第53回
日本の未来を拓く構想と新しい機関
StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ 落藤 伸夫
前回は新政権に期待する取組について考えました。「課題大国ニッポン」が直面する課題をユニークかつ包括的な発想で解決すると共に、そのソリューションを売って国を豊かにするのです。他国が未だ遭遇していない課題解決を今、提供することで、全世界的に幸福の度合いを高めると共に日本の将来も拓けてくると考えられます。今回はそれをどのように実現するかを考えてみます。
日本の総力戦となる道路運行管理システム
日本の復活には外貨を稼ぐことがポイントになります。そのためには課題大国である日本が世界に先んじて直面している課題の解決に繋がる財やサービスを売るのが最善でしょう。
今、短期的には2024年問題、そして長期的にはどんどんと進む労働力の減少問題で日本の流通業が岐路に立たされています。自動車(トラック等を含む)を鉄道電車のように自動運行・管理できる道路交通網運行管理システムが実現すれば、解決の切り札になると考えられます。それを世界に売ることで、日本復活の原動力となる財源を確保できるとも考えられます。
道路交通網運行管理システム実現は、まさに国家プロジェクトになるでしょう。自動運転の自動車(単独で走行、周囲を走行する他車も含めたトータルとしての効率性や安全性は鑑みない)の開発だけで、自動車からIT(Aiを含む)、センサ、通信などの無数の産業が連携する必要がありました。道路(最初は高速道路に限ることになると考えられますが)を走る全ての自動車の効率性や安全性を実現する自動運行・管理システムはもっと広範囲な産業の参加が必要でしょう。
そして行政の参加も不可欠です。最低限、道路にセンサを埋め込む必要があり、加えて宇宙からの監視も望まれます。運用にあたって要所要所に専用の駐車場兼操車場も必要となり、都市計画からの対応が必要でしょう。
運行システムは日本の英知が試されることになります。予約・運行計画を明らかにして高速道路に入る自動車もあれば、予約なし・運行計画も明らかにせず入って来る自動車もあり、計画を変更する自動車もある中で天候や渋滞状況等をもとに効率的・安全な運行指示を出すシステムの開発です。加えてデータの標準化や法律対応など、ありとあらゆる対応が必要になると考えられます。
総力を結集するため「大戦略」を練る機関
「これほどのシステムを組むに当たっては、言い換えればこれほどのシステムを組めるほどの関係者を集め、心を一つにして取り組んでいくには、とてつもない調整が必要になる。縦割行政では絶対に実現しない。横串の機関が必要になる。」仰る通りだと思います。
一方で日本ではこれまでも横串機関の必要性が指摘されましたが、未だ設置に至っていません。なぜでしょうか?前提条件が満たされていないからだと考えられます。「横串機関がどうしても必要だ」との共通認識が生まれるような上位概念が前提条件として必要で、それが存在していないので横串機関の必要性が認識されないと考えられるのです。
では、その「上位概念」とは何か。今後、日本をどのような国にしていくかの大構想です。国民にどのような幸せを実現するのか、諸外国とどのような関係を形成・維持するのかに係る大戦略です。
それらをもとにどのような政治を行うか、どのような産業を軸とし、どのような経済運営を行うか(成長を目指すか否か、企業や人にどのように分配・再分配していくのか等)、地域・自治には何を期待するのかを設計することになるでしょう。検討に当たっては「日本とは古来から〇〇な国だった」という歴史的観点、「人と政府は△△な関係であるべきだ」との哲学的な観点、あるいは「今、世の中は◇◇に向かっている」とのトレンドの観点など、様々な要素を考える必要があります。
トップダウンとボトムアップ、あるいはミドルアップダウンという自由無碍な発想と議論が必要になるとも思います(ちなみに「自動車を自動運行・管理する道路交通網管理システムを国内に設ける、これを国家ビジネスとする」という方向性は、ミドルアップダウンの発想になるかと考えられます)。
この議論に結論が出ることはないでしょう。いや、方向性がおぼろげながら見えるまで、多大な時間を要すると考えられます。しかしこれを考える(考え続ける)か否かで国の方向性、あるいは国民や企業、社会の状況は大きく変わると思われます。
今回の話題からすると、国の行政に横串を刺す機関の設置は、いの一番で決まるでしょう。日本の将来に向けた大構想あるいは大戦略は、縦割り行政では決して実現しないからです。これはもちろん現政権で実現することは不可能だと思いますが、検討のスタートだけでも切ってもらいたいと考えています。
本コラムの印刷版を用意しています
本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、未来を掴んでみてください。
なお、冒頭の写真は Copilot デザイナー により作成したものです。
プロフィール
中小企業診断士事務所 StrateCutions 代表
合同会社StrateCutions HRD 代表社員
落藤 伸夫
早稲田大学政治経済学部卒(1985 年)
Bond-BBT MBA 課程修了(2008 年)
中小企業診断士登録(1999 年)
1985 年 中小企業信用保険公庫(日本政策金融公庫)入庫
2014 年 日本政策金融公庫退職
2015 年 中小企業診断士事務所StrateCutions 開設
2018 年 合同会社StrateCutions HRD 設立
Webサイト:StrateCutions
- 第55回 地域の未掴をエコシステムとして描く
- 第54回 地域の未掴はどのようにして探すのか
- 第53回 日本の未来を拓く構想と新しい機関
- 第52回 新政権に期待すること
- 第51回 日本ならではの外貨獲得力案
- 第50回 未掴を掴む原動力を歴史的に探る
- 第49回 明治時代の未掴、今の未掴
- 第48回 オリンピック会場から想起した日本の出発点
- 第47回 都知事選ポスターから考える日本の方向性
- 第46回 都知事選ポスター問題で見えたこと
- 第45回 閉塞感を打ち破る原動力となる「気概」
- 第44回 競争力低下を憂いて発展戦略を探る
- 第43回 中小企業の生産性を向上させる方法
- 第42回 中小企業の生産性問題を考える
- 第41回 資本主義が新しくなるのか別の主義が出現するのか
- 第40回 「新しい資本主義」をどのように捉えるか
- 第39回 日本GDPを改善する2つのアプローチ
- 第38回 イノベーションで何を目指すのか?
- 第37回 日本で「失われた〇年」が続く理由
- 第36回 イノベーションは思考法で実現する?!
- 第35回 高付加価値化へのイノベーション
- 第34回 2024年スタートに高付加価値化を誓う
- 第33回 生成AIで新価値を創造できる人になる
- 第32回 生成AIで価値を付け加える
- 第31回 価値を付け足していく方法
- 第30回 新しい資本主義の付加価値付けとは?
- 第29回 新しい資本主義でのマーケティング
- 第28回 新しい資本主義での付加価値生産
- 第27回 新しい資本主義で目指すべき方向性
- 第26回 新しい資本主義に乗じ、対処する
- 第25回 「新しい資本主義」を考える
- 第24回 ChatGPTから5.0社会の「肝」を探る
- 第23回 ChatGPTから垣間見る5.0社会
- 第22回 中小企業がイノベーションのタネを生める「時」
- 第21回 中小企業がイノベーションのタネを生む
- 第20回 イノベーションにおける中小企業の新たな役割
- 第19回 中小企業もイノベーションの主体になれる
- 第18回 横階層がイノベーションを実現する訳
- 第17回 イノベーションが実現する産業構造
- 第16回 ビジネスモデルを戦略的に発展させる
- 第15回 熟したイノベーションを高度利用する
- 第14回 イノベーションを総合力で実現する
- 第13回 日本のイノベーションが低調な一因
- 第12回 ミスコンから学んだ将来の掴み方(2)
- 第11回 ミスコンから学んだ将来の掴み方(1)
- 第10回 Futureを掴む人になる!
- 第9回 新しい世界を掴む年にしましょう
- 第8回 Society5.0・中小企業5.0実践企業
- 第7回 なぜ、中小企業も5.0なのか?
- 第6回 中小企業5.0
- 第5回 第5世代を担う「ティール組織」
- 第4回 「望めば叶う」の破壊力
- 第3回 5次元社会が未掴であること
- 第2回 目の前にある5次元社会
- 第1回 Future は来るものではない、掴むものだ。取り逃がすな!