Catch the Future<未掴>!

第14回

イノベーションを総合力で実現する

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



前回、イノベーションの生み方を考えました。日本の活性化に必要なイノベーションを実現するために企業が収益体質になる必要があること、そのためには「イノベーションとは、スーパーコンピューター開発のような大規模・先進的な技術革新である」と限定的に考えるのではなく、より柔軟に捉えて高付加価値製品を数多く生み出していくことがポイントになると考えられます。今回も引き続きイノベーションの生み方を考えていきます。



イノベーションの柔軟な姿

イノベーションとは何か?「新商品や新サービスを生み出すこと。それらを実現するために新しいプロセス、技術、ビジネスモデルなどを創造すること。時にはそれらを実現する新しいアイデアを生み出すことも含む(筆者による)」と言えるでしょう。最初にイメージするのは「技術革新」によるイノベーションです。今までない、あるいは格段に優れている製品を、今までない技術の開発・利用により実現したスーパーコンピューターはその典型例です。


一方で前回は、別のアプローチも検討しました。Apple社のiPhoneは携帯電話にカメラや音楽再生、メール、インタネットブラウザなど、既存のものを結び付けた「新結合」によるイノベーションでした。他にも、既存の製品・サービスを改善することで新たな市場・顧客を開拓、あるいは新しい価値を生み出す「改善」によるイノベーション、既存製品・サービスを新しい市場に投入して新たな顧客を獲得、時には新たな価値を提供する「市場イノベーション」、社会問題の解決策を提供する「社会的イノベーション」なども指摘されています。


このようにイノベーションにはさまざまな形がありますが、さらに柔軟な概念であることにも注目したいと思います。例えば先回に挙げたiPhoneは携帯電話にカメラや音楽再生、メール、インタネットブラウザなど既存のものを結び付けた「新結合によるイノベーション」でした。一方で世間には「CDもカセットテープもMDもラジオも聞けるプレーヤー」や「トーストと目玉焼きが同時に作れる調理器」がありますが、これらはイノベーションとは言われません。


この違いはなぜ生まれるのか?イノベーションか否かは「結合に向けた発想の秀逸さや技術的困難さの克服」もあるが、「それが多くの人々の生活や意識が変えた」ことも基準され、判断される側面があることを示唆していると考えられます。


このことから、イノベーション創造について新たな視点が見えてきます。「今まで困難だった製品等を秀逸な新技術等で、あるいは秀逸な組み合わせにより実現する」アプローチだけではなく、「生まれた機器等を用いて人々の生活や意識が大きく変わるよう、機器等以外の仕組みも付け加えていく」というアプローチも有効である(時に、そのアプローチが大きく影響する)ことです。iPhoneの場合には音楽配信システムiTunesや、形状・配色などデザイン等へのこだわり、プロデューサー(スティーブ・ジョブズ)の思想までもが総合力となって、イノベーションと認められる原動力となったと考えられます。



総合力でイノベーションを活性化する?!

日本発のイノベーションをどのように盛り立てていくか?技術の秀逸性あるいはアイデアだけでなく総合力を発揮する方法があると考えられます。鉄道を例に考えてみましょう。産業革命期は蒸気機関車がイノベーションで、その後に電気機関車や電車が生まれました。イノベーションは次に線路に波及し、事故が起こらないシステム(ATS: Automatic Train Stop)が生まれました。その後、信号システムやダイヤ管理システムが高度化して数分間隔で運行(山手線・新幹線)できるようになりました。このような総合力をつけていくことがイノベーションの原動力だったのです。


一方で鉄道は、今はイノベーションを生めていません。では、鉄道はもうイノベーションにはならないのか?これまで以上の総合力をつけることで可能かもしれません。鉄道を支える諸産業も取り込む道が考えられます(鉄道ではありませんがAmazonは、商品の配送に関係する諸技術の囲い込み・開発を盛んに行い、イノベーションに繋いでいます)。沿線の産業を、鉄道の導入により再構成できるかもしれません。敷衍して考えると行政・政治にも関わってきます。


「そこまで考えるのは、総合力を広く捉え過ぎなのではないか。」そうでしょうか?活発に変革をもたらしているイノベーション企業を観察すると、彼らは一旦、そこまで(それ以上かもしれません)考えた上で「今できること」を設計しているように見受けられます。「幅広な眼で見て今のイノベーションを生み」、「長い目で見て将来の画期的・大規模なイノベーションを模索している」と言えるでしょう。そのような広い眼を持つことが、日本がイノベーションを推進できる国になる原動力の一つになるのではないかと考えられます。




<本コラムの印刷版を用意しています>

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、未来を掴んでみてください。


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なお、冒頭の写真は写真ACから fujiwara さんご提供によるものです。fujiwara さん、どうもありがとうございました。


 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた。総合研究所では先進的取組から地道な取組まで様ざまな中小企業を研究した。一方で日本経済を中小企業・大企業そして金融機関、行政などによる相互作用の産物であり、それが環境として中小企業・大企業、金融機関、行政などに影響を与えるエコシステムとして捉え、失われた10年・20年・30年の突破口とする研究を続けてきた。

独立後は中小企業を支える専門家としての一面の他、日本企業をモデルにアメリカで開発されたMCS(マネジメント・コントロール・システム論)をもとにしたマネジメント研修を、大企業も含めた企業向けに実施している。またイノベーションを量産する手法として「イノベーション創造式®」及び「イノベーション創造マップ®」をベースとした研修も実施中。

現在は、中小企業によるイノベーション創造と地域金融機関のコラボレーション形成について研究・支援態勢の形成を目指している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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