労働省「民間教育訓練機関における職業訓練サービスの質向上取組支援事業」に係る運営協議会および認証委員会委員。
暗黙知を形式知化するフレーム&ワークモジュールRという独自メソドロジーは、全国能率大会(経産省後援)で、3年連続表彰され、導入企業は、東証一部上場企業~中小企業、学校・幼稚園、病院・介護施設、研究開発機関、伝統工芸、弁護士、知財事務所等。DX・RPA・AIとも合致。営業部門は、Sales Force Automation、Marketing Automation、一般部門では、Teams・SNSツール・Excel等も活用可能。
【田原 祐子 著書】
本書では、ご自身に潜在するさまざまな仕事の経験を見える化し、「経験知や才能(強み)」で稼ぐ、スマートで知的な報酬を得る方法をご紹介します。
私は、これまで25年間、上場企業から小さな家族経営の会社に至るまで、さまざまなご依頼いただき、約13万人の人材を育成してきました。
そのノウハウを、すべて本書に詰め込みました。
その他、著書15冊、PRESIDENT on-line、ダイヤモンド・オンライン、人材関連・ビジネス誌等への記事掲載、多数。
Webサイト:株式会社ベーシック