人的資本・知的時代のマネジメント~人材を人財に育み、知恵を事業として結実させる方法

第6回

いま考えたい、50代ミドルシニアのリアルな働き方(4)

株式会社ベーシック  田原祐子

 

5週にわたり(水曜日公開)、『いま考えたい、50代ミドルシニアのリアルな働き方』をテーマに、役職定年、定年退職後の雇用形態の変更など、50代後半にさしかかるミドルシニアの働き方を考えます。

・前回の記事はこちらからご覧ください。いま考えたい、50代ミドルシニアのリアルな働き方(3)


異動を重ねたミドルシニアたちが持っている無形資産

一般的に、「役職定年」という制度は、メンバーシップ型雇用や賃金の問題で致し方なく導入されている側面がありますが、人生100年時代であり、労働人口の減少を考えれば、見直すべきものだと思います。実際、見直しを進めている企業も少しずつ増えているようです。役職定年になったミドルシニアには、「かつての部下が上司になって働きにくい」といった声もあるので、異動するか、現在の部署に残るかの選択をミドルシニア本人に委ねるのも、組織を円滑に運営する方法のひとつだと思います。それから、これは私の希望ですが……年下の上司には、年上の元上司に敬語を使っていただきたい。元上司が人生の先輩であることに変わりはありませんから。お互いにリスペクトし、気持ちよく働ける環境づくりこそが大切です。さらに言えば……年長者も年下に対して、普段から敬語でコミュニケーションすることで、役職定年になっても、自然な対話を続けられます。話はやや逸れますが、仕事自体にフォーカスすれば、上司・部下という役割をさほど意識しなくなるはず。ある企業では、機械の安全性の高低が事故につながるため、上司も部下も関係なく、全員で安全性の向上に尽力し、誤った判断に対しては、たとえ上司だろうと、部下が遠慮なく指摘しています。このように、みんなが主体的に動く「ティール組織(自律分散型のフラットな組織)」では、役職定年が生み出すぎくしゃくした空気は存在しないのです。


企業は、“55歳からのリアルな働き方”をどう支援すればよいのか。

何より、ご自身の市場価値とも言える、これまでのキャリアや「知識」「スキル」「コンピテンシー」を棚卸ししたうえで、自分の強みを把握していれば、役職定年を迎えても、定年退職が間近に迫っても、それほど慌てることはありません。さらに、役職定年後は副業解禁になる企業が多く、収入も補えますから、仕事のモチベーションもそれほどダウンしないでしょう。

問題なのは、55歳からの働き方の準備をしていない――つまり、自分の強みを把握していないミドルシニアが圧倒的に多いこと。また、ご自身のキャリアを肯定的に捉えていない方も少なくないことです。「わたしは、これから何ができますか?」と、不安げに私に尋ねた方がいました。その方は、20代で製造管理、30代で人事関係の部署に在籍し、50代の現在は営業というふうに異動を重ねていました。「12個の質問」に回答していただいた後で、さまざまな仕事を経験することで多くの「知識」「スキル」「コンピテンシー」があることをお伝えしました。すると、「これまでのキャリアが無駄ではなく、報われた思いがする」と。ご自身がこれまで長年蓄積してきた仕事の経験自体に価値があることを感じ、癒やされ、報われる思いが、未来への希望とモチベーションに繋がり、新たな芽吹きを起こす方が多いのです。何より、雨の日も風の日も嵐の日も出社して、現場で長年働いてきて経験知を蓄積してきたミドルシニアだからこそ、必ず、強みがあるのです。みなさんがいい抽斗(ひきだし)を持っています。まさに「暗黙知の宝庫」で、それを形式知化していけば、間違いなく、自分自身と企業の強みになります。ミドルシニアのモチベーションを下げずに、“55歳からのリアルな働き方*”を企業がどう支援すればよいか――まずは、ミドルシニア一人ひとりの「知識」「スキル」に着目し、社内で経験知を部下に教えるなど、活用していくことがお互いを幸せにし、それが働き方の支援につながります。

田原祐子著『55歳からのリアルな働き方』(2024年3月、かんき出版刊)



転載元:HRONLINE(エイチアールオンライン)インタビュー記事

「たそがれ研修、役職定年……いま考えたい、50代ミドルシニアのリアルな働き方」

 

プロフィール

株式会社ベーシック
代表取締役 田原 祐子 (たはら ゆうこ)

社会構想大学院大学「実践知のプロフェッショナル」を養成する実務教育研究科教授、日本ナレッジ・マネジメント学会理事

仕事ができる人材は、なぜ、仕事ができるかという“暗黙知=ナレッジ”を20年前から研究し、これらをモデリング・標準化・形式知化(マニュアル、ノウハウリスト、システム等の社内人材を育成する仕組み)を構築。企業内に分散する暗黙知やノウハウを組織開発・人材育成に活用する、【実践知教育型製ナレッジ・マネジメント】を提唱し、社内インストラクターの育成にも寄与。約1500社、13万人を育成指導。

経営者・トップマネジメント・次世代を担うエキスパートの、行動特性分析・意思決定暗黙知の形式知化や、企業内の知財の可視化(人的資本・知的資本・無形資産含む)にも貢献し、上場企業3社の社外取締役も拝命している。

環境省委託事業、経産省新ビジネスモデル選定委員、特許庁では特許開発のワークショップ実施。2021~2023年度、厚生労働省「民間教育訓練機関における職業訓練サービスの質向上取組支援事業」に係る運営協議会および認証委員会委員。

暗黙知を形式知化するフレーム&ワークモジュールRという独自メソドロジーは、全国能率大会(経産省後援)で、3年連続表彰され、導入企業は、東証一部上場企業~中小企業、学校・幼稚園、病院・介護施設、研究開発機関、伝統工芸、弁護士、知財事務所等。DX・RPA・AIとも合致。営業部門は、Sales Force Automation、Marketing Automation、一般部門では、Teams・SNSツール・Excel等も活用可能。

【田原 祐子 著書】

『55歳からのリアルな働き方』

本書では、ご自身に潜在するさまざまな仕事の経験を見える化し、「経験知や才能(強み)」で稼ぐ、スマートで知的な報酬を得る方法をご紹介します。

私は、これまで25年間、上場企業から小さな家族経営の会社に至るまで、さまざまなご依頼いただき、約13万人の人材を育成してきました。

そのノウハウを、すべて本書に詰め込みました。

その他、著書15冊、PRESIDENT on-line、ダイヤモンド・オンライン、人材関連・ビジネス誌等への記事掲載、多数。



Webサイト:株式会社ベーシック

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