第10回
Futureを掴む人になる!
StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ 落藤 伸夫
コロナ禍からの脱出が期待されながら迎えた2023年、しかし約2週間が経過したところで「そんなに易々とはことは運ばないようだ」と感じる展開となっています。
以前ほどの毒性はないと言われながら新型コロナウイルス感染症は日本での感染者数が世界最大と報じられています。お隣の中国ではゼロコロナ政策を止めた途端に感染者数が急増、混乱を引き起こしていると共に、水際対策した日本や韓国に報復措置を取り始め、経済活動に深い影を落とすことが懸念されています。「コロナが落ち着いて以前の生活・経済活動に戻れる」という期待は、少なくともしばらくは実現しそうにありません。
一方でこのコラムでは将来:Futureを「何をしようとも必ず来る:未来」としてではなく「自ら掴む必要がある:未掴」と捉えるよう勧めています。19世紀後半以降の産業革命期、蒸気力という新たなトレンドを自ら掴まなかったため時代に取り残され、新興勢力に地位を奪われた(地位が回転:レボリューションした)人々の二の轍を踏まないよう備えるよう勧めているのです。今回も「自ら掴む」の意味を考えていきたいと思います。
社会の変化は「チャンス」にも「ピンチ」にも見える
今後について「自ら掴まなければメリットは受けられない可能性がある」のはなぜか?その根本原因は「新しい目で見れば『チャンス』と分かるのに、旧い目で見ているために『ピンチ』に映ってしまう、あるいは『取るに足りないもの』に映ってしまう」ことにあります。
以前の産業革命を例に考えてみましょう。「大きな力を得るには水力がメインだった。このため適した水流があるという地の利を確保した者だけが利益を独占できた」というパラダイムだったものが、「火と(水力から比べると格段に少ない)水があれば、どこでも大きな力が得られるようになった。このため産業を興す門戸が非常に多くの人々に開かれた」に切り替わったのです。
ちなみにこの変化を活用するチャンスは全ての人に開かれていましたが、産業革命前に産業を牛耳っていた人々の多くは「取るに足りないもの」と考え、活用しませんでした。新興勢力が勃興した時、「自分たちも彼らの真似をすればもっと大きな成果が得られる」と考えればよかったのに、それをしたのは一部に限られ、多くが対抗するため力を尽くしましたが、抗うことはできず没落していきました。彼らには蒸気力が「ピンチ」に見えたことでしょう。
「富んだ者は既得権益のせいで目が霞んだのだろう」と笑うことはできません。労働者もラッダイト運動を起こし新たなトレンドを拒絶しました。それに乗っていれば労働者もはるかに豊かになれただろうに、そして自分にその気があれば新興勢力になることも可能だったかもしれないのに、それを「ピンチ」と見て拒絶したのです。
産業革命時代にラッダイト運動が起きたのは、労働者たちが、重厚な機械設備の台頭で自分たちの職が奪われると考えたからのようです。今まで身に着けた知識・技能が役に立たなくなり、新しい知識・技能等を身に着けなければならないことを嫌がったのかも知れません。ではラッダイト運動で彼らの平安・安寧な生活は保たれたのか?そうではないことは、歴史が証明しています。
一方で、もし蒸気機関を利用した重厚な機械設備のもとで働けば、どうなったか?(時代が下がり、社会インフラが整い、フォードという偉大な産業人が指導したという特殊要因はあるにせよ)大量生産を担えるほど成長したフォード社で働いた労働者は、それまでの労働者が得たよりも数段大きな分け前(富)に与れました。
今の変化を「チャンス」「ピンチ」いずれにするか
現在に生きる私たちは、どうするか?生産性を高める仕組みとしてIT機器(PCなどのハードウエア、プログラム・システムなどのソフトウエア、クラウドなどのインフラ)が普及しており、事実上、全ての企業がその恩恵を受けられる状況になっています。
しかし現実には、それを活用する中小企業は決して多くありません。ある企業のマネジャーは「ITを導入すると部下の一部は今の仕事から追われる。可哀そうだ」と考えてIT導入に反対したそうです。ある社長は「一定年齢を超えた社員にIT利用を求めるのは酷だ」と言って昭和と大差ない仕事を温存しています。
それら方々は目の前にいる部下や従業員を大切にする気持ちから、これら言葉を発しておられるのでしょう。お気持ちはとても素晴らしいと思いますが、その意味は、産業革命期に起きたラッダイト運動への参加に大差ないのかもしれません。
「時代が切り替わる時、以前のパラダイムでの常識が命取りになるかもしれない」との危惧を持つ人が、Futureを掴む人になれる可能性があります。
<本コラムの印刷版を用意しています>
本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、未来を掴んでみてください。
なお、冒頭の写真は写真ACから bBear さんご提供によるものです。bBear さん、どうもありがとうございました。
プロフィール
中小企業診断士事務所 StrateCutions 代表
合同会社StrateCutions HRD 代表社員
落藤 伸夫
早稲田大学政治経済学部卒(1985 年)
Bond-BBT MBA 課程修了(2008 年)
中小企業診断士登録(1999 年)
1985 年 中小企業信用保険公庫(日本政策金融公庫)入庫
2014 年 日本政策金融公庫退職
2015 年 中小企業診断士事務所StrateCutions 開設
2018 年 合同会社StrateCutions HRD 設立
Webサイト:StrateCutions
- 第55回 地域の未掴をエコシステムとして描く
- 第54回 地域の未掴はどのようにして探すのか
- 第53回 日本の未来を拓く構想と新しい機関
- 第52回 新政権に期待すること
- 第51回 日本ならではの外貨獲得力案
- 第50回 未掴を掴む原動力を歴史的に探る
- 第49回 明治時代の未掴、今の未掴
- 第48回 オリンピック会場から想起した日本の出発点
- 第47回 都知事選ポスターから考える日本の方向性
- 第46回 都知事選ポスター問題で見えたこと
- 第45回 閉塞感を打ち破る原動力となる「気概」
- 第44回 競争力低下を憂いて発展戦略を探る
- 第43回 中小企業の生産性を向上させる方法
- 第42回 中小企業の生産性問題を考える
- 第41回 資本主義が新しくなるのか別の主義が出現するのか
- 第40回 「新しい資本主義」をどのように捉えるか
- 第39回 日本GDPを改善する2つのアプローチ
- 第38回 イノベーションで何を目指すのか?
- 第37回 日本で「失われた〇年」が続く理由
- 第36回 イノベーションは思考法で実現する?!
- 第35回 高付加価値化へのイノベーション
- 第34回 2024年スタートに高付加価値化を誓う
- 第33回 生成AIで新価値を創造できる人になる
- 第32回 生成AIで価値を付け加える
- 第31回 価値を付け足していく方法
- 第30回 新しい資本主義の付加価値付けとは?
- 第29回 新しい資本主義でのマーケティング
- 第28回 新しい資本主義での付加価値生産
- 第27回 新しい資本主義で目指すべき方向性
- 第26回 新しい資本主義に乗じ、対処する
- 第25回 「新しい資本主義」を考える
- 第24回 ChatGPTから5.0社会の「肝」を探る
- 第23回 ChatGPTから垣間見る5.0社会
- 第22回 中小企業がイノベーションのタネを生める「時」
- 第21回 中小企業がイノベーションのタネを生む
- 第20回 イノベーションにおける中小企業の新たな役割
- 第19回 中小企業もイノベーションの主体になれる
- 第18回 横階層がイノベーションを実現する訳
- 第17回 イノベーションが実現する産業構造
- 第16回 ビジネスモデルを戦略的に発展させる
- 第15回 熟したイノベーションを高度利用する
- 第14回 イノベーションを総合力で実現する
- 第13回 日本のイノベーションが低調な一因
- 第12回 ミスコンから学んだ将来の掴み方(2)
- 第11回 ミスコンから学んだ将来の掴み方(1)
- 第10回 Futureを掴む人になる!
- 第9回 新しい世界を掴む年にしましょう
- 第8回 Society5.0・中小企業5.0実践企業
- 第7回 なぜ、中小企業も5.0なのか?
- 第6回 中小企業5.0
- 第5回 第5世代を担う「ティール組織」
- 第4回 「望めば叶う」の破壊力
- 第3回 5次元社会が未掴であること
- 第2回 目の前にある5次元社会
- 第1回 Future は来るものではない、掴むものだ。取り逃がすな!