第1回
コメント欄に見られる時代の変化
イノベーションズアイ編集局 マーケティングコンサルタント N
先日、ある記事を目にし気になったので少し調べてみたところ、時代の変化を感じたので書いてみることにした。その記事というのは、ゲームソフトFinalFantasy16(以下、FF16)が300万本販売されたという記事だ。
筆者はゲーム好きと言われる部類には入ると思うが、FF16はプレイしていない。ただFFシリーズ自体は熱心なファンとまではいえないものの、多数プレイしており、前作のFF15もプレイ済だ。なので普段からゲーム情報などは割と目を通すのだが、今回気になったのはコメント欄の内容だ。
Yahooニュースで見かけた記事で、見出しには「好調」という言葉があった。しかし、そのコメント欄は好調と受け取られていない書き込みが目立っていた。更によく見ると複数のメディアが同じプレスリリースを扱った記事を掲載しており、それぞれの記事を見てみると、1つだけ好意的なコメントが多いものがあったが、その他は最初に見つけた記事同様、記事上では好調なセールス情報に見えるのに対して異論を唱えるコメントが多くあった。
好意的なコメントが多かった記事には他の記事とは異なる特徴があり、筆者が閲覧した時点で、コメント数が500件を超えていた。他の記事では100件程度が1つあるだけでその他は50件未満なのに対し突出したコメント数といえる。また、コメントの最初にサブカルライターと名乗るライターのコメントもあり、好意的な内容を掲載していたが、他の記事にはこういったライターのコメントはなかった。
このプレスリリースはポジティブな内容を発表しているものなので、これを元に記事を書くと必然的にポジティブな内容として掲載される。しかしコメント欄ではそのように受け取られていないのである。その内容は、「これは出荷数で販売数ではない」「集計期間の記載がない」など、この記事の内容を正確に理解した上でコメントしている人が多かった。
つまり、好調であることをアピールするための記事に対し、好調に見せるための記事だと捉える人が多くいるということに正直驚いた。
また、ポジティブな内容も「PS5独占にしては」「FFとしては少し寂しいが」など、条件付きで好調だと捉える意見がほとんどだ。つまり、記事には書かれていない背景をある程度理解した上で、この記事の内容を捉えているということだ。
ゲーム内容についてのコメントにも変化を感じた。「面白い」や「面白くない」だけの具体性がないもの、「主人公の生涯の物語がすばらしい」など概要で誰もがわかるレベルのコメントは信用度が低く、シナリオについて、アクションについて、など具体的にコメントしているものが信用されている印象だった。
更に、信用度が低いコメントは、かえって不信感を増加させているのではないかとも思われた。具体的にいうと「とにかく面白い!」というコメントがあった場合、何が面白いのかが伝わらないと面白くないものを面白いと思わせようとしていると受け取られているように感じた。
上記の好意的なコメントが多い記事は、突出したコメント数でライターのコメントも掲載されているのだが、具体的でないコメントも多く、ライターのコメントも少し無理やり感があることもあり、かえって不信感の増加に繋がってしまっているように思えてならない。
この件で筆者は、人々の情報収集能力や取捨選択の判断力はかなり育っており、既にメディアがコントロールする時代ではないことを改めて実感すると共に、信用される記事やコメントを掲載しなければ、逆に不信感を募らせ、ブランドに傷をつけてしまうリスクが高いことを感じた。
そもそもコメントというのは、自分が感じたことを他の人にも共有したいという想いがあって記載するのだと思う。そのため、それがポジティブであれ、ネガティブであれ、感じたことを伝えようとすると自然と具体的な内容になる。逆に想いが伝わらないコメントは商業的なイメージを与え、故意の持ち上げや故意の叩きとして受け取られ、ポジティブな内容はネガティブに、ネガティブな内容はポジティブにと逆の作用を引き起こしているように感じられる。つまり、本当に人に伝えたいという想いがないのであれば、逆効果を生むリスクが高く、書かない方がましなのではないかとも思える。
ゲームメディアで思い出すのは、かつて、任天堂の岩田聡社長がメディアの影響を受けず「ユーザーに直接情報を届ける」として始めた「Nintendo Direct」だ。現在では世界でもトップクラスのゲームメディアとなっているが、当時はまだメディアによるコントロールが及ぶ情勢だった中、単独でメディアという大きな力に立ち向かったのは、正しい情報を伝えたいという強い想いだったのだと思う。そして積み重ねた「信用」が世界中から支持され、現在に至っているのだと思う。
現代は情報が溢れており、その収集や取捨選択する能力は必須スキルと言っても過言ではないだろう。こういった環境では、かつてのようなメディアコントロールの手法はもはや通用せず、むしろ悪化させるリスクの方が高い。
分野は異なるが、筆者もメディアに関わる一人として「信用」に値する有益な情報を届け、小手先のマーケティングではなく、中小企業が持つその良さを正しく伝え、発展に貢献できるよう務めていきたいと改めて思った。
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- 第1回 コメント欄に見られる時代の変化