第2回
案件動画とステルスマーケティング
イノベーションズアイ編集局 マーケティングコンサルタント N
テレビCMやWebサイト、ダイレクトメールなど様々な販促手法があるが、近年ではYoutubeなどの動画を活用した販促活動が増加している。こうした変化は、発信側の手法の変化だけでなく受け取り側もそれに合わせて変化していることを理解しておかなければならない。
案件動画のジレンマ
案件動画と呼ばれる動画は、多数の登録者を抱える動画配信者に自社の商品やサービスの紹介を依頼し宣伝する、言わば企業と動画配信者とのコラボ動画だ。「この動画はプロモーションを含みます。」などのテロップが画面上に出ているのを目にしたことある方も多いと思う。
人気の動画配信者が、たまたま自社の商品やサービスを取り上げ、動画内で「とてもいい!」などと言ってくれれば、大きな売上に繋がることもあるだろう。だが、そういった効果を期待して動画配信者に案件依頼をしても思ったように効果がでないことも多い。というのも、案件であることを告知した途端に視聴者には広告として受け取られ、善し悪しに関わらず「とてもいい!」と言っていると受け取られてしまうからである。
依頼企業としては、動画配信者の「説得力」こそが本来ほしいのだと思うが、広告と認知されてしまうと知名度の広がり自体は期待できるものの「説得力」を得るのは難しいというジレンマに陥る。
ステルスマーケティング
ステルスマーケティング(以下、ステマ)をご存じの方も多いと思うが、簡潔に言うと広告なのに広告でないように見せかける宣伝方法で、案件動画で言えば、「この動画はプロモーションを含みます。」のテロップを出さず、動画配信者も案件動画であることを告知せずに商品レビューを行うようなものがステマに該当する。
ステマをすることで、先ほどの「とてもいい!」は、動画配信者自身の感想として視聴者に受け取られ、とてもいいものだと認識してもらえる可能性が各段に高くなるわけだ。
ステマのリスク
ステマであることがバレた時に信用を失うのは想像に難くないが、バレなければやっても大丈夫なのだろうか?
ステマした商品やサービスが、紹介されたとおりのすばらしいものだった場合は問題にならないかもしれない。しかし、少しでも不満がでた場合や、伝えるべき短所を伝えていなければ大変なことになる。
視聴者が不満点を発見し、怒りや落胆の声がネット上で発信されると驚くほど拡散される。ステマであるかどうかに関わらず、動画配信者は悪意を持って騙していると認識され、仮に些細な欠点であっても、欠点の方が注目を浴びてしまう。ステマであることがバレなくても、その商品やサービスにはマイナスイメージが付き、動画配信者は信用を失うこととなるのである。
また、2023年10月から日本でも法律でステマが規制されることとなっており、10月になる前に急に動画が削除されたり、過去動画にプロモーションテロップが出るようになったりすると、ステマであることが判明し、炎上してしまう危険性もある。
案件動画の効果的な活用
案件動画であることを告知した上で良いところと悪いところを紹介するような、いわゆる忖度しない動画は依頼企業も動画配信者も信用を得られ、好感を持たれることが多い。また、購入者は長所短所を把握した上で購入しているので、購入後に不満が出ることは少なく満足している口コミが多くなる。
仮にその案件動画による販売効果が芳しくなかったとしても、信用や好感を得られるのであれば、その効果は後々生きてくる。
そういった将来的なことも踏まえ、忖度しないレビューをできる動画配信者に案件動画を依頼するのは効果があると言える。それに動画配信者の観点で公開しない方がよいと思うような場合は、正直にそう言ってくるだろう。また、忖度のないコメントは、欠点の改善や対処策に役立てることができる。考えようによっては、その分野のマニアの意見を聞くことができる良い機会とも言えるだろう。
これからのマーケティング
案件動画に限らず、今後、最新のマーケティング手法が出てきたとしても、まず信用を得ることを意識しなければならない。現代の消費者は情報の選別を常に行う環境で生活をしており、真実を見抜く力がある。その前提で自社や自社の商品、サービスの魅力を伝えるのと同時に信用を得られる内容であることがこれからのマーケティングで必要な要素だ。
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