Catch the Future<未掴>!

第45回

閉塞感を打ち破る原動力となる「気概」

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



先週、イノベーションズアイ編集局の編集アドバイザーであり産経新聞社のコンプライアンス・アドバイザーでもある鶴田東洋彦さんによる『「昭和の経営者の気概に学ぶ」~経済記者から見た“経営者の姿”~』講演での気付きをお伝えしました。経営者の気概にどれほどの力があるのか。今回はその点を考えていきます。



ドラッカーが危惧した、ドイツに蔓延した閉塞感

前回、政治家や行政マンが「国を復興させる」と息巻き企業人が「政治・行政についていこう」と考える構図と、企業人が「国を復興させる」と決意を固め政治家や行政マンが「企業を後押ししよう」と考える構図のどちらが望ましいかとの問題提起をしました。筆者は後者だと考えています。鶴田講師も、その様にお考えでしょう。


またもう一人、強力な支持者がいると思われます。現代経営学あるいはマネジメントの父と呼ばれるドラッカーです。名著「マネジメント」においてドラッカーは、企業の潜在能力として「自由と尊厳を守る」と「全体主義から守る」を挙げました。そこから読み取れると考えられるのです(エッセンシャル版「マネジメント」P.ⅶ)。


ドラッカーはなぜ、経営学あるいはマネジメントを極めたのか?第二次世界大戦においてドイツがヒットラー率いるナチス党に主導権を渡したことへの猛烈な反発が原点ではないかと、筆者は推察しています。ナチス党は、第一次世界大戦後の混乱に乗じた部分や、過激、時には暴力的とも言えるパフォーマンスにより人心を掴んだ部分ももちろんありますが、基本的には選挙により躍進を遂げました。


「第一次世界大戦で負けたことによる多額の賠償金支払い負担を原因とする閉塞感から逃れたいが、他の政党・指導者ではそれを期待することはできない。ヒットラー率いるナチス党なら、何とかしてくれるかもしれない」という期待でもって選ばれたと考えられます。


ちなみにナチス党が掲げた全体主義は、個人の利益や権利は国家全体の利害と一致すべき、そうなるよう統制すべきとの考え方で、自由主義とは真逆の思想です。当時ドイツには数多くの企業・経営者がいたでしょう。企業という存在が認められ、創意工夫して活躍できるのは自由主義という後ろ盾があってのことです。彼らはなぜ、自社の存在意義を否定する思想に組したのでしょうか?


これも推測ですが、当時の企業人は「今の閉塞感を打破する原動力は私たち企業パートではなく、政治・行政パートだ。自由主義を標榜する政治体制・リーダーは閉塞感を打破できなかったが、全体主義に立脚するヒットラーのナチス党は、それができそうだ。さて、自由主義を選び現状に甘んじ続けるか、全体主義を選んで現状を打破するか?究極の選択ではあるが、ここは全体主義を選ぶしかない」と考えたのではないでしょうか?これが致命的な失敗だったことは、歴史の証明するところです。



気概をマネジメント・イノベーションなどで支える

以上のように考えると、ドラッカーが企業には「自由と尊厳を守る」あるいは「全体主義から守る」潜在能力を持っていたと考えていた意味が分かると思います。


ヒットラー率いるナチス党が台頭し始めた時に「閉塞感を打破するために、他の人々が過激で暴力的なパフォーマンスに惹かれる気持ちも分からなくはない。しかし戦時賠償の閉塞感を打破する真のソリューションはもっと儲けることだ。賠償金を払っても安穏とした生活ができ、明日の糧が残るほど、未来への投資原資がキープできるほどの儲けを出すことだ」と企業人が気が付いていれば、「だから全体主義などもっての他だ!自由主義を堅持し、企業が創意工夫を尽くそう」と考えていれば、ナチスの台頭を許し悲惨な結末に至ることはなかったでしょう。ドラッカーはそう主張したかったのだと考えられます。


ドラッカーは自らの主張の実現方法としてマネジメントを唱道しました(この主張はエッセンシャル版「マネジメント」前文に収められています)。マネジメントとは極言すれば「部分の和よりも大きな全体を生み出す」、言い換えると「投入した資源の総和よりも大きな価値を生み出す」方法論です。


加えてドラッカーは顧客を創造する方法論として「マーケティング」と「イノベーション」を挙げました。ドラッカーの生涯は、次に全体主義あるいはそれに準じる危機に遭遇した時に企業家たちが「そんなものに飛びつく必要はない。企業がマネジメントとマーケティング、イノベーションを尽くして価値を生み、儲けを出せば自由と尊厳は守られるのだ」と力強く言えるようになる根拠を提供することだったと感じられます。


今、日本の競争力は世界35位で凋落傾向が続いていますが、そこからの脱却に必要なのは、ドラッカーの期待に応えようとする企業人の気概ではないかと思われます。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、未来を掴んでみてください。


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冒頭の写真は写真ACから fujiwara さんご提供によるものです。fujiwara さん、どうもありがとうございました。

 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた。総合研究所では先進的取組から地道な取組まで様ざまな中小企業を研究した。一方で日本経済を中小企業・大企業そして金融機関、行政などによる相互作用の産物であり、それが環境として中小企業・大企業、金融機関、行政などに影響を与えるエコシステムとして捉え、失われた10年・20年・30年の突破口とする研究を続けてきた。

独立後は中小企業を支える専門家としての一面の他、日本企業をモデルにアメリカで開発されたMCS(マネジメント・コントロール・システム論)をもとにしたマネジメント研修を、大企業も含めた企業向けに実施している。またイノベーションを量産する手法として「イノベーション創造式®」及び「イノベーション創造マップ®」をベースとした研修も実施中。

現在は、中小企業によるイノベーション創造と地域金融機関のコラボレーション形成について研究・支援態勢の形成を目指している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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