マネジメントを再考してみる 前編<現場マネジメント>

第5回

働き手を助けることがマネジメントになるのか?

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
「これまでのお話からすると、三上部長は、日本のマネジメントは身分制や権限の考え方をベースにしており、それでは創意工夫や協力は生まれないので捨てるべきだと仰りたいのですね。」

「そうなんだ。」

「そして、働き手をサポートするというテイラーが始めたマネジメントを浸透させようと。」

「そういうことなんだ。」

「私、三上部長のお話はとっても興味深いと、最初は思ったのですが・・・。」

「最初は思ったけれども・・・。」

「実際には机上の空論なのではありませんか?」


「机上の空論というと?」

「だって、そうでしょう。部長のお話をお聞きして、徳川家康やマックス・ウエーバーの考え方ではうまくいかないかもしれないと、私も思うようになりました。でも、ダメなものを捨てるだけでは、うまくいかないのではありませんか?その代わりに、どんなマネジメントを行うのかを示さないと。」

「だからそれが、上手くいく方法を教えるというテイラーのアプローチを使うんだ。実際の仕事は現場の作業者がするが、彼らとは違った立場にいて、彼らの仕事をより効果的に、効率的にさせる方法を考えるのがマネジャーだ。」

「そういわれて、さっきは私も、そうかも知れないなと思ったんです。」

「だろう。何が問題なんだ?」


「今のお話は、マネジメントとして何をするかについては良い提案なのかもしれません。でも、どうして現場で働く人々がマネジャーの言うことを聞かなければならないかの答えにはならないのではないでしょうか?」

「というと?」

「徳川家康は身分制度が命令権の根拠だと決めました。マックス・ウエーバーは権限が根拠だということにしました。不完全かも知れませんが、部下が上司の言うことを聞かなければならない理由を、提示したんです。でも、先ほどのテーラーの説明では、部下が上司の言うことを聞かなければならない理由は提示されていないように思います。極端なことを言えば、部下は上司の言うことを聞かなくても良いのではないかと。」

「良いところに気が付いたな。」

「テイラーのアプローチは、マネジャーの機能としては良い話かも知れません。でも、部下が上司の言うことを聞かなければならない理由がないならば、そういう仕組みをマネジメントとして取り込むことはできないと思います。組織が混乱してしまいますから。」

「確かに。」


「では、今の話はなかったことにして良いですか?」

「そんな訳がないだろう。マネジャーは部下が上手く仕事をし、良い成果を出すサポートをする。これがマネジメントの、少なくとも今のところ、一番良い定義なのだから。」

「定義が良くても機能しない仕組みは導入できません。」

「もちろん、うまく機能する仕組みはあるさ。マネジャーのいうことを聞いて良い成果を出せば、働き手が高く評価されるという仕組みだ。それを、ドラッカーが指摘したんだよ。」

「というと?」

「現場の人々は、優れた製品を優れた品質で、優れたパフォーマンスで実現することを求められている。」

「仰るとおりです。」

「それを実現すれば高く評価され、実現しなければ低く評価されてしまう。あまりにもひどいと、罰せられるかも知れない。」

「それが組織というものですね。」


「こういう状況の時、働き手にとって高い評価を得られる方法を上司が教えてくれたら、どうだろう?」

「もちろん、うれしいですよね。」

「言うことを聞くか、聞かないか?」

「もちろん、言うことを聞くでしょう。」

「甘い言葉だけではないぞ、時には厳しいことも言う。それでもか?」

「上司の言うことを聞いていれば、長い目で見れば高い評価が得られ、自分にとって好ましい状況が得られると分かっていれば、聞くでしょう。」

「聞きにくいような厳しいことを、モチベーションがあがるような仕方で指示してくれたら?」

「それならもっと、上司の話を聞こうという気持ちになりますね。」

「そこなんだ!」


「ドラッカーは、部下が上司の言うことを聞く理由のことを、少し難しい言葉『正統性』と表現していたようだ。」

「ふうん、正統性ですか?」

「例えば江戸時代の正統性は身分制度だ。」

「マックス・ウエーバーの組織では権限ですね。」

「そうだ。では、テーラーの組織における正統性は何だと思う?」

「さっき言われた、上司の言うことを聞いておけば良いことがあると、部下が認めるということですか?」

「そうなんだ。もっと広くいえば、マネジメントのおかげで部下が良い仕事をし、高いパフォーマンスを出せるようになった。それを組織全体が評価し、だったらマネジメントを受け入れよう、それを実践して組織全体として良い成果を生み出そう。そういう意思が共有されることではないかと思う。」

「なるほど。」

「こう考えると、部下を支援するというアプローチが、あながち夢物語ではないと思えるだろう?」

「そうですね。それにさっき、部長がドラッカーのことを引き合いに出したくせに、テーラーのことを話し始めた意味が分かりましたよ。」

「テーラーは、現場の作業者がよりよい仕事ができるよう支援することがマネジメントだと定義付けた。」

「しかし、それではなぜ上司が部下に命令できるか分からないので、『上司の言うことを聞いておけば上手くいくと部下が認める』ことに正統性があると、ドラッカーが指摘したのですね。」

「そうなんだ。」

「なるほど、この構図があれば、プロフェッショナルな部下に、上司が命令できますね。我が社にぴったりなマネジメントかも知れません。」

 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫

「世界の先進国では日本だけが一人負け」という話を聞くことがあります。世界が日本を羨んだ “Japan as No.1” からまだ40年ほどしか経っていないのに、当時、途上国といわれていた幾つかの国々の後塵を拝している現状です。

それを打開する方法の一つに、マネジメントを高度化していくことがあると思われます。日本のホワイトカラーの生産性は先進国では最低だといわれていますが、逆に言えば、マネジメントを改善すれば成果を飛躍的に伸ばすことができる可能性があります。

筆者は Bond-BBT MBA でMCS(マネジメント・コントロール・システム)論を学んで以来、マネジメントでもって企業の業績をあげる方法について研究してきました。マネジメントを合理的に考え直し、システムとして組み直すのです。StrateCutionsで行うマネジメント支援の理論的背景や方法論を、お知り頂ければと考えています。


Webサイト:StrateCutions

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