Catch the Future<未掴>!

第27回

新しい資本主義で目指すべき方向性

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



先月「新しい資本主義」について「お金が変わった」という観点から分析しました。これまで「お金」は政府等が発行・管理していましたが、今や資本家自身が増やしたり収縮させたりできるものになっています。このため政府等の管理が行き届かず、資本家の意図(敢えて言えば「欲望」)がストレートに反映される世の中になってきたと感じられます。今回はそのような世界で、日本はどのように泳いでいけば良いかを考えていきます。



金が「お金」であったことによる値付け:コスト主義

価値あるものの中には供給が容易なものと、供給が困難なものがあることは、ご理解頂けると思います。以前(資本主義が始まった頃)の「お金」は金(金属のAu)で、供給が難しいものの代表格でした。それよりも供給が難しいものは少なく、ダイヤモンドをはじめとした宝飾品や、少人数の熟練した美術家や職人が作成した絵画・彫像・時計くらいだったと考えられます。


一方で当時は、金ほど供給が困難ではない財やサービス(以下では分かりやすく「商品」と言います)も十分に供給されていた訳ではありません。食料・衣料をはじめ全ての商品について生産者は少なく、生産効率は今から比べると段違いに低かったので供給は不足していたのです。


このような状況で商品はどのような価格で取引されていたか?手にすることが難しい「お金」を払うには、誰でも納得する交換比率=価格であることが求められたでしょう。そういう経緯もあってか、多くの商品が「再生産するためのコスト」の積み上げで値付けされるようになりました。経済学では、コストの裏付けとして労働を考える「労働価値説」が唱えられたほどです。


この状況では「ほとんど同じコストで生産できる商品は、ほとんど同じ価格で取引される(特徴や性能、品質、こだわりへの対応等では価格は変わらない)」という現象が生じます。例えば20世紀(1900年代)の終わり頃までは「お買い得な乗用車・買ったら損になる乗用車」を教えてくれる書籍がブームで、購入を考えている人は必ず参考にした方が良いと言われていたほどです。乗用車ですら特徴や性能、品質、こだわりへの対応などは価格にほとんど反映されずコストで価格が決められていたので、特徴や性能、品質、こだわりへの対応などは他の情報源から知るしかない状況だったと言えます。



新しい資本主義での値付けと、日本の方向性

「お金」が金ではなく紙幣になった経緯について以前にお話ししました。金が「お金」だと商品が増加するほど「お金」は増えませんから商品の価格が下がってしまい、資本家にとって経済を発展させる動機付けが失われます。その制約から離れるために政府や中央銀行が発生する紙幣を「お金」とし、商品が増えるとお金も増やす、それも商品よりも若干多めに増やして価格を上げる(インフレ気味にする)ことで経済発展の原動力としたのです。今は、その状況を超えて「お金」には仮想通貨等も含まれるようになりました。これは「お金」が、政府や中央銀行の管理の手を離れて資本家が自由に増やせるものになりつつあると解釈できます。


このような状況で価格はどうなるか?お金に制約があった時代には原則だった「コスト主義」に基づく必要性が薄れると考えられます。資本家や高額所得者が「この商品の特徴や性能、品質、こだわりへの対応などが素晴らしい。是非とも手に入れたい」と考えるなら、ついこの間まで「同じもの」と認識されていたもの、コスト主義では同価格で売られていた他の商品よりも高い価格で取引されるようになるのです。


それが進むと、十分に高い価格を付けないと資本家・高額所得者ではない人々まで欲しがって欠品が生じ(資本家や高額所得者が欲しくても買えない)、資本家や高額所得者がそれを嫌いファンから離れてしまうので、資本家や高額所得者だったら買えるが、そうでない人は買えない価格まで引き上げられる事態が生じ得ます(より正確には、商品の供給者が得る対価が極大化する価格を探ることになるでしょう。それは換言すれば、自分のファンになって欲しい資本家・高額所得者と、そうでない人の線引きをどこに引くかの試行錯誤です)。アップル社のスマートフォンiPhoneは、そのような商品の典型と言えるでしょう。


以上から「資本家の裁量によりお金を増やすことができる『新しい資本主義』において、目指すべき方向性が見えてくると思います。まず、資本家・高額所得者が欲しがる特徴や性能、品質、こだわりへの対応などを施した商品を実現することで、次は、彼らが満足する値決めを(試行錯誤しながら)することです。両者のうちどちらかが欠けてもダメで、両方に成功することが「新しい資本主義」の勝者になる秘訣だと考えられます。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、未来を掴んでみてください。


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なお、冒頭の写真は写真ACから 風待人さんご提供によるものです。風待人さん、どうもありがとうございました。


 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた。総合研究所では先進的取組から地道な取組まで様ざまな中小企業を研究した。一方で日本経済を中小企業・大企業そして金融機関、行政などによる相互作用の産物であり、それが環境として中小企業・大企業、金融機関、行政などに影響を与えるエコシステムとして捉え、失われた10年・20年・30年の突破口とする研究を続けてきた。

独立後は中小企業を支える専門家としての一面の他、日本企業をモデルにアメリカで開発されたMCS(マネジメント・コントロール・システム論)をもとにしたマネジメント研修を、大企業も含めた企業向けに実施している。またイノベーションを量産する手法として「イノベーション創造式®」及び「イノベーション創造マップ®」をベースとした研修も実施中。

現在は、中小企業によるイノベーション創造と地域金融機関のコラボレーション形成について研究・支援態勢の形成を目指している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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