Catch the Future<未掴>!

第38回

イノベーションで何を目指すのか?

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 

2024年2月22日に日経平均株価(Nikkei225)がバブル期を超えて過去最高額を超えたと話題になっています。「これで日本は失われた〇年から脱却できる(できた)」と考える人もいるかと思います。もし「失われた〇年」を株価だけで判断するなら、その判断は間違いではありません。

一方で庶民の生活のし易さなどまで含めると、失われた〇年からの脱却はまだまだと言わざるを得ません。将来の展望まで含めて、例えば若者たちが「私たちの老後も安泰だ。しっかりと蓄財した上で年金まである」と感じられることを条件とするなら、状況は良い方向に転換したとは言えず、従来通りの閉塞感が続いていると感じます。今回は、このような状況を打破する方向性について考えていきます。

株価の上昇は何からもたらされたのか

「今回の株価上昇は企業が儲かっていることを評価してのことなのでバブルではない」とのコメントを耳にします。このコメントは事実でしょう。しかし「だから日本の将来は明るい。失われた〇年から脱却できる」と言われると違和感があります。他の経済指標が、今までのトンネルを抜けるほどの力強さで上昇基調であるとは思えないからです。

代表例として、GDPはそれほど増えていません。企業が儲かっているのに、付加価値の総計であるGDPが拡大していないのは何故か?「企業は儲かっているが、他が儲かっていないから」、もっと踏み込むと「日経平均株価を構成するような企業は儲かっているが、他の企業や国内の企業以外のパートが儲かっていないから」と仮説を立てることができます。

「大企業は従業員や系列企業等への再分配の抑え込むことで儲けている」との指摘は根強いものがあります。原材料やエネルギー価格が高騰する中、下請企業等が価格転嫁に応じてもらえず利益幅が圧縮されているとも聞きます。これらを鑑みると大企業の利益は今まで以上に付加価値が生産されたからというより、パイの奪い合いの中で大企業が勝利者となったことによるものという仮説が拭えません。

このため大企業が元気でも、その恩恵が従業員(正社員だけでなく派遣社員等も含む)や系列企業、そしてその従業員に波及していくというシャワー効果が生まれていないのだと考えられます。この状態では、国民全体が明るい展望を持つのは難しいでしょう。

企業の儲けを否定しない方向性

「だから大企業は儲けを溜め込むのではなく、それを吐き出せ」との声を聞くこともありますが、それも危険だと考えられます。2020年からのコロナ禍は疫病という新しい形での経済失速となりました。巨大企業・産業の破綻や自然現象による経済減速は一時的な現象でそれを通り越せば回復に向かいます。景気加熱による在庫調整による減速も期間は長引きますが時間と共に回復します。

しかし疫病の場合は、それが続く限り経済活動が抑え込まれ、2年以上も続く場合があることが明らかになりました。その状況で持続を目指すなら今まで以上の利益が必要と分かったのです。

今まで世界的水準との比較では薄い儲けで満足していた日本企業が欧米並みの厚い利益を求め実現したことを歓迎して、株価が上昇したのでしょう。このため「利益を吐き出し、以前のような薄い利益に甘んじろ」との主張は時代に逆行し、ひいては日本経済に禍根を残す可能性があると考えられます。

ゴールは同じだが受け入れられるアプローチ

「それでは八方塞がりだ」との声がありそうですが、そう考える必要はないと思います。海外から求められる新価値を実現するイノベーションで付加価値の増大を目指すのです。今まで日本企業は最先端技術の開発など重厚長大なイノベーションだけに重きを置いていたとの印象ですが、これだと莫大な費用が掛かる一方で思うように回収できません。

これに既存イノベーションを利用・普及させ、恩恵を浸透させる方向性を加えることで両者が加速し、受け入れてもらえ企業が儲かる、ひいては日本全体として明るい未来が見えてくる、という構図です。

「もちろんそう考えているが良いアイデアが生まれてこない。」技術志向が発想に蓋をしているのかもしれません。日本企業の方々から話を聞くと「常識を超える技術で、常識では考えられない製品を作りたい」との声を聞くことが多いと感じています。

一方で海外からは「常識では考えられない利便性、生活、幸福を提供したい」との声が聞こえてきます。「経路が違うだけでゴールは同じだ。」そうだと思います。だから「ゴールが同じなら、ユーザーに受け入れられる発想法を採用するのは如何だろうか」と提案したいのです。

技術的には同等あるいは凌駕する製品を受け入れてもらうには、この発想の転換がカギになるのではないかと考えられます。

 

本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、未来を掴んでみてください。
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冒頭の写真は写真ACから mybears さんご提供によるものです。mybears さん、どうもありがとうございました。

 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた。総合研究所では先進的取組から地道な取組まで様ざまな中小企業を研究した。一方で日本経済を中小企業・大企業そして金融機関、行政などによる相互作用の産物であり、それが環境として中小企業・大企業、金融機関、行政などに影響を与えるエコシステムとして捉え、失われた10年・20年・30年の突破口とする研究を続けてきた。

独立後は中小企業を支える専門家としての一面の他、日本企業をモデルにアメリカで開発されたMCS(マネジメント・コントロール・システム論)をもとにしたマネジメント研修を、大企業も含めた企業向けに実施している。またイノベーションを量産する手法として「イノベーション創造式®」及び「イノベーション創造マップ®」をベースとした研修も実施中。

現在は、中小企業によるイノベーション創造と地域金融機関のコラボレーション形成について研究・支援態勢の形成を目指している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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