第9回
日本レコード大賞問題で本当の意味で権威が失墜したもの
イノベーションズアイ編集局 マーケティングコンサルタント N
世の中には様々な賞やランキングが存在する。受賞することで企業側は信用獲得、ブランド価値の向上、競合との差別化、メディアへの露出などのメリットがあり、消費者側から見ると選択基準となったり、商品やサービスを知る機会の一つとなり得る。そういったことからも、過去から今日に至るまで需要の高いコンテンツだ。
しかし、現代の賞やランキングは必ずしも権威あるものとはなっていない。
権威を失った賞の代名詞となってしまったモンドセレクション
「モンドセレクション」という賞は多くの方が一度は耳にしたことあるのではないだろうか。昭和のCMではモンドセレクション金賞受賞というフレーズもよく耳にしたように思う。名の知れた有名な賞ではあるが、現在はほとんど聞かなくなった。
モンドセレクションは食品や飲料、化粧品等を審査するベルギーの民間企業で、評論家などの審査結果により、最高金賞、金賞、銀賞、銅賞が授与される。実は、モンドセレクションは国際的な知名度はそれほど高くなく、日本での知名度だけが異常に高い賞だ。また、日本から出品されたものの約8割が受賞していることも今では有名で、2017年には日本から2,965品の出品があり、420品が最高金賞、1,368品が金賞、合わせて1,788品が金賞を受賞している。実に60%を超える金賞受賞率だ。更に、全出品の90%以上が銅賞以上を受賞している。
2017年の受賞率の異常な高さに対し、テレビ東京の「ワールドビジネスサテライト」という番組が2018年の授賞式でモンドセレクションに取材を行い、その様子がテレビ放映されたことで世間にもこの事実が広まった。実際の審査の良し悪しに関わらず、モンドセレクションは誰でも受賞できると言われるようになってしまい、結果としてモンドセレクションは権威を失った賞の代名詞のように言われることとなった。
日本レコード大賞の権威失墜
YOASOBIの「アイドル」という曲は日本のみならず世界中でヒットし、Youtubeでは4億回再生を突破するなど、近年でも最大級のヒットとなり、2023年の1曲と言われて最初に思い浮かぶような曲だ。審査するまでもなく、レコード大賞はこの「アイドル」だろうという風潮の中、ノミネートさえされなかったことがSNSをはじめ、インターネット記事などでも報じられた。
主催者側の都合で大賞を選んでいることを公言したようなもので、悪い意味で注目を集めることとなった。テレビ放映については、出演アーティストを見るために視聴はされるだろうし、中にはネタとなるようなことを期待して視聴する人もいるだろう。だが、レコード大賞の権威自体はもう無くなったと言ってもよいだろう。この影響はスポンサーの動向や結果発表後の各メディアの扱いなどにすぐに現れるのではないかと思う。
ランキングは信用されているのか
ランキングの記事やテレビ番組は人気があるが、ランキングの元となるデータは調査会社によって基準が異なり、条件を付けることで無理やり1位にしていると思われるものもある。価格帯を分けることで1位にする手法などは有名だが、地域やジャンルの限定や新たなカテゴリーを作るなど、条件を組み合わせることで目的のものを1位にすることは案外できてしまう。投票結果の集計によるランキングでも、投票用紙の配布先を限定したり、投票先を特定の層に案内したりすることで、順位をある程度コントロールすることはできる。
こういったランキングの仕組みが現在では知れ渡っており、口コミなどの評価と乖離があったり、注意書きに都合のよい条件が書かれていたりすると、SNSなどで拡散され逆に悪印象を与える危険性もある。
見せかけ上の権威
話題となる賞やランキングで紹介されれば露出も多くなり、知名度は上がる。信用される賞の受賞や、納得感のあるランキングでよい成績が取れれば、商品やサービスの売上にも大きな効果をもたらす。しかし、一度でも疑念を持たれた賞やランキングの信用は大きく落ち、逆に悪い印象を持たれてしまうこともある。
また、メディアでは受賞の事実だけが報道され、疑念については触れられない。その結果、口コミは加速する。よく目にする「メディアが報道しない真実」など、真実は隠せば隠すほど真実を伝えたい口コミは多くなる。
この結果、権威ある賞やランキングと言われるものでも、メディアや関連する組織が持ち上げることで見せかけ上の権威を保っているだけで、実際には信用されていない賞やランキングが存在することとなる。
口コミの影響力
今の時代の基準の一つとして、口コミが定着している。Amazonの評価コメントや価格ドットコムのコメントが有名だが、インフルエンサーがSNSで発信したり、Youtubeで商品レビューをしたりすることも口コミだ。
表向きは大企業や大きな組織が主催する賞やランキングは権威があるように見えるが、実際には個人の口コミやレビューの方が商品やサービスの評価基準となっていることは多い。
口コミが基準となる理由は、利害関係のない不特定多数の意見という点だ。利用者になりすまし都合のよいレビューやコメントを書くようなステルスマーケティングも存在するが、海外では法規制しているところも多く、日本でも2023年10月より法規制が入り、現在は企業側がステルスマーケティングを依頼できなくなっている。
本当に権威が失墜したもの
日本レコード大賞は歴史ある賞やランキングであっても決して公正なものとは限らないということをこれまで以上に世間に広めてしまった。テレビや大手メディアでは触れなくても、口コミやインターネット記事は瞬く間に広がり、多くの人が知るところとなっている。
言い換えれば、テレビや大手のマスメディアと口コミやインターネット記事との差はより鮮明となり、本当の情報を知る手段はテレビでも新聞でもなく、インターネット上にあるということを改めて世に広めたとも言える。
つまり、本当の意味で権威が失墜したのは、テレビをはじめとするマスメディアだ。都合による賞やランキングが世間に認められなくなったように、都合により報道しない選択は許されなくなっていることを理解しなければならない。モンドセレクションの時にテレビ東京が切り込んだような報道ができれば、まだまだ見直される可能性はあるのだから。
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