第11回
生成AIの登場による本格的なAI時代のはじまり
イノベーションズアイ編集局 マーケティングコンサルタント N
ChatGPTの出現により急激に普及が進んでいるAIだが、これまでもAIを活用したチャットでのお問い合わせなどは存在し、導入する企業も多数あった。だが、ChatGPTの勢いはこれまでとは全く違った。無料で誰でも使用できることも要因ではあるだろうが、最大の要因はChatGPTがこれまでと全く異なるAI体験を提供したことだ。
この新たなAIは、最近耳にすることも多い「生成AI」と呼ばれるものだ。生成AIの登場により、AIは新たな世代に移ったと言える。AIの進化は今後どのような変化を生み出すのだろうか。
生成AIとは
既にChatGPTを利用したことがある人も多いだろう。ChatGPTは、自然な会話形式で問いに対して回答をくれるAIだ。単純なQ&Aだけでなく、要求した条件に沿った文書作成や、応用すればソフトウェアの仕様を伝えて、コーディングに必要なプログラムコードを返してもらうこともできる。これまでのような問いに対して回答を探してくれたり、Yes/Noの判断を返したりしてくれるAIではなく、回答自体を生成するAIが生成AIと呼ばれるものだ。
ChatGPTがテキスト生成のAIなのに対し、要求した画像を生成してくるAIや音声を生成してくれるAI、動画を生成してくれるAI、作曲してくれるAIなどもあり、生成AIは、既に多数の分野で実用化されている。
これまでのAIと生成AIの違い
これまでの多くのAIソフトでは、まず質問や回答の事例を学習をさせる必用があった。たくさん学ばせれば学ばせるほど精度が高くなる。この学習のための情報整理は非常に手間と時間がかるため、お問い合わせに特化した情報や自社の技術に特化した情報など、特定分野だけを学習させた特化型のAIというのが実情だった。
これに対し、ChatGPTは質問に対する回答パターンを学ぶのではなく、予め膨大な言語情報を学習し、会話として成り立つ言葉を選択して回答している。大雑把に言うと、どの回答が適切なのかを判断するのではなく、言語体系から可能性を計算して、より適切な言葉を選択して文書を生成することで、会話として成り立つ回答を生成している。
この事前の学習時に投入する言語情報の内容やパラメーター設定を「言語モデル」と言い、言語生成AIで用いられるような膨大な言語情報を学習するモデルを「大規模言語モデル」(Large Language Model 以後、LLM)という。このLLMが自然な会話形式での応対を実現しており、LLMこそがAIに変革をもたらしたものの正体だと言える。ChatGPTは、GPTというLLMにインターフェースとしてのチャット機能を加えた製品だ。また、GPTの他にも複数のLLMが存在する。
AIの重要性
生成AIは、登場から僅かな期間で世界各国の様々なところで利用され始めており、AI利用は既に特別なことではなくなってきている。今後の発展や利用拡大により、経済面でもAI先進国の方が優位になるというのは容易に想像がつく。当然ながら、国際競争力という点でAI開発は重要な位置づけとなっているのだが、軍事力の面においてもAIは重要度が増している。
そもそも、戦闘機も戦艦もコンピューターによる制御能力が兵器の能力を大きく左右することから、コンピューターに使用する高性能な半導体が国家間の緊張の要因にもなっている。それに加え、兵器の無人化、戦略立案や攻撃予測など、攻守の面で高性能なAIを装備することは、高度な軍事力、自衛力ともなり得るのだ。
アメリカや日本では、AIの学習に必用な大規模な個人情報や企業情報を収集することは、個人情報保護やプライバシーの観点からも困難だが、中国は国家指導で情報収集を行うことができるため、中国がAI先進国となる可能性もある。そういった観点もアメリカが先端半導体やその製造装置の対中輸出規制を実施している背景にある。
日本におけるLLM開発
このような中、日本においても国策としてAI開発を推進している。内閣府が2023年11月7日に開催した「AI戦略会議 第6回」では、「日本の経済対策や国際競争力の観点から、AI開発の強化に緊急に取り組む必要がある」という方針を出している。
特にLLMについては、日本語は英語などに比べ複雑で学習が難しい言語であることから、GPTなどの既存LLMも英語で利用する場合に比べ、日本語での利用では性能が劣る。そのため、日本語への適正を高めた国産のLLM開発が急がれており、NECや富士通、ソフトバンクなど複数の日本企業が開発を進めている。
AIの問題
生成AIで既に多くのものが創作されており、文書だけでなく、画像や動画、音楽まで、実用レベルとなっている。メディアにおいても生成AIにより生成された記事が実際に導入されている例もある。
アメリカの大手メディアCNETではAIで作成した記事を実際に掲載していたことを掲載後に公表している。試験的な意味合いも含めたものとしているが、AIによる記事作成自体は今後も継続していく方針だと表明している。
ただ、報道においてのAI導入に関しては否定的な意見も多い。世論や選挙への影響なども懸念されている。報道以外でも、学生の宿題やレポートでのAI利用問題から、フェイク画像や動画、類似生成物の著作権問題など、急速なAIの浸透とともに様々な問題が生じている。
AIの利用は身近なものとなりつつあるが、その急速な普及に対して、ルールや法整備の方が追いついていない状況で、今後、国内だけでなく、国際的なルールや規制も整備されていくことが予想される。
今後のAI
企業のAI導入も進んでおり、総務省が公表している「令和元年版情報通信白書」では、中国がAI導入済と試験導入中合わせて85%、アメリカが51%、日本は39%となっている。日本は出遅れているものの、テクノロジー/メディア/通信カテゴリにおいては60%となっており、既にAIを利用している企業は半数を超えている。ゲーム開発会社では、画像生成やゲーム内でのキャラクターとの会話などにAIを利用していることを明かしている企業も複数ある。
業界などにより偏りはあるだろうが、世界的にみても大企業から中小企業まで。AI導入企業は急速に増加しており、今後短期間の内に仕事の仕方自体が変化してくる可能性も高い。
AI時代に求められるもの
人が作ったものは必ずしも公正であるとは限らないが、AIはある意味公正なものを生成するのかも知れない。AIが生成した文書の方が、人が書いた文書より偏りが無く正論なのかも知れない。「葛飾北斎が描いた高層ビル群の絵を書いて」とAIに指示すれば、感情などなく、忠実に北斎になりきって、鑑定士が見極めるのも難しいくらいの絵が作成されるかもしれない。
文書でも画像でも音楽でも、人はアイデアや要望を指示するだけで、実際の作成はAIが行うようになることが現実となりつつある。今後AIがより進化すれば、アイデアや要望を想像できる人が芸術家と呼ばれたり、起業家となったりするのかも知れない。
だが、もしそうなったとしても、人は自身の手で創作することを止めたりはしないだろう。そして、どんなにAIが進化しても人はAIとの差異を生み出す。その差異はAIのように正確無比にはできないからこそ生まれるバグのようなものかもしれない。だが、その差異にこそ価値が生まれる。
日頃から自身にとっての正しさや、方向性など、信じたものを育んでいくことが、AI時代に求められるものではないだろうか。
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