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第26回

新しい資本主義に乗じ、対処する

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



最近「新しい資本主義」という言葉を耳にすることが多くなってきましたが、その意味は分かっているようで分かっていないのではないかと感じられました。前回は新しい資本主義について「お金が変わった」という観点から分析し得るとの提案を行いました。今回は、それから得られる示唆について考えてみます。



資本主義の変化

資本主義社会とは何か?産業革命等により生産や売買ビジネスで資本家となった人たちが中心となってビジネスひいては国家をコントロールする社会のことを指すと考えられます。この場合、非常に大きな役割を果たすのが「お金」です。資本主義が勃興した頃は金で、希少な資源の争奪戦としてビジネスが発展しました。


ただ、経済の発展スピードと比較すると、金の生産量はそれほど伸びません。モノ(サービス等を含む)が増えるにつれて金との比較でモノの価格が下げざるを得なくなる事態が生じると、資本家にとって魅力がありません。このため各国は金本位制から離脱、当局によって発行・管理される紙幣(日本ならば日本銀行券:法定通貨)を「お金」としたのです。そういうお金を中心に「今までの資本主義」が形成されていました。


一方で今、「お金」が変わりつつあります。法定通貨ではない暗号通貨などが「お金」として台頭しているからです。「商品相場と同様の経済的仕組みが、通貨を自称する資産をベースに行われる」とは、「お金」が当局の管理から離脱することを意味します。ひいてはそれは、資本家の意図、敢えて表現すると「欲望」をストレートに反映する通貨が経済を支配することを意味しています。「新しい資本主義」はこの状況を前提に、波に乗り、かつ必要な対策を打つ必要があると考えられます。



新しい資本主義社会への対策とは

新しい資本主義社会が「資本家の欲望がストレートに反映される社会」と定義されるとなると、これへの対策が必要になることについて理解できると思います。中心となるのは「資本家でない人たち」、すなわちサラリーマンや小零細企業オーナー(個人事業主を含む)、あるいは引退後の年金生活者などが不当な扱いを受けないよう取り計らうことです。



新しい資本主義に乗じる

新しい資本主義を迎えるにあたって、先に必要な対策を打つ方から検討しました。しかしこれは、新しい資本主義にネガティブな姿勢で臨むよう勧める意図ではありません。「サラリーマンや小零細企業オーナー、年金生活者等を守るため、新しい資本主義を主導していく資本家は排除する、あるいは活動が難しくなるよう規制していく」という姿勢では、これからの時代を乗り切っていくことは難しいでしょう。逆に「新しい資本主義を泳いでいく資本家に活躍してもらい、それで呼び集められたお金をサラリーマンや小零細企業オーナー、年金生活者等に配分することで守っていく」方向性が良いと考えられます。


では新しい資本主義を泳ぐ資本家に活躍してもらうためには、どうすれば良いか。彼らが「魅力的」と思うプロジェクトを企画、彼らに参画させるというアプローチがあります。今までなかった発想で社会や産業等の問題を解決する、それを行うために大きなお金が必要になる、そして実現すれば投下したお金の何倍もが資本家に返ってくると共に、世の中にも多額のお金が波及していくプロジェクトです。それに取り組み、実現することで資本家が「大きなお金を動かした末に、更に大きなお金を得ることができた」メリットを受けるだけでなく、社会や産業等も「問題が解決された」ことと「経済活動が活発化した」というメリットを享受できるようになるという、win-winの構図を描くのです。


「そんな都合の良いことが可能なのだろうか?」実例があります。モノにセンサーを付けてインターネットで把握、種々の場面で活用する“IoT”においてドイツは、製造業での活用を国家的プロジェクト「インダストリー4.0」として推進、世界をリードしています。そこに米国やヨーロッパ各国、日本、中国などの企業(その裏には新しい資本主義の資本家がいる)が参加して「問題解決」と「莫大な富の創出」を実現しました。


政府が発表する「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画 2023改訂版」を見ると、このようなプロジェクトが含まれていないことが気になります。もっともこのようなプロジェクトは秘密裏に進めるのが肝ですから、そこにはわざと書かれていないのかもしれません。後者の推測が当たっていて欲しいと思う今日この頃です。

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/pdf/ap2023.pdf




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、未来を掴んでみてください。


<印刷版のダウンロードはこちらから>





なお、冒頭の写真は写真ACから RRice さんご提供によるものです。RRice さん、どうもありがとうございました。


 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた。総合研究所では先進的取組から地道な取組まで様ざまな中小企業を研究した。一方で日本経済を中小企業・大企業そして金融機関、行政などによる相互作用の産物であり、それが環境として中小企業・大企業、金融機関、行政などに影響を与えるエコシステムとして捉え、失われた10年・20年・30年の突破口とする研究を続けてきた。

独立後は中小企業を支える専門家としての一面の他、日本企業をモデルにアメリカで開発されたMCS(マネジメント・コントロール・システム論)をもとにしたマネジメント研修を、大企業も含めた企業向けに実施している。またイノベーションを量産する手法として「イノベーション創造式®」及び「イノベーション創造マップ®」をベースとした研修も実施中。

現在は、中小企業によるイノベーション創造と地域金融機関のコラボレーション形成について研究・支援態勢の形成を目指している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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