Catch the Future<未掴>!

第20回

イノベーションにおける中小企業の新たな役割

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



日本のイノベーション活性化方法について考えているところです。前回は、これまでと違って中小企業もイノベーションの主役になれる世界になったことを考えました。製品やサービス、部材料・素材、システム・ソフトウエア等が溢れかえり、日々新しく、機能が付加され、性能が向上し、小型化・複合化していくので、中小企業でも組み合わせることで新結合のイノベーションが可能になったのです。一方で技術革新場面では相変わらず中小企業の出番はないのか?実はこちらにも中小企業がイノベーションの主役あるいは重要な脇役になれる可能性があります。今回は、その側面について考えてみます。



中小企業はなぜ中小企業なのか

中小企業は何故、中小企業なのか?様々な考え方がある中、「会社も人間と同様にスタートアップ時には小さく、だんだんと成長して大きくなっていく。このため中小企業は『生まれて間もないため、まだ小規模段階にある企業』または『成長して一定以上の規模になって当分の期間が経過しているのにも関わらず、成長市場を捉えられない(戦略的に問題あり)、あるいは従業員を上手く活用できない(マネジメントに問題あり)等の理由で小零細規模に留まっている企業』なのだ」という認識のもと、「後者の小零細に留まる企業を大切にする必要はない」との意見が徐々に台頭していると感じます。しかし、その解釈だけで中小企業を考えて大丈夫なのでしょうか?


企業が成長できるかどうかは、戦略やマネジメントの問題だけでなく、例えば需要の大きさや専門性の高さ等の要素も関係しています。例えば世界中の需要を従業員100人程度の企業が満たせるなら、全く競合が存在しないガリバーであっても当該企業は中小企業レベルです。また、あまりにもニッチで高度な技術等が必要な分野も同様でしょう。以前に「痛みを感じないほど細い注射針を生産できる企業」が廃業してしまい、多くの人々から惜しまれるという事件が起きました。この現象について「この企業が大企業、少なくとも中堅企業にまで成長していたら、倒産の憂き目から逃れられただろうに」と主張する論者もいましたが、そうでしょうか?当該企業を買収しようとする中堅・大企業さえいなかったのです。その理由は、当該技術がニッチかつ非常に高度だったので中堅・大企業が買収したとしてもキープできないと考えられたからだと推察されます。中小企業でなければ生成・成長・キープできない技術分野等もあるのです。



中小企業しかできない分野でイノベーションに貢献する

以上の「狭小な市場に対応できる」とか「ニッチで高度な技術等で対応できる」という中小企業の存在意義が、今や更に高まっていることを、ここで指摘したいと思います。2つのパターンを挙げてみます。


例えば月面作業車の製作は、狭小な市場におけるニッチで高度な技術等が要求される典型例です。これはビックプロジェクトですから、全体としては大企業が対応することになるでしょう。しかし、その中のパーツや部品の一つ一つまで大企業が対応できる訳ではありません。技術が完成し、熟し、簡略化などのエンジニアリングが進めば普及して大企業が対応できるようになるかもしれませんが、現段階で0→1の開発に対応できるのは中小企業しかいない分野も多いのです。このような、中小企業しか担えない技術革新イノベーションが決して少なくないことは、皆さんも目にしておられると思います。



無数に必要な「アレンジ」でイノベーションに貢献する

もう一つ挙げられるのは、システムにアレンジを加える場面です。例として生産性向上を考えましょう。近年の生産性向上はIT化やクラウド化等により推進された部分が大きいと、皆さんも納得されると思います。紙での処理をエクセル化し、次にビジネス・パッケージソフトを活用、更にはクラウドで取引先や金融機関等と連携する形で実現されたのです。実績あるOSシステムをベースに業務を組み立てることで生産性を向上させる図式です。


しかし一方で日本の生産性は国際的には低迷していると指摘されています。ではどうやって更なる飛躍を目指すのか?システム(OS)にはビジネス・プロセスの生産性向上を目指す様々な知恵が込められていますが、全ての企業が円滑に導入・活用できる訳ではありません。ビジネスモデルの特異さや特殊な取引慣行、顧客要望への対応のため複雑化した組織形態等の理由で、OSを導入したからといってすぐに生産性が向上するとは限らないのです。この状況では現場レベルの細かい、膨大なアレンジへの対応がイノベーションに繋がると考えられます。


ではこのイノベーションは誰が担うのか?企業の末端現場に入り込んで状況を観察、担当者の意見等も聞きながら最善と思われるアレンジをPDCAを回しながら成し遂げていく、それも1つや2つではなく膨大なケースを根気よくこなす役割を、大企業が果たすと期待するのは無理でしょう。ここで救世主となりイノベーションを実現するのは、中小企業が中心になると考えられます。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、未来を掴んでみてください。


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なお、冒頭の写真は写真ACから まぽ さんご提供によるものです。まぽ さん、どうもありがとうございました。


 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた。総合研究所では先進的取組から地道な取組まで様ざまな中小企業を研究した。一方で日本経済を中小企業・大企業そして金融機関、行政などによる相互作用の産物であり、それが環境として中小企業・大企業、金融機関、行政などに影響を与えるエコシステムとして捉え、失われた10年・20年・30年の突破口とする研究を続けてきた。

独立後は中小企業を支える専門家としての一面の他、日本企業をモデルにアメリカで開発されたMCS(マネジメント・コントロール・システム論)をもとにしたマネジメント研修を、大企業も含めた企業向けに実施している。またイノベーションを量産する手法として「イノベーション創造式®」及び「イノベーション創造マップ®」をベースとした研修も実施中。

現在は、中小企業によるイノベーション創造と地域金融機関のコラボレーション形成について研究・支援態勢の形成を目指している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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