マネジメントを再考してみる 前編<現場マネジメント>

第47回

現場マネジャーのマネジメント方法(ピープル・コントロール)(後編)

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
「現場マネジャーがマネジメントするときに使えるツールとして、ピープル・コントロールを教えてもらっているところです。ピープル・コントロールとは『人を意のままに操る』なんて感じで捉えられそうですが、実際には、人の心理を理解して、それを活用しながら仕事してもらうためのツールのようですね。」

「いい感じに、理解できたではないか。」

「いやいや、三上部長のご説明のおかげですよ。」


ピープル・コントロールの長所

「そんな風に聞くと、ピープル・コントロールは理想的なマネジメント方法だと感じますが、実際のところはどうなのでしょうか?」

「そうだな。歴史的に見ても、ピープル・コントロールが確立されたのはアクション・コントロールやリザルト・コントロールよりも後のことだと思われる。そういう意味では、アクション・コントロールやリザルト・コントロールの欠点をフォローするような位置付けにあるのかもしれない。」

「確かに。でも、具体的にいうと、どんな感じなのですか?」


成果や行動を定義する必要がない

「アクション・コントロールやリザルト・コントロールは、『何が望ましい行動かを組織が明確に定義できる』若しくは『何が望ましい成果かを組織が明確に定義できる』という要件が満たされなければならない。」

「それって、意外と難しい要件でしたね。」

「そうなんだ。だからこれら2つのコントロールは使える場面が限られる。その点、ピープル・コントロールは、こういう要件がない。広く使えるわけだ。」

「なるほど。他にもありませんか?」


変化に対応でき、普遍的に使える

「まだあるぞ。ピープル・コントロールには、業務の変化に対応しやすい、というか普遍的に使えるというメリットがある。」

「ほう。どういう意味ですか?」

「例えばあるファストフード店チェーンは、従業員に一定レベルの対応をさせるために詳細なマニュアルを作成していると聞く。」

「そうですね。挨拶のやり方やお金の受け渡し方、掃除の仕方に至る詳細なマニュアルを整備しているという噂を聞きました。」

「そこで新製品を発表したり、調理の手順を変えるとなると、それぞれのマニュアルを作成しなければならない。全ての店舗に配布して、教育も行う必要があるかもしれない。大変な手間だし、費用も必要だ。」

「確かに。」

「一方でピープル・コントロールでは『顧客に喜ばれる仕事をしよう』という雰囲気を形成し、強化していくことになる。」

「そうですね。ある評判の良いコーヒー店チェーンにはマニュアルがないと聞きました。」

「こちらのチェーンは、ピープル・コントロールを選んだということなんだろうな。」

「なるほど。」


弊害があまりない

「ピープル・コントロールには弊害があまりないというメリットもある。アクション・コントロールやリザルト・コントロールは、究極的には評価・報酬が原動力となるので弊害が発生する恐れがある。人々は、高い評価・報酬を得るために監視されている時だけ努力を払ったり、モニタリングされている数値を短期的に向上させるために、その他の重要な項目について手を抜いたり、長期的には害になる行為を行うかもしれない。数値をごまかすことすらある。」

「我が社でも、それほど極端ではありませんが、それも問題になっていますね。」

「そうなんだ。一方でピープル・コントロールの場合には、モニタリングや評価・報酬は必然ではないので、この弊害が避けられることが少なくない。」

「以上のようなお話だと、ピープル・コントロールは、アクション・コントロールやリザルト・コントロールが行えない時でも使える、重宝なコントロール手段といえそうですね。」

「そうなんだ。」


ピープル・コントロールの短所

「ピープル・コントロールの長所はわかりました。逆に短所はないのですか?なかったら、最強のマネジメント方法になりますが。」


有効性にばらつきがある

「残念ながら、ない訳ではない。その第1は、その有効性が個人やグループ、企業、社会等により大きく違いがあることだな。」

「確かに、人それぞれですものね。」

「同業種・同業態で同一の能力・資質の人々に同一の仕事をやってもらう場合でも、アメリカで有効なピープル・コントロールが日本で有効とは限らない。日本国内でも、ある企業で有効だからといって別の企業で有効ではないかもしれない。大都市の工場と地方の工場でも違う可能性がある。同じ職場でも、人やグループによっては、全く違う効果をもたらす場合さえ、あり得る。」

「確かにそうです。」


作用や効果が間接的

「第2は、してもらいたいことを明確に示すアクション・コントロールや、実現してもらいたいことを明確に示すリザルト・コントロールとは違って、作用や効果が間接的であることだ。」

「それも、分かるような気がします。」

「このため、あるピープル・コントロールを実践しても、人々の行動やそれによる成果の変化として現れるまで時間がかかるので、それらの作用・効果とコントロールとの因果関係を特定するのが難しかったりする場合がある。」

「それでは、PDCAサイクルでもってピープル・コントロールを改善しようとする取組みが難しくなりますね。」

「そうなんだ!」

 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫

「世界の先進国では日本だけが一人負け」という話を聞くことがあります。世界が日本を羨んだ “Japan as No.1” からまだ40年ほどしか経っていないのに、当時、途上国といわれていた幾つかの国々の後塵を拝している現状です。

それを打開する方法の一つに、マネジメントを高度化していくことがあると思われます。日本のホワイトカラーの生産性は先進国では最低だといわれていますが、逆に言えば、マネジメントを改善すれば成果を飛躍的に伸ばすことができる可能性があります。

筆者は Bond-BBT MBA でMCS(マネジメント・コントロール・システム)論を学んで以来、マネジメントでもって企業の業績をあげる方法について研究してきました。マネジメントを合理的に考え直し、システムとして組み直すのです。StrateCutionsで行うマネジメント支援の理論的背景や方法論を、お知り頂ければと考えています。


Webサイト:StrateCutions

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