第41回
資本主義が新しくなるのか別の主義が出現するのか
StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ 落藤 伸夫

明るい今後を迎えるためには現在の適切な把握が必要と考えられます。資本主義は「お金がモノを言う」資本主義1.0から「不足しがちなお金を集めるのが上手な者が勝利者になる」資本主義2.0、そして「新しいビジネスをイノベーションできるリーダーが主導する」資本主義3.0と進化を遂げてきたと考えられます。今回はこの点を、もう少し掘り下げて考えてみます。
人口減少に対応するため必要な高付加価値化
最近「新しい資本主義」と言われることが多くなりました。確かに資本主義は変革を遂げてきていると考えられ、それを資本主義1.0から3.0への移行と捉えることができそうです。
一方で心配になるのは、最近に言われている「新しい資本主義」はこの変革を踏まえているのか?国の政策や企業の戦略を説明する文書等を読むと、あまりそうは感じません。資本主義2.0の増強を目指しているように感じられます。
確かに日本では国家を超えるほどの富を集め蓄積するような富豪事業家は存在しません。このため「資本主義3.0には突入していないので、それを前提とした政策や戦略は必要ない」との主張にも正当性があるようにも思えます。
一方で彼らが強力に進めている「ITやクラウド、AIなどのツール等、あるいは新素材や新エネルギー等、新しいビジネスモデル等などをゼロから想起して企画・実現・量産して世の中・人々の生活を変えていく」という取組に参加しなくて良いのかと言うと、それは違うと思われます。現在に世界中で生まれる付加価値の増分(2000年以前に生産されていた付加価値に、2000年以降にプラスアルファとして上積みされた部分)のほとんどがITやクラウド、AIなどのツール等、あるいは新素材や新エネルギー等、そしてこれらを活用した新しいビジネスモデル等などから生み出されていることを鑑みると、この分野で消極的だと栄えていくことは難しいでしょう。
「敢えて流れに逆らうという道もある、成長だけが選択肢ではない」との声もあると思われますが、ここで筆者が主張するのは単なる拡大主義ではありません。「人口が減少しているので、国を、そしてそこに住む人々の生活を守るため一人当たりのコストは高くなる。現状を維持するために高付加価値化が必要になる」と言うことです。
高付加価値化に必要な要素
これまで「資本主義」というパラダイムを「貿易と産業が、国政よりも営利目的の個人的所有者たちに制御される」という定義から考えました。ここで別の分析を加えたいと思います。
世界の歴史においては資本主義以前に重農主義や重商主義などと表現される期間がありました。このような名称で呼ばれるのはなぜか?「各々時代の原動力となった資源や活動等を表現した」と言えると思います。
資本(お金)は以前から存在していましたが、工場生産が始まって生産力が増強されることで存在意義を増したのです。重農主義や重商主義の流れからすると重工業主義と言っても良かったのではないかと感じますが、時代をドライブしたのはお金の方だったので資本主義と呼ばれるようになったとも考えられます。当時はお金は「金(金属)」がメインで希少性があり調達が難しかったので、それにも着目したのかも知れません。
では今はお金が世の中をドライブしているのか?お金を希少性があるものとして重視するのか?少なくとも資本主義3.0パラダイムでメイン演者である富豪事業家たちは、そうは思っていないでしょう。「お金は十分にあるので、ポイントになるのは人材だ」と答えると思います。
それも資本主義2.0時代に求められた「人手」という意味での人材ではありません。ITやクラウド、AIなどのツール等、あるいは新素材や新エネルギー等、そしてこれらを活用した新しいビジネスモデル等などを最大限に活かしていくビジネスを描き、実現することで、新たな付加価値を生み出していける人材だと思われます。加えて新たなツール等、新素材や新エネルギー等、ビジネスモデル等などをゼロから想起できる人材も求められるでしょう。
これからは「人」が重要になる世界になるのです。この観点からすると、今から日本が目指すべきは「(例えば)人本主義」ではないかと思われます。
今、日本は人本主義か?筆者は全体を概観できないので確言できませんが、最先端技術を身に着けた博士課程修了者(ポスドク)が就職先に困る事態が多く発生、企業が「大学レベルの即戦力が欲しい」と希望するようでは人本主義は進展していない、これから力強く進展するとも思えない状況にあると考えられます。
過去の延長線上を進むのではなく、新たなパラダイムを切り拓く人材を育て活躍の場を与える必要があると考えられます。
本コラムの印刷版を用意しています
本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、未来を掴んでみてください。
冒頭の写真は写真ACから きんやぎ さんご提供によるものです。きんやぎ さん、どうもありがとうございました。
プロフィール
落藤伸夫(おちふじ のぶお)
中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA
日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた。総合研究所では先進的取組から地道な取組まで様ざまな中小企業を研究した。一方で日本経済を中小企業・大企業そして金融機関、行政などによる相互作用の産物であり、それが環境として中小企業・大企業、金融機関、行政などに影響を与えるエコシステムとして捉え、失われた10年・20年・30年の突破口とする研究を続けてきた。
独立後は中小企業を支える専門家としての一面の他、日本企業をモデルにアメリカで開発されたMCS(マネジメント・コントロール・システム論)をもとにしたマネジメント研修を、大企業も含めた企業向けに実施している。またイノベーションを量産する手法として「イノベーション創造式®」及び「イノベーション創造マップ®」をベースとした研修も実施中。
現在は、中小企業によるイノベーション創造と地域金融機関のコラボレーション形成について研究・支援態勢の形成を目指している。
【落藤伸夫 著書】
『日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル』
さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。
Webサイト:StrateCutions
- 第65回 企業が描きたい大戦略
- 第64回 大戦略を描いていくことの大切さ
- 第63回 技術か経営かではなく、技術も経営も
- 第62回 ニッサン・ホンダの破談をどう捉えるか
- 第61回 社会システム変化の軸となる主体性
- 第60回 社会システム視座の必要性
- 第59回 再構築が望まれるエコシステムの姿
- 第58回 突きつけられる課題と、その対応方法
- 第57回 「好ましいインフレ」を目指す取組
- 第56回 「好ましいインフレ」を目指す
- 第55回 地域の未掴をエコシステムとして描く
- 第54回 地域の未掴はどのようにして探すのか
- 第53回 日本の未来を拓く構想と新しい機関
- 第52回 新政権に期待すること
- 第51回 日本ならではの外貨獲得力案
- 第50回 未掴を掴む原動力を歴史的に探る
- 第49回 明治時代の未掴、今の未掴
- 第48回 オリンピック会場から想起した日本の出発点
- 第47回 都知事選ポスターから考える日本の方向性
- 第46回 都知事選ポスター問題で見えたこと
- 第45回 閉塞感を打ち破る原動力となる「気概」
- 第44回 競争力低下を憂いて発展戦略を探る
- 第43回 中小企業の生産性を向上させる方法
- 第42回 中小企業の生産性問題を考える
- 第41回 資本主義が新しくなるのか別の主義が出現するのか
- 第40回 「新しい資本主義」をどのように捉えるか
- 第39回 日本GDPを改善する2つのアプローチ
- 第38回 イノベーションで何を目指すのか?
- 第37回 日本で「失われた〇年」が続く理由
- 第36回 イノベーションは思考法で実現する?!
- 第35回 高付加価値化へのイノベーション
- 第34回 2024年スタートに高付加価値化を誓う
- 第33回 生成AIで新価値を創造できる人になる
- 第32回 生成AIで価値を付け加える
- 第31回 価値を付け足していく方法
- 第30回 新しい資本主義の付加価値付けとは?
- 第29回 新しい資本主義でのマーケティング
- 第28回 新しい資本主義での付加価値生産
- 第27回 新しい資本主義で目指すべき方向性
- 第26回 新しい資本主義に乗じ、対処する
- 第25回 「新しい資本主義」を考える
- 第24回 ChatGPTから5.0社会の「肝」を探る
- 第23回 ChatGPTから垣間見る5.0社会
- 第22回 中小企業がイノベーションのタネを生める「時」
- 第21回 中小企業がイノベーションのタネを生む
- 第20回 イノベーションにおける中小企業の新たな役割
- 第19回 中小企業もイノベーションの主体になれる
- 第18回 横階層がイノベーションを実現する訳
- 第17回 イノベーションが実現する産業構造
- 第16回 ビジネスモデルを戦略的に発展させる
- 第15回 熟したイノベーションを高度利用する
- 第14回 イノベーションを総合力で実現する
- 第13回 日本のイノベーションが低調な一因
- 第12回 ミスコンから学んだ将来の掴み方(2)
- 第11回 ミスコンから学んだ将来の掴み方(1)
- 第10回 Futureを掴む人になる!
- 第9回 新しい世界を掴む年にしましょう
- 第8回 Society5.0・中小企業5.0実践企業
- 第7回 なぜ、中小企業も5.0なのか?
- 第6回 中小企業5.0
- 第5回 第5世代を担う「ティール組織」
- 第4回 「望めば叶う」の破壊力
- 第3回 5次元社会が未掴であること
- 第2回 目の前にある5次元社会
- 第1回 Future は来るものではない、掴むものだ。取り逃がすな!