Catch the Future<未掴>!

第7回

なぜ、中小企業も5.0なのか?

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 

 社会全体が進化するにつれ、そこにあって様々な活動をしている中小企業の役割も「唯一無二の経済主体としての役割(中小企業の役割1.0)」から「大企業と主人公の座を争う経済主体としての役割(2.0)」、「大企業へのサポーターの役割(3.0)」、もしくは「ニッチ補填の役割(4.0)」と進化してきました。そして今や「ITを活用した自働化社会(Society5.0)」で中小企業は、「大企業と人を繋ぎ真の満足・幸福を実現する役割(中小企業の役割5.0)」を担うことになります。



なぜ中小企業の役割が変わるのか

 「社会がSosiety5.0に変わりつつあると言っても、それは生活者やそれと向き合う行政、そしてITやバーチャル空間(クラウド環境)を支える大企業の問題ではないか、中小企業には関係ないのではないか」との声も聞こえてきそうです。私たちが生まれてこの方、というよりも工業社会に移行して数百年間、ご指摘の状況だったので、このような感想も当然と思います。


 しかし筆者は、逆にこの状況が特殊だと感じています。社会(Society)の構成員として人以外に政治主体(行政・政党)や経済主体(企業)もあるとするなら、日本では企業の99%が中小企業です。社会が変化する時に中小企業が変化しないで済むとは考えられません。



引き金となったプラットフォーム変化

 社会という環境と、人や企業、行政など主体となる要素は、互いに影響を及ぼし合っています。そのため社会が変化すれば中小企業も変化せざるを得ません。最近時に社会が大きく変化した理由の一つに「インターネットの出現」があります。インターネットにより、人々の生活に大きな変化が生じました。「とはいえ、それは所詮、技術的進歩だ。携帯電話の出現と大して変わらないのではないか。」インターネットの登場は、社会の仕組みを変えたという点で特筆すべきだと考えます。「プラットフォームを変えた」のです。


 これまで人が住まい企業が活動するプラットフォームは土地や商流などの「リアル」でした。例えばスーパーマーケットは、どこに立地するかで対象となる顧客層や取引できる仕入先、雇える従業員などが決まってきます。庶民が住む街のスーパーが高級品ばかり揃えたのでは見向きもされません。ここ何十年も人口が減り続けている街では発展は難しいかもしれません。


 一方でインターネット社会は「バーチャル」というもう一つのプラットフォームを提供しました。ここは(配送などの課題に対処すれば)リアルなプラットフォームに有り勝ちな制約がありません。庶民的な住宅街に住んでいてもネット上では高級品を売るECサイトを構築してブレイクさせることが可能です。仕入れも、(相手先が配送などの課題に対処してくれていれば)事実上世界中から仕入れることができます。



いち早く対応した大企業

 プラットフォームという環境変化の影響を増幅した要素に「いち早く対応した大企業」の存在があります。もともと大企業は、リアル空間で勝利を収めるべく、圧倒的な資本力を武器に製品やサービスを大量生産・大量供給することを目指していました。その代表格としてパナソニック(旧:松下電器)が挙げられます。松下電器は圧倒的な生産力により豊富な品揃えで大量の製品を製造、「松下店会」という盤石な販売チャネルで大量販売しました。リアルな原料・部品を集め、リアルな人間・機械に働いてもらい、商品をリアルに輸送してリアルな店舗で顧客に買ってもらうのです。日本では、まだこの形態が主流と言えるかもしれません。


 一方で世界を見ると、新たに生まれたバーチャル空間を有効利用した大企業が生まれました。その代表格として書籍ECサイトAmazonを挙げることができます。IT・インターネットを最大限活用したビジネスモデルを提げたAmazonは、いつの間にか書籍・雑誌の消費者行動を根本的に変化させ、書籍・雑誌販売業のビジネスモデルを根底から変えてしまいました。


 Amazonの台頭は、中小企業がその役割を変化させるよう否応なしに迫ることになりました。インターネット以前は「大企業が参入できない小さな市場に書籍・雑誌を届ける」役割を果たす「街の小売店」が必要でした。しかし今やAmazonがその役割を果たせるので、従前の役割定義のままでは中小企業は存在価値を示せなくなっています。自らの新たな役割を定義して果たしていける中小書店が将来を手にするのです。



 社会と、その構成要素である人や企業・行政などは相互に影響を及ぼし合う関係にあります。社会がSociety5.0へと変化する中、中小企業が以前のまま、という訳にはいきません。実は1.0から4.0への変化時も中小企業の役割は変化してきました。そして今、中小企業の役割は5.0へと変化しつつあるのです。




<本コラムの印刷版を用意しています>

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、未来を掴んでみてください。


印刷版のダウンロードはこちらから


 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた。総合研究所では先進的取組から地道な取組まで様ざまな中小企業を研究した。一方で日本経済を中小企業・大企業そして金融機関、行政などによる相互作用の産物であり、それが環境として中小企業・大企業、金融機関、行政などに影響を与えるエコシステムとして捉え、失われた10年・20年・30年の突破口とする研究を続けてきた。

独立後は中小企業を支える専門家としての一面の他、日本企業をモデルにアメリカで開発されたMCS(マネジメント・コントロール・システム論)をもとにしたマネジメント研修を、大企業も含めた企業向けに実施している。またイノベーションを量産する手法として「イノベーション創造式®」及び「イノベーション創造マップ®」をベースとした研修も実施中。

現在は、中小企業によるイノベーション創造と地域金融機関のコラボレーション形成について研究・支援態勢の形成を目指している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

Catch the Future<未掴>!

同じカテゴリのコラム

おすすめコンテンツ

商品・サービスのビジネスデータベース

bizDB

あなたのビジネスを「円滑にする・強化する・飛躍させる」商品・サービスが見つかるコンテンツ

新聞社が教える

プレスリリースの書き方

記者はどのような視点でプレスリリースに目を通し、新聞に掲載するまでに至るのでしょうか? 新聞社の目線で、プレスリリースの書き方をお教えします。

広報機能を強化しませんか?

広報(Public Relations)とは?

広報は、企業と社会の良好な関係を築くための継続的なコミュニケーション活動です。広報の役割や位置づけ、広報部門の設置から強化まで、幅広く解説します。

当サイトでは、クッキーを使用して体験向上、利用状況の分析、広告配信を行っています。

詳細は 利用規約 と プライバシーポリシー をご覧ください。

続行することで、これらに同意したことになります。