マーケティング新時代 造り物の終焉

第17回

マスメディアの変革は起こるのか?

イノベーションズアイ編集局  マーケティングコンサルタント N

 

今回の兵庫県知事選は、そもそも斎藤知事のパワハラ疑惑がきっかけとなり、県議会議員全86人の全会一致で不信任が議決されたことにより選挙となった訳だが、結果的に県民は斎藤氏を再度選ぶ選択をした。
マスメディアでは連日のように斎藤知事のパワハラを「疑惑」と銘打ちながらも、その論調はパワハラを事実のように報じ、マスメディアの情報を見た世論は完全に斎藤知事を悪人として見ていた。
それにも関わらず、再選を果たしたのは、インターネットメディアでの情報発信と斎藤知事本人の人柄や政策方針などによるものだ。

この知事選の結果をオールドメディアの敗北と捉える人も多いようだが、勝敗の問題ではなく、マスメディアの情報だけで判断する人が少なくなったということが明確になっただけだ。インターネットを駆使する若い世代の力だけでは、組織票を持つ候補者にはそうそう適わない。つまり、今回の兵庫県知事選では、若者だけでなく、高齢者も含めた多くの県民がインターネットの情報に触れ、そして投票に繋がったと考えられ、もはや世代に関係なくマスメディアの情報だけで世論が左右されるわけではなく、インターネットの情報も含め、正しいと思う情報を各自が取捨選択する時代になっているのだと考えるべきだろう。

オールドメディアの敗北、SNSの勝利ということではない

今回の選挙で、SNSや動画などのインターネットメディアをうまく活用したことによる勝利だという話しもでているが、勘違いしてはいけないのは、インターネットで情報を拡散したから当選したという訳ではないということだ。NHKの出口調査の結果では、投票で重視したことととして、「政策、公約」「改革姿勢」といった回答が多くを占めており、「県政運営の安定」と回答した人数を大きく上回っている。つまり、インターネットでの情報発信が起点とはなっているが、そこで発信された政策の中身や考え方などが評価された結果であって、インターネットで情報戦を制したということではない。

各候補者の政策や公約などをわかりやすく伝えるのは本来マスメディアの役割だが、公平性などの観点から、全候補者が揃わないと放送できないなどの暗黙の制約もあり、実現が難しいことも多い。結果として、選挙において投票を判断するための最も大切な判断基準となる情報は、インターネット情報しかないということになる。

このことは、選挙に限らず多くの情報においても言えることで、世間で話題となる事件や政治家の問題、大手広告代理店の問題から小さな地域の事件まで、マスメディアでは制約があるものや事実確認を取ることが困難なもの、マスメディア自身やスポンサーに不利になるものなどの報道しない自由を行使する情報などにおいては、知りたい人はインターネットで情報を収集することとなる。このような情報収集はもはや当たり前となっており、情報の取捨選択も各自が自己責任で行う習慣が既についてきている。

偏向報道とは?

斎藤知事が議会と対立した背景などは、ほとんど報じられていないので真相は不明だが、実績として明確なものとして、前任の県知事により計画された1000億円以上かけての兵庫県庁舎の建て直し計画を白紙撤回し、予算を大幅削減する方針としている。逆に、県立学校の設備に300億以上の予算を割くなど、教育や育児を重視する政策を行っている。他にも自らの給与を3割、賞与を5割カットし、公用車として契約していた高級車センチュリーを解約するなど、無駄と思うコストを徹底して削減し、教育や育児などに予算を割く方針を進めていた。そして、今回の選挙ではこういった改革をやり遂げたいということを政策として訴えかけていた。

対立の原因として、このような改革を良く思ない議員の存在や、周りへの十分な説明が不足し、理解を得られないまま推進したことなどで反発をくらったのではないかという推測もある。特に庁舎の件は、大金が絡むだけに影響も大きいだろう。

しかし、こういった事実はほとんど報道されていない。実績であるため裏付けもすぐに取れる内容だ。実際に今回の選挙では、マスメディアが報じないことにより、有権者はこういった情報をインターネットから得て、実績や方針を理解しており、判断材料としていたことがわかっている。

ではなぜ、マスメディアはこういった情報を報道しないのだろうか?報道する必要がないと判断したのか、それともパワハラを含め高圧的な知事が議会から反発されたような印象を与えたかったのか、取材や調査をしているのであれば、新聞記事などにも掲載されているこれらの情報を知らないということはまずない。どちらにせよ、こういった情報を発信しないことが偏向報道と受け取られ、マスメディアが信用を失うのは当然と言える。

マスメディアへの影響

兵庫県知事選は地方の一選挙に過ぎないが、その結果はマスメディア全体に大きな影響を与える。これまでマスメディアは、インターネットの情報は不正確なものが多く信用できないが、マスメディアは裏付けを取り、取材した結果の情報を発信するので、正確だとしてきた。しかし、今回の件で、マスメディアの情報こそ、嘘はなくとも真実を報じていない可能性があるということを全国に知らしめてしまった。

このことにより起こる今後の変化として、若者だけでなく、様々な世代の人が、マスメディアで報道された情報を鵜呑みにしなくなり、疑念がある情報については、その背景や推測されること、一部の人しか知らない情報など、これまで以上にインターネット上に拡散され、世代を問わず目に触れる機会が増えることが考えられる。以前のコラムでも書いたが、こういった正義の情報発信をしたい人は世の中に大勢存在し、閲覧数を稼げるため、収益にも結び付きやすい。

マスメディアに必要な変革

このような変化は、インターネットの情報速度を考えると、かなり速い速度で進むことが考えられる。マスメディアがこういった変化に対応できるようになるためには、まずは今回の知事選についての後処理を誠実に行うことができるようになることだ。単刀直入に言えば、報道の仕方に大なり小なり問題があったことを認め、それをこっそりではなく、大々的に発信することができるようになるということだ。

一度失った信用はそう簡単には、、、とよく言われるが、失ったということを自覚できるかどうかがポイントで、マスメディアは間違っていなかったというような姿勢を押し出せば、兵庫県民は間違っていると主張しているのと同意であり、更なる大きな反発と不信を買うこととなる。マスメディアの当初からの報道に対し、兵庫県民は信用しないという選択をし、兵庫県民以外からも多くの賛同を得ている以上、民意として、マスメディアの報道に問題があったと認識されていることを自覚すべきだ。

更に、この事実を受け止め、今後の報道においても、信用を得られるためにできるだけのことをする姿勢が今後マスメディアとして生き残れるかどうかを左右するのではないかと思う。これまでもマスメディアは不信に思われているところはあったが、今回の件で、公に、そして世代を問わず、マスメディア全体として不信を買ったということを前提に変革する必要があるだろう。

 

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