Catch the Future<未掴>!

第39回

日本GDPを改善する2つのアプローチ

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



日経平均株価がバブル期の最高値を超え、4万円の壁も突破して話題となっています。NISAが制度改正されたことを受けて投資への関心が高まっていると感じられます。一方でGDPの低迷などを見ると「これで日本は失われた〇年から脱却できる(できた)」と考えるのは早計な印象があります。この状況を打破するには何ができるか?今回も考えていきます。



GDPとは無関係に生じた株価上昇

今回の株価上昇は、それを構成する大企業が利益を伸ばしていることを好感しての現象で、日本が活況を取り戻すトレンドにあると評価してのことではないと感じられます。GDPが低迷しているからです。日本全体が停滞している中で、大企業が頑張っているという見方もできれば、ゼロサムゲーム(パイは同じ環境下での奪い合い)でこれら企業が勝利しているとの見方も可能と思われます。


但し「大企業は儲けを溜め込まず吐き出せ」との姿勢は危険だと考えられます。コロナ禍は疫病という今までに日本が体験したことのない危機が大きな経済失速に繋がることをまざまざと見せつけました。それを乗り越えるには、そして更に発展するには今まで以上の利益が必要です。日本企業が世界的水準並みの厚い利益を実現したことを歓迎しての株価上昇と解釈でき、このトレンドは維持していく必要があると考えられます。


「日本か活気を取り戻すには、大企業が売上を大きく伸ばす一方で薄い利益に甘んじ、それを従業員や取引先、特に中小企業に配分するシャワー効果が必要なのではないか?」シャワー効果による活性化は、本音を言えば期待したいところです。歴史的にも戦後の復興期には傾斜生産方式、つまり大企業が司る重工業分野の重点的再建・活性化がカギとなりました。それにより下請として仕事を分担する、あるいは鉄鋼等の素材を利用する中小製造業や、電機等を販売する中小商店に恩恵が波及するという効果があったのです。


一方で現在は、大企業とて世界的競争の中で優位を保てるポジションを常に維持できている訳ではありません。経済エンジンである大企業にシャワー効果の発揮を強制して過負荷をかけると、熾烈なグローバル競争の中でも利益を出しながら再投資する原動力を減じてしまい、今のポジションを維持することさえ難しくなる可能性があると考えられます。



シャワー効果とユーザーコミュニケーション・サポート

「大企業にシャワーの役目を期待しないなら、どうすれば日本は発展していけるのか?」シャワー効果を全く期待しない訳ではありません。是非発揮してもらいたい、そのために今まで以上にもっと儲けてもらいたいと感じています。それも国内市場のパイを奪い合って勝つアプローチではなく、海外で売れる製品をイノベーションして外貨を稼いで儲けてもらいたいと思っています。


もう一つのアプローチとして、中小企業が本領を発揮するアプローチが考えられます。最終消費者とコミュニケーションを取りサポートする中小企業がイノベーションの利便性を最終消費者が与れるよう機能するのです。


先ほど戦後の日本は傾斜生産方式で重厚長大産業を軸に回復・成長を遂げたとご説明しました。一方で生活者は重厚長大企業が生産する製品、特に鉄や化学生成品等を直接に利用する訳ではありません。一部は電化製品など大企業が耐久消費財を生産する外は、多くは中小企業が家具や道具類を生産して消費者に届けていたのです。あるいは大企業が生産した耐久消費財も松下電器が個別の販売店を系列化していたように、消費者との接点は中小企業に頼っていました。


消費者とのコミュニケーションは大企業よりも中小企業の方に優位性があったのです。中小企業はユーザーとのコミュニケーション・サポートを担当することでシャワー効果に与っていました。


現在の製品は良くできているのでサポートは不要との声がありそうですが、高機能を秘める機器を使いこなせていないユーザーが少なくありません。特にビジネス場面で、コミュニケーションやサポートが大いに必要とされていると感じます。典型例がIT活用場面で、日本の生産性が低い、特に中小企業において低い大きな要因の一つにIT活用が進んでいないことが挙げられるほどです。


この現象を改善するコミュニケーション・サポートにより生産性向上が隅々まで浸透すると考えられます。中小企業には、この場面での役割を積極的に、自主的に取り組んでもらいたいと考えています。GDPの拡大にも繋がります。逆にこのようなサポートがないとユーザーは「大してメリットが得られないなら、できるだけ割安なものを」と考えるでしょう。付加価値の薄いモノに流れていくのです。そうやって行き着く先は価格競争で、デフレを脱却できない社会です。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、未来を掴んでみてください。


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冒頭の写真は写真ACから とりすたー さんご提供によるものです。とりすたー さん、どうもありがとうございました。

 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた。総合研究所では先進的取組から地道な取組まで様ざまな中小企業を研究した。一方で日本経済を中小企業・大企業そして金融機関、行政などによる相互作用の産物であり、それが環境として中小企業・大企業、金融機関、行政などに影響を与えるエコシステムとして捉え、失われた10年・20年・30年の突破口とする研究を続けてきた。

独立後は中小企業を支える専門家としての一面の他、日本企業をモデルにアメリカで開発されたMCS(マネジメント・コントロール・システム論)をもとにしたマネジメント研修を、大企業も含めた企業向けに実施している。またイノベーションを量産する手法として「イノベーション創造式®」及び「イノベーション創造マップ®」をベースとした研修も実施中。

現在は、中小企業によるイノベーション創造と地域金融機関のコラボレーション形成について研究・支援態勢の形成を目指している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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