第1回
マネジメント改革を指示された
StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ 落藤 伸夫
「中川君が僕を訪ねてくれるなんて、珍しいな。」
「ご無沙汰です、三上部長。でも、そう言わないでくださいよ。同じ社内にいながら、会えない方とはなかなかお会いできないものですから。」
「そうだね。僕だって同期の中でも、何年も合わない奴がいる。同じビルにいるはずなのに。」
「本当に、そうです。」
「ところで今日はどういう風の吹き回しだい?組織戦略室に配属された君に目くじら立てられるようなことは、俺は何もしていないぞ。」
「ご存知だったんですね。私が組織戦略室に異動になったことを。」
「人事の発表を見ていれば、当然わかる。俺だって部長だからな。社内の人事異動は全て見ることができる。」
「お知り合いの方が数多くいる中で、特に私のことを覚えて頂いていて、光栄です。」
「種明かしをすると、中川君の行方を探っていたという訳じゃない。新設の組織戦略室に誰が配置されるかと調べてみたら、中川君の名前を見つけたという訳だ。」
「そうなんですか。やっぱり組織戦略室には、皆さん、関心を持っておられるんですね。」
「それはそうだよ。新設部署にはみんな関心がある。その名前に『組織』や『戦略』が付いていたらなおさらだ。どちらかでも興味があるのに、その両方が付いていると相当、インパクトがある。」
「そうでしょうね。それにプラスして、何をするのか分からないとなると。」
「そうなんだ。新設部署には必ず、設置理由がある。俺たち現場の管理職に知らされるのはほんの数行にしか、過ぎないけどな。でも、それでも大体わかる。中には『我が社には、なぜ今までこの部署がなかったんだろう』と思うような部署もあるからね。でも、組織戦略室は違う。説明を読んでもよく分からない。」
「そうなんですよ。」
「おいおい、そこに赴任した君が分からないのでは困るじゃないか。仕事内容を指示されていないのか?」
「初めは調査・勉強して、6月末までに案を出せということなんです。」
「何をだ?」
「いろいろあるのですが、私のグループはマネジメント・システムということになっています。」
「ほう、マネジメント・システムだって?」
「中でも私のテーマは、現場マネジャーの仕事です。現場マネジャーとは何をすべきか、全面的に見直せと。」
「なかなか良いテーマじゃないか。」
「三上部長だったら、そう言われると思っていました。でも、僕には分からないですよ。組織というものが出来てからそれこそ何百年も、現場マネジャーというポジションが存在します。つまり何百年もの積み重ねがある中で、今更それを見直せだなんて。」
「無理だというのかな?」
「無理も何も、我が社製品の一つであるバルブについて、それを再発明しろと言われているような気分です。バルブだって数百年の積み重ねで今の姿になった。多少の改良は加えられるかもしれませんが、根本から見直すなんて無理です。」
「バルブを例にするなんて、面白いね。確かにバルブを根本的に見直すのは、難しいかもしれない。しかし、マネジメントについてはどうだろう?結構、検討すべき余地が残されていると思うがね。」
「三上部長なら、そう言われると思っていました。だから今日、やって来たという次第です。」
「そうだな。俺のそう言うところが、君には理解できなかったようだからな。」
「理解できなかったどころじゃ、ありません。私が新任課長として三上部長の下で働くことになり、最初の評価面接では肝を冷やしました。『マネジャーとしての自分の仕事は何か、考えているか?』なんて。」
「君は『前任者の引き継ぎ通り、大過なく果たしています』と答えたな。」
「そうです。それで納得してもらったと思ったら、次の面接では、私が今まで見たことのないようなマイナス点でした。それも『マネジャーとしての自分の仕事は何か、考えていないからだ』と言われる。私が猛抗議しなかったら、あの評価のまま、上層部へ報告していたのですか?」
「そうしたいのは山々だけれど、それも酷だと思ってね。だから穏当な評価にしておいたではないか。」
「それはまあ、そうですけど。」
「それに、その事件があったから、今日、君は僕のところに来たのだろう?」
「実はそうなんです。三上部長なら、現場マネジャーの役割について、何かお考えがあるのではないかと思って。」
「おいおい、それを考える役目は俺じゃなくて、君だろう。自分で考えろよ。」
「そう言わないでくださいよ。」
プロフィール
StrateCutions
代表 落藤 伸夫
「世界の先進国では日本だけが一人負け」という話を聞くことがあります。世界が日本を羨んだ “Japan as No.1” からまだ40年ほどしか経っていないのに、当時、途上国といわれていた幾つかの国々の後塵を拝している現状です。
それを打開する方法の一つに、マネジメントを高度化していくことがあると思われます。日本のホワイトカラーの生産性は先進国では最低だといわれていますが、逆に言えば、マネジメントを改善すれば成果を飛躍的に伸ばすことができる可能性があります。
筆者は Bond-BBT MBA でMCS(マネジメント・コントロール・システム)論を学んで以来、マネジメントでもって企業の業績をあげる方法について研究してきました。マネジメントを合理的に考え直し、システムとして組み直すのです。StrateCutionsで行うマネジメント支援の理論的背景や方法論を、お知り頂ければと考えています。
Webサイト:StrateCutions
- 第50回 本シリーズの総括(後編)
- 第49回 本シリーズの総括(前編)
- 第48回 現場マネジャーのマネジメント(総括)
- 第47回 現場マネジャーのマネジメント方法(ピープル・コントロール)(後編)
- 第46回 現場マネジャーのマネジメント方法(ピープル・マネジメント)(中編)
- 第45回 現場マネジャーのマネジメント方法(ピープル・コントロール)(前編)
- 第44回 現場マネジャーのマネジメント方法(リザルト・コントロール)(後編)
- 第43回 現場マネジャーのマネジメント方法(リザルト・コントロール)(中編)
- 第42回 現場マネジャーのマネジメント方法(リザルト・コントロール)(前編)
- 第41回 現場マネジャーのマネジメント方法(アクション・コントロール)(後編)
- 第40回 現場マネジャーのマネジメント方法(アクション・コントロール)(中編)
- 第39回 現場マネジャーへのマネジメント方法(アクション・コントロール)(前編)
- 第38回 現場マネジャーのマネジメント方法(全体像)(後編)
- 第37回 現場マネジャーのマネジメント方法(全体像)(前編)
- 第36回 現場マネジャーの役割(環境整備)(後編)
- 第35回 現場マネジャーの役割(環境整備)(前編)
- 第34回 現場マネジャーの役割(矛盾解消)(後編)
- 第33回 現場マネジャーの役割(矛盾解消)(中編)
- 第32回 現場マネジャーの役割(矛盾解消)(上編)
- 第31回 現場マネジャーの役割(戦略対応)(下編)
- 第30回 現場マネジャーの役割(戦略対応)中編
- 第29回 現場マネジャーの役割(戦略対応)(前編)
- 第28回 現場マネジャーの役割(連携)後編
- 第27回 現場マネジャーの役割(連携)(前編)
- 第26回 現場マネジャーの役割(現場パフォーマンス向上)(後編)
- 第25回 現場マネジャーの役割(現場パフォーマンス向上)(前編)
- 第24回 現場マネジャーの役割(全体像)
- 第23回 上級マネジャーの役割(財務的成果マネジメント)
- 第22回 上級マネジャーの役割(マネジメント体制の再整備)
- 第21回 上級マネジャーの役割(間接部門を含めた部門間の連携)
- 第20回 上級マネジャーの役割(現場マネジャーのマネジメント)(後編)
- 第19回 上級マネジャーの役割(現場マネジャーのマネジメント)(中編)
- 第18回 上級マネジャーの役割(現場マネジャーのマネジメント)(前編)
- 第17回 上級マネジャーの役割(戦略機能)
- 第16回 ベンチャー企業の経営危機に対処する(後編)次の段階に対応する
- 第15回 ベンチャー企業の経営危機に対処する(中編)発展段階説
- 第14回 ベンチャー企業の経営危機に対処する(前編)
- 第13回 上位マネジャーと現場マネジャーとの区切り
- 第12回 現場マネジャーとは課長のこと?上位マネジャーとは?
- 第11回 マネジメント・コントロールを行うシステム
- 第10回 マネジメントをコントロールするとは
- 第9回 普遍的ながら新たな示唆を与えてくれる
- 第8回 マネジメント・コントロール・システム(MCS)とは
- 第7回 マネジメントのシステム化を考える
- 第6回 精神論ではないマネジメント体系を作り出していく
- 第5回 働き手を助けることがマネジメントになるのか?
- 第4回 テイラーが生み出したマネジメント
- 第3回 上司はなぜ、部下に命令できるのか?
- 第2回 徳川家康とマックス・ウエーバーの亡霊に操られている?
- 第1回 マネジメント改革を指示された