マーケティング新時代 造り物の終焉

第15回

昭和がブーム?Z世代のレトロやアナログ人気とは?

イノベーションズアイ編集局  マーケティングコンサルタント N

 

最近、レトロやアナログといった言葉をよく耳にするようになった。昭和歌謡やドリフが人気になったり、レコードや使い捨てフィルムカメラの販売数が伸びたり、クリームソーダやナポリタンなどの飲食物や大正時代の着物等のファッションなど、昭和を中心に大正から平成初期くらいまでのものがレトロブームと呼ばれ、若い世代に人気となっている。Z世代が様々な市場で主力ターゲットとなり始めている現在、こういった傾向があることは、マーケティング的にもとても興味深い。

Z世代の所有欲

Z世代はデジタルネイティブと言われ、1990年代半ばから2000年代のインターネットが当たり前になった社会に誕生した世代を指す言葉で、このZ世代については様々な分析もされている。そんな中の一つに、様々なものがデジタル化され、モノを所有しないことが増えたことで、物体としての所有欲を満たすものに人気があるという分析を見かけた。

レコードが分かりやすい例で、現在はサブスクなどで好きな時に好きな楽曲を聴くことができるが、購入してダウンロードしたとしてもデータとして所有しているだけで、物体としての所有物はない。それに対し、レコードには楽曲が録音されたレコード盤に加え、大きな歌詞カード、大きなジャケットもあり、また、そのおしゃれさもあって人気があるということだ。

Z世代のレコード購入者にヒアリングした結果でも、デジタルで楽曲を既に所有し、レコードプレーヤーを持っていないにも関わらずレコードを購入するという人も多いそうだ。しかし、モノを所有したいだけであればCDでも良いはず。つまり、おしゃれであることなどを含め、レコードには所有したいと思わせる魅力が他にもあるということだ。

新しい体験」

欧州では、デジタル化が進んだことで子どもの読解力が落ちているのではないかという考え方が広がっており、推論の域は出ないものの、学校教育の完全デジタル化を中止し、紙の教科書やペンを使用した授業に戻している学校も存在する。紙の本をページをめくりながら読む感覚や、筆記具を使用して文字を書く感覚によって得られる体験が、学習効果や記憶に影響すると考えられているのだ。確かに、電子書籍で本を読む感覚やタブレットに電子ペンで文字を書く感覚と異なることは理解できるし、その体験により得られるものも変わる気はする。

本やペンでの授業を経験した人にとっては、デジタル授業との体験の違いがなんとなく理解できるが、生まれた時からデジタルが当たり前の世代にとっては、本やペンでの授業は全く新しい体験として受け止められる。こういった体験は、本やペンに限らず様々なことに当てはまる。スマートフォンを難なく操作する子どもが、初めて見るカセットプレーヤーを恐る恐る操作する様子を思い浮かべるとイメージしやすい。

つまり、Z世代にとってはレトロやアナログの中に「新しい体験」が存在するものが多数あり、それが魅力になっていると考えられる。そういった意味では、α世代と呼ばれる2010年以降に生まれた、幼少期からタブレットをさわっている世代のことを考えると、本や筆記具などもレコードのように将来人気になっているのかも知れない。

五感で感じるアナログ

紙やペンの触覚による違いの他、会話も対面で話すのとテレビ会議で話すのとでは、細かなニュアンスなど、視覚や聴覚による受け取り方の違いがある。メールを読むのと手書きの手紙を読むのでは受けとる感覚が異なる。音楽を聴くのにタップして再生するのと、レコードに針を落として再生するのでは体験がまるで違う。

デジタル化されたものは、タッチパネルの操作やモニターでの閲覧など、全く異なる作業でも感覚としてはどれも似たような感覚のものが多いことに気付く。それに対し、アナログでは作業ごとに異なる感覚を刺激され、人それぞれが五感で得る感覚は異なり、その感覚とセットでその人の体験として記憶される。

このような人間の五感をより刺激するアナログの要素は、経験したことの無いデジタル世代にとってはとても新鮮な感覚であろうことが想像でき、新しい体験としての魅力を引き上げていると思われる。とは言え、大抵の場合、アナログは手間がかかり、効率性はデジタルに比べ非常に悪いことが多い。効率の良さが求められる現代で育った若者にとっては、面倒の方が勝りそうなものだが。

効率化とスローライフ

デジタル化の恩恵により、仕事の効率化、機械の高速化、高精度化、更にはAIの登場により人の手を煩わさずに行えることも大幅に増えた。メールやテレビ会議が当たり前となり、世界中の人とのコミュニケーションを手軽に行うこともできる。

一方、情報過多で効率的な現代に疲れる人や、もっとスローに生活したいと考える人も多くいる。「スローライフ」と呼ばれる自給自足の生活や都会を離れて生活するスタイルなども人気となっている。効率化と利便性を追及してきたその先に、非効率で不便さの残る生活を求めることになるとは本末転倒ではあるが、常に速い時間の流れを好むという人も少ないだろう。そういった意味で、非効率というのは、人が時間をゆっくり進める感覚を得るための行為のようにも思える。正確には、非効率がではなく、非効率が許される環境がゆっくりした時間を与えてくれるのだと思う。

レトロやアナログの魅力

改めてアナログとデジタルを比較してみると、効率化され省かれた手間の部分というのは、五感を刺激し、記憶に残るようなものが多いように思える。そして、その感覚を知らずに育った人にとっては、体験すればとても新鮮なものとなることが想像できる。加えて、スピード感ある現代において、非効率がゆえにゆっくり流れる時間は癒しにもなるだろう。また、アナログは基本的にモノとして存在しており、モノを所有することで所有欲も満たしてくれる。あくまでも推論ではあるが、こういった要素がレトロやアナログの魅力となっているのではないだろうか。

Z世代の特徴としてよく挙げられるのが職場選択の優先順の話しで、給与や待遇より休暇の多さや残業無しなど、自分の時間を作れるかどうかを優先する傾向が強いというものがある。そういった意味でも、仕事などの生産的な活動においては、これまで以上にデジタル化による効率化や高速化の道を進みそうだが、趣味などの消費活動においては、アナログ的なモノの需要の余地はあるように思える。

 

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