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第25回

「新しい資本主義」を考える

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



バブル崩壊から30年が経とうとする今、なかなか経済を復調させられない現実を「失われた10年(20年)」と表現し、今や「失われた30年」となる可能性を否定できない状況です。これを打破したいとの意図を込めてか「新しい資本主義」という言葉を耳にすることが多くなってきました。今回は、それについて考えてみます。



資本主義とは

前提として資本主義について考えてみましょう。資本主義の前は封建主義でした。絶対権力者である神から与えられたという宗教的理由や、戦いに勝ち上がったという社会的理由により特定の人物が国や地域を支配する権力を持つようになり、それが縁者に引き継がれていく社会システムです。


しかし産業革命等により生産や売買(海外貿易等を含む)ビジネスにより財貨を蓄えた人々(資本家:営利目的で経済活動を実施、財を蓄え、これを経済活動に再投資して拡大していく者)が台頭、これを抑えようとする君主と対立し、最終的に「革命(Revolution:転回)」に成功して権力を握りました。


彼らはその後、資本家が集まる合議で政治運営するシステム(議会主義)を確立、関わる人々が浸透するにつれ(独立した農家等が多い社会から工場・商店労働者が多い社会となる)民衆にも政治に関わる権利を認めるシステム(民主主義)としました。こうして法律等を刷新、自らの活動に有利なインフラ(銀行・取引所等)を整備しました。こうして資本家がビジネスひいては国家をコントロールする社会(資本主義社会)となったのです。



これまでの資本主義における「お金」

従前の資本主義と比較して、今はなぜ「新しい資本主義」と呼ぶのでしょうか?いろいろ解釈はあると思いますが、筆者は「お金が変わった」ことを挙げたいと思います。


資本主義が勃興した頃の『お金』は金でした。加工が容易ながら錆や腐食に強く、何よりも美しい(エジプトのピラミッド時代からの装飾品)ことが『お金』となった理由と考えられます。そして金は希少(これまでの採掘総量は約18万トン、オリンピック公式競技用プールの約4杯分)なので、金の争奪戦としてビジネスが発展した、それが資本主義初期の構図でした。


一方でビジネスが発展するスピードと比較すると、金の生産量はそれほど伸びません。するとどうなるか?モノ(サービス等を含む)が増えても金は増えないのでモノの価格が下がりますが、それでは資本家にとって魅力がありません。このため各国は金本位制から離脱、当局によって発行・管理される紙幣(日本ならば日本銀行券:法定通貨)を「お金」としたのです。


今、日本銀行はインフレ目標を2%としていますが、これは「資本家にとって経済活動を継続・拡大させるモチベーションとなり、かつ国民も受け入れられる水準として、モノの価格が毎年2%増えるのが丁度良い」と判断してのことと考えられます。日本銀行は、2%のインフレが起きるよう貨幣量の管理を行い、金利設定していく政策を進めているのです。



「お金」が変わりつつある現在

一方で今、「お金」が変わりつつあると感じられます。法定通貨ではない暗号通貨などが「お金」として台頭しつつあるのです。暗号通貨は、インターネット上の「暗号」に経済的価値があると信じる人(以後、「利用者」と言います)が各国の法定通貨を使って購入、以後は利用者の需給情勢により価値が決まる通貨です。


暗号通貨の特徴は「商品相場と同様の経済的仕組みが、通貨を自称する資産をベースに行われる」ことにあると思われます。需給情勢によって価値が決まる取引はこれまでも原油や穀物等で行われてきました。同様のことが無体物かつ通貨を自称する資産で行われるようになったのです。


もし暗号資産が普及し、取引で使われる例が格段に増えると、それは何を意味するのか?「お金」が当局の管理から離脱することを意味します。同様の事態は、これまでも「レバレッジ」という形で限定的に進展してきました。例えばFXを始める時に「レバレッジの権利を行使するか」と質問され、それにYESと答えると自分が提供した元手の何倍(時には何十倍かそれ以上)の取引ができるようになり、利益が確定すると元手の何倍あるいはそれ以上の価値が自分のものになります。暗号通貨では、その状況が通貨を自称し、実際取引で利用可能な資産で行われるということです。


「当局に管理されないお金が普及する」とは、何を意味するか?資本家の意図、敢えて表現すると「欲望」をストレートに反映する通貨が経済を支配することだと考えられます。「新しい資本主義」はこの状況を前提に、波に乗り、かつ必要な対策を打つ必要があると考えられます。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、未来を掴んでみてください。


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なお、冒頭の写真は写真ACから ぶっさん さんご提供によるものです。ぶっさん さん、どうもありがとうございました。


 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた。総合研究所では先進的取組から地道な取組まで様ざまな中小企業を研究した。一方で日本経済を中小企業・大企業そして金融機関、行政などによる相互作用の産物であり、それが環境として中小企業・大企業、金融機関、行政などに影響を与えるエコシステムとして捉え、失われた10年・20年・30年の突破口とする研究を続けてきた。

独立後は中小企業を支える専門家としての一面の他、日本企業をモデルにアメリカで開発されたMCS(マネジメント・コントロール・システム論)をもとにしたマネジメント研修を、大企業も含めた企業向けに実施している。またイノベーションを量産する手法として「イノベーション創造式®」及び「イノベーション創造マップ®」をベースとした研修も実施中。

現在は、中小企業によるイノベーション創造と地域金融機関のコラボレーション形成について研究・支援態勢の形成を目指している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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