第12回
マンガ原作のドラマ化、アニメ化、映画化の成功とは
イノベーションズアイ編集局 マーケティングコンサルタント N
日本が世界に誇る文化にもなっているマンガ。人気マンガは単行本化や、アニメ化、ドラマ化、映画化、動画配信サービスなど様々なメディアへと広がり、更なる人気を獲得する。人気が拡大すれば、グッズ販売や、楽曲の販売、コラボ商品の販売などにも拡大し、日本だけでなく、世界での売上にも期待できるドル箱商材となりえる。
不評でもマンガ原作で実写映画化される理由
マンガ原作の実写映画は酷評されることも多く、実写映画化が発表されると原作ファンなどからのアンチコメントが大量に発生する光景もよく目にする。しかし、マンガ原作の実写映画化が減少することはなく、むしろ増え続けている。なぜ増えるのかというと、もちろん儲かるからだ。
マンガ原作の実写映画化で酷評された映画は多数あるが、例えば、「進撃の巨人」という映画は、原作からかけ離れたストーリー(原作者から別物として映画化する条件で許諾を得たという経緯がある)で、主要登場人物も原作とは大きく異なるなど、原作ファンから大批判をくらったことで有名なのだが、興行収入は前編が32.5億円、後編が16.8億円という成績を残している。日本で制作する映画では10億円以上でヒット、30億円以上で大ヒットというのが大まかな基準となっており、実は儲かった映画なのだ。
他にも木村拓也主演で話題にもなった「SPACE BATTLESHIP ヤマト」も酷評意見が多いが、興行収入は41.0億円で大ヒットとなっており、酷評されていても儲かっているマンガ原作の実写映画は多数存在する。もちろん評価の高い作品はより成功しており、「キングダム」が57.3億円、「るろうに剣心 京都大火編」が52.5億円というような成績を残している。
とは言え、実写映画化の失敗例として挙がることの多い「デビルマン」は興行収入5.2億円で大失敗しており、評価が悪くてもマンガ原作なら必ず儲かるというわけではない。
実写映画化では、儲かるかどうかを左右するのは原作ファン層だけではなく、一般層がどれだけ見に来てくれるかにかかっている。実写化賛否の話題や出演俳優の話題など、話題が拡散されやすく、メディアにも取り上げられやすいマンガ原作の実写化は、一般層に認知してもらえる可能性も高く、集客できる可能性が高い。それゆえ、原作に忠実であるかどうかや、原作ファン層の支持を得られるかどうかよりも、話題を集め、一般層にアプローチすることが優先される傾向にある。
もちろん、一般層へアピールすることは、原作者にとっても認知度の高上や新たなファン層獲得などにも繋がる可能性があり、その点においての利害は一致している。マンガとは異なるメディア展開を行うことはメリットとなることは多い。
実写映画化とは事情が異なるアニメ映画化
アニメ化の場合、原作ファンやアニメファンなど、コア層のコミュニティーの中で話題となることが多く、一般層に対しての話題性は弱い。とは言え、アニメは国内だけでなく、海外にも大きな市場があるため、このコア層に向けたアニメ化を行うことも多い。コア層の規模を想定した予算で映画化されているものもある。
実写映画化が一般層の認知に繋がるのに対し、アニメ映画化はそこまでの訴求力はない。それゆえ、コア層向けの映画として制作するか、テレビアニメや動画配信サービスなどで放送し、一般層の認知度が上がった作品を映画化することになる。
また、アニメ化については、映画化せずとも世界的な需要があることに加え、フィギュアや各種グッズ販売、ブルーレイやCDの販売、動画配信、ゲーム化など、制作後の収益も含め、ニッチな市場でも成立しやすい背景があり、コア層向けのビジネスとしても十分に魅力がある。
ドラマとテレビアニメの違い
映画は興行収入を目指すビジネスであるため、観客動員数を如何に集められるかが焦点となる。対して、テレビ放映や動画配信の場合、視聴率または視聴回数を如何に稼げるかが焦点となる。昨今のテレビ放送は、視聴率を稼いで広告収入を得るというビジネスモデルだけでは苦しい状況となっているため、動画配信サービスでの放映を併用することも多い。
テレビ放映では、アニメの放映時間帯よりドラマの放映時間帯の方が視聴者数が多い時間帯であることが一般的で、ドラマの方がより視聴率を稼がないといけない立場にある。アニメは夜間帯や深夜帯が多く、コア層などを狙っていることが多い。つまり、ドラマはより一般層に受け入れられる内容である必要があり、アニメはコア層の評価を得られることが必要となる。そのため、アレンジの方向性が全くことなる傾向となる。
ドラマのアレンジは、原作を知らない人も楽しめるように、継続して見てもらえるようにといった主旨でアレンジされることが多いため、原作を尊重するというより、そういった主旨に慣れている脚本家に委ねて高視聴率を目指す傾向がある。また、原作がマンガの場合、アニメでは表現ができても実写での表現が難しい場合も多い。映画では、「実写化困難を実写化」をうたい文句として利用することもあるが、コストがかかる上リスクも大きく、ドラマ化には採用されなかったり、設定を変更するなどして対処していることが多い。
一方、アニメのアレンジでは、玩具メーカーなどスポンサーの意向を汲むようなアレンジや子ども向けのアレンジなどはあるものの、昨今の大人を対象に含めたアニメでは、マンガでは描き切れない動きや背景、心理描写、作画技術による迫力ある表現など、原作の補完やスケールアップ的なアレンジになる傾向が強い。
俳優と声優
ドラマや実写映画では、必ずしも適した配役を行っているとは限らない。もちろん、適材適所の配役で評価の高い作品も数多くあるが、その一方で、話題性や人集めのための配役やプロダクションの力関係、スポンサー関連など、様々な要因で配役が行われることもある。時には俳優の人気獲得を優先させることもあり、そのために原作と少し異なるキャラ設定に変わることもある。
アニメにおいては、基本的に声優がオーディションにより配役されるため、その役に適しているかどうか、実力があるかどうかなどで判断されることが一般的だ。コネクションや声優プロダクションの力関係などが影響する可能性もあるかも知れないが、主要登場人物の声優には、監督のこだわりが反映されていることが多いようだ。人気声優が出演するからといって、そのアニメがヒットするという訳でもないので、俳優のようなしがらみはない。
実写とアニメの制作方針の違い
このように映画にせよ、テレビ放送にせよ、実写化とアニメ化では制作方針がまるで異なる。実写化でも映画化については、監督のこだわりが強い作品もあるが、実写化は基本的に一般層にも受け入れられる人気作として成功させることが最大の目的であり、その手のプロ達によって制作される。商業的に成功すれば結果的に原作の人気も上がり、原作者にも喜んでもらえるという考え方が根底にある。
アニメ化では実写化のような原作者と制作側の祖語は生まれにくい。その理由の一つとして、制作側もアニメやマンガが好きな人が多く、原作者がリスペクトされているという背景がある。また、アニメでは「作品」として評価されることで商業的成功に導こうとする傾向が強いため、作品を理解しているがゆえの変更など、原作者にも喜んでもらえるような変更が多く、作画や演出の出来で批判を受けることはあっても、改変や設定変更などで批判されることは少ない。
原作者としては、「作品」として世間に認知され、商業的にも成功することが理想だが、仮に商業的にそれほど成功しなくても、多少の認知度高上と作品に共感する人が増えるのであればそれでよいという方も少なくないだろう。しかし、商業的成功は人気や知名度の高上、その後の作品を世に出しやすくなるなど、多くのメリットがあるのも事実だ。
成功するために大切なこと
マンガ原作を実写化する場合、原作の内容にもよるが、予算をかけた映画化などでないと原作に忠実というのは、なかなか難しいと思われる。映画でも、パート2、3のように複数制作していけることが見込めるものでないとリスクは取りにくいだろう。特にドラマ化の場合は、予算を抑えて視聴率を獲得しなければならないため、原作のパラレルワールドのような位置づけとして割り切るくらいの方が現実的ではないだろうか。
制作側はビジネスとしての内情をより把握しているのだから、原作者に許可を取るために「原作にできるだけ忠実に制作する」などの甘い言葉で説得するのではなく、祖語の無いよう、できること、できないこと、方針などを正直に話し合い原作者の理解を得た上で、共に良い作品の制作を目指すことが最も大切だ。
アニメ化ももちろん商業的な成功が目標なので、原作者とアニメ制作側との間では意思疎通ができていても、制作委員会などの出資者や関わる人の利益を生まなければ成り立たない。グッズ販売、商品化、コラボ、楽曲提供など、さまざまな思惑と折り合いをつけなければならない可能性もある。そういった点についても齟齬が無いように意思疎通しておくことが大切だ。
人気マンガのメディアミックスは、需要もあり商業的にも大成功できるポテンシャルがある。それぞれの立場で、成功の定義や優先順位は異なるかも知れないが、悪意を持って携わる人はおらず、皆、成功するために努力している。本当の意味で成功を得るためには、お互いをリスペクトし、ベクトルを合わせることが最も大切だ。
情報発信の問題
マスメディアは、マンガ原作であることや出演俳優については大々的に伝えるが、原作者の意見や原作ファンからの批判的な意見については触れないことも多い。マスメディアのこういった偏った情報発信が、ひいてはコンテンツ自体の陳腐化に繋がることをもっと意識するべきだ。
深掘りし、映像化に至った経緯や原作者の想い、制作側の意図など、特に原作マンガの映像化を否定的に捉えている人にも伝わるように情報発信するのが本来の役割であるはずだ。
また、SNS等で発言する人も、偏った見方をしないように注意する必要がある。発言した時点で自分もマスメディアと同様の情報発信者となっている自覚を持たなければならない。同じ意見を持つ人が多数いるからと言って正しいとは限らない。時には数で押し切ってしまうこともありえる。そうなるとやっていることは、マスメディアの悪い部分と同じである。
個人が情報を発信する現代では、個人の意見が重なることで、マスメディアを上回る影響力になりえることを自覚して行動することが必用だ。
マンガ原作の映像化
今後もマンガ原作から様々なメディアへの展開というビジネスは発展するだろう。日本が誇るマンガ文化を育むためにも、原作者、制作者、マスメディア、そしてSNS時代の個人発信者含め、自身の満足のためだけでなく、互いの満足が得られるようマンガ文化をリスペクトして発展させていく意識を持つことが大切だ。
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