Catch the Future<未掴>!

第58回

突きつけられる課題と、その対応方法

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



2025年の幕が開けました。今回は新年冒頭の回として、現状と今後の方向性について考えてみます。



賃上げにより突きつけられた生産性向上という課題

昨年は元日から北陸地方で大きな地震があり波乱のスタートで、結局一年を通して灼熱の夏や風水害など自然現象に振り回されました。

経済については玉虫色の動向だと感じています。物価が上昇したことで日銀が「金利のある世界」への回帰を決断しましたが、もともと原料やエネルギー等の価格上昇を主な原動力とした物価上昇だったため生活者の購買力が大きく低下、政府は賃上げを要請しました。

産業界がそれに応じて未曽有の賃上げラッシュとなりましたが、それがどのような影響を及ぼすか、先が見えない状況です。


政府や産業界は賃上げにより経済が拡大スパイラルに入るよう望んでいるでしょう。利益が出ている企業が労働者への配分を増やすことで、そのメカニズムが働く余地はあります。

しかし、それが国内需要の目覚ましい増加に繋がって経済活動が活発化するのか、効果は不透明です。家計の支出増加は価格上昇に吸収されてしまい、生産量の増加にはつながらないからです。


一方で企業が従来、社内留保を強化していたのは、パンデミックのようなこれまで認識されていなかったリスクへの備えが必要と分かったため、そしてIT技術の急速な発展等により莫大な投資が必要となったので、原資確保の意味合いがあったと考えられます。その放出が国際的競争力低下に繋がらないよう、祈るばかりです。


また賃上げが、十分な利益を生んでいる企業ばかりでなく、それほど利益を生んではいない企業にも浸透していることに注意が必要と考えられます。

一つには、あまり利益を生んでいない中で人材確保等のために賃上げせざるを得ないという形で(それは収益力の一層の低下と財務体質の弱体化に繋がります)させるという形で、そしてもう一つに、労働分配率を上げられないので従業員を確保できず、事業活動の遂行に支障を来たす、という形で影響を与えています。

前者の形で影響を受ける企業は、状況が改善しなければ息切れして後者の形で影響を受ける企業に切り替わってしまう可能性があります。

この流れを変えるには生産性の向上が必要です。



「小・零細企業の淘汰が生産性を向上させる」との誤解

「日本全体の生産性向上は、低い企業の淘汰で実現できる。結果的に生産性の高い企業が残るからだ。生産性が低迷する第一の理由は、規模の経済が働いていないことなので、小・零細企業をどんどん淘汰して中・中堅企業に吸収させていけば、日本は再興できる。」

それは、言葉でものごとを考える罠に陥っています。企業の規模は市場等からの求めに応じて決まります。


上の議論を唱導する論者の会社を見れば、それは明白です。その会社は彼が経営に参画してから飛躍的に規模を拡大、今では中・中堅企業にまで成長しているでしょうか?市場が求める規模に留まっています。中・中堅企業に吸収されることもありません。

なぜなら、当該企業はその規模で活躍することが最適だからです。


市場が求める規模に留まる小・零細企業が減ると、どうなるか?淘汰されると、地域やサプライチェーンで必要な役割を果たすプレイヤーが失われます。中・中堅企業に吸収されると、プレイヤーは存続しますが、市場が求める動きができず企業の存在感も薄れる可能性があります。

いずれにせよ地域やサプライチェーンというエコシステムを成立させる鎖の環が途切れてしまいます。



外貨獲得・イノベーションそして作業効率化・適材適所

一方で生産性は、改善が企業存続の、そしてエコシステムの存続の要となります。生産性が高いより低い方が良いとの状況は、少なくとも現在の日本においてはあり得ません。

昨年は「輸出拡大による外貨流入」そして「その原動力となるイノベーション実現」を考えました。

<未掴を掴む原動力を歴史的に探る(外貨獲得)>

https://www.innovations-i.com/column/ctf/50.html

<高付加価値化へのイノベーション>

https://www.innovations-i.com/column/ctf/35.html


一方で作業効率化や無駄の排除等による生産性向上も大切です。小・零細企業ではIT技術等導入の遅れが生産性低迷に繋がっていると指摘されており、これまで以上に取り組んでいくことで企業基盤をより強固にできます。

「適材適所」も挙げられます。業務オペレーションが優秀でも、需要が少ない製品・サービスを扱ったのでは生産性に繋がりません。自社能力を生かせる市場を選ぶ事業転換が切り札になる場合があると、考えられます。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、未来を掴んでみてください。


<印刷版のダウンロードはこちらから>





なお、冒頭の写真は Copilot デザイナー により作成したものです。

 

プロフィール

中小企業診断士事務所 StrateCutions 代表
合同会社StrateCutions HRD 代表社員
落藤 伸夫

早稲田大学政治経済学部卒(1985 年)
Bond-BBT MBA 課程修了(2008 年)
中小企業診断士登録(1999 年)
1985 年 中小企業信用保険公庫(日本政策金融公庫)入庫
2014 年 日本政策金融公庫退職
2015 年 中小企業診断士事務所StrateCutions 開設
2018 年 合同会社StrateCutions HRD 設立


Webサイト:StrateCutions

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