第10回
現代の裸の王様
イノベーションズアイ編集局 マーケティングコンサルタント N
有名な「裸の王様」という童話は、馬鹿者には見えない世にも珍しい高貴な生地で仕立てたという服を、馬鹿者と思われたくない王様から民衆まで、国中の人々が「本当は何も無い服」を絶賛するというお話だが、インターネットのある現代であれば、すぐに「王様が裸」だという情報は広がるだろう。しかし、リアルな世界ではどうだろうか?「王様、裸ですよ。」と伝えるメディアはあるだろうか?そして、伝えるメディアが現れなかったとき、人々はどう振る舞うのだろうか?
スマホ依存と口コミ
スマホ依存という言葉を聞いたことがある方は多いだろう。スマホ依存の症状としては、以下のようなものが挙げられている。
- ・スマホが手元にないと不安になる
- ・SNSやメールを必要以上に確認する
- ・食事中や会話中にもスマホを見てしまう
- ・スマホの充電が切れることに大きな不安を抱いている
- ・歩きスマホをしてしまう
上記の症状だと多くの人がスマホ依存なのではないかと思われるだろう。その通りで、実は既に多くの人がスマホ依存となっており、スマホ依存であること自体が普通だと思われているだけなのだ。
中でもSNS関連については、知り合いかどうかに関わらず、「いいね!」などのリアクションやコメントをすることで、そのコミュニティに参加し、自分も仕事をしたというような見せかけの達成感を得られるように人の心理を研究して作られている。
SNS以外も、ゲームや動画、掲示板、ニュース記事など、リアクションやコメントを行えるコンテンツがスマホには詰め込まれており、これらのコンテンツを代わる代わる追いかけなければならない気持ちになるように工夫されている。
これらに加え、仲間内のコミュティで同調しておかないと孤立してしまうのではないかと不安を抱えている人も多く、結果、日々このような「しなければならない」作業に追われ、忙しいと感じている。これを効率よくこなすために移動中や隙間時間にスマホをいじることとなり、タイパ(タイムパフォーマンス)を求めることとなっている。
このように多くの人が膨大な時間を費やしている無償の仕事の成果が、口コミとして共有されている。その結果、大手メディアをも上回る影響力を持つメディアとなっているのだ。
メディアリテラシー
現代はメディアリテラシーの高い人が多いと言ってもいいだろう。情報が発信された際にリアクションやコメントが集まり、賛同する人の多さや反論なども含め、多くの口コミを見て総合的に判断することができる。虚偽の情報はもとより、偏った情報を発信して世論操作しようとしてもそう簡単にはいかない。
インターネットメディアに対し、テレビや新聞といった大手マスメディアは、原則として虚偽の情報を発信することはない。しかし、不都合な情報を発信しないことによって情報を偏らせることはあり得る。テレビの情報だけで満足してくれる層も多数いるが、若い人を中心に、多くの人がテレビで得た情報の中で気になったものはインターネットで確認したり、自身の意見を発信したりするため、テレビの報道と言えどもそのまま鵜呑みにされないことも多い。
そういった意味では、既にメディアリテラシーが一定以上ある状態となっており、フェイクニュースも相当凝ったものでないとなかなか信用はされないくらいには、鍛えられているとも言える。
裸の王様となったマスメディア
それでは、大手マスメディアがテレビで発信する真実の情報と、その真実の背景など、報道されていない情報を含めたインターネットメディアとで、情報の受け取り方に乖離があった場合どうなるのだろうか。
世間的には大手マスメディアの発信した情報が正として広まる。しかし、インターネット上にはその背景や詳細の記事、動画、コメントや書き込みが溢れ、多くの人はテレビで報道されていない背景や詳細を知ることとなる。
つまり、「世間一般」という同調圧力のようなものが働き、テレビや新聞の報道を正とした一般人のフリをしつつ、その実、その背景や詳細な情報までを知っているという人が多数存在することとなっている。言わば「裸の王様」のような状態が発生しているのだ。
些細なきっかけ
テレビなどの大手マスメディアに携わる人も、現在のこういった状況は把握しているだろう。変化の必要性を感じて、準備を進めているところだと信じたい。
しかし、現在の状況はそう長くは続かないだろう。裸の王様の物語の最後は、小さな子どもが「王様が裸だ!」と声に出して指摘したことで、同調が崩れ、民衆も裸に見えると口々に話だす。ほんの些細なきっかけで、いつ「裸の王様」であることが白日に晒されてもおかしくはないのだ。
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