Catch the Future<未掴>!

第55回

地域の未掴をエコシステムとして描く

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 




前回、地域の未掴について考えました。地域に根付いて仕事する2人が「現状を生かしていく活性化」あるいは「ITの高度活用などによる変化による活性化」の間で対立していたこと、軸をずらすと「正解はないので、先ずは自分が何をしたいのか考えていくことが課題」というアプローチか、「正解があるので、それをいかに適切に実現していくかが課題」というアプローチかの違いのようにも感じられたことをお話しました。今回もこのエピソードなどをもとに地域の未掴について考えてみます。



対立ではなく相乗効果を狙うが、それだけで良いか?

2人から意見を求められた筆者は「地域が目指す活性化の方向性によるのではないか」と答えました。「現状維持あるいはITの高度利用のいずれか(あるいは他の提案)が絶対的な正解と決めつけることはできない。地域毎に『我が地域の活性化策』を考えていくことがポイント。もちろん事業者だけでなく、そこに住む人々、そして自治体などの考えも踏まえる必要がある」という趣旨です。

そう言うと「ITの高度利用は絶対的正解ではないか?これを使わない選択肢などあり得ない」という意見がありました。筆者も「ITを高度利用しないという選択肢はあり得ない」と思います。一方で、同様の趣旨で「今ある地域の特徴などを活かさないという選択肢もあり得ない」とも思います。筆者からすると2人の意見は、互いに対立関係にあるのではなく、相手を補完したり利用したりして相乗効果を目指す関係のように思います。


「では、正解は『地域の今ある特徴を生かしつつITを高度利用する』に収束するのではないか?後は地域毎の特徴を洗い出し、ITを使ってビジネスやマーケティングを推進していけば良いのではないか」という声がありそうです。それは間違いではありません。しかし、それだけでは十分なのか、疑問だと感じます。

それさえ行えば、地方は活性化するのか?多くの場合、活性化しないと思われます。「特徴を生かす」という取組は、特徴がなければ捨て置かれることを意味しそうです。「ITを高度利用する」という取組は、IT活用以外の人間の営みに関心が向かないことを意味しそうです。地方の活性化を実現するためには「地方が丸ごと活性化する」アプローチが必要でないかと考えるのです。



関係者全てからなるエコシステムを活性化する

抽象的な話になったので例で考えてみましょう。「数種類の魚と、数種類の水草のある水槽」があるとします。以前は多類の魚・水草が多数、住んでいましたが、どんどんと減っていってしまいました。今は残っている魚・水草の生命力に加えて、外から面倒を見る人がいるので維持できているという状況です。この状況を持続可能に変えるため、何が必要でしょうか。

「特徴を花開かせる(「現状を生かしていく活性化」の、この例での適用)」も、「水ろ過装置を高性能なものに変える(「ITの高度活用などによる変化による活性化」の、この例での適用)も、正解だと分かります。いずれかがより重要なのではなく両方が重要です。しかし、これだけでは不足であることも分かるでしょう。


数種類の魚や水草のうち「特徴がある」と言われるものは一部です。その種を増強すれば(そこに沢山の餌を投入すれば、あるいは同種のものを外から移植すれば)上手くいくとは限りません。水のろ過装置にしても、高性能の機械に取り換えれば済む訳ではありません。配置などを考慮する他、適切な機能を常時チェックする必要があります。

このように考えてみると、この水槽を活性化するには「特徴を生かす」や「ろ過装置を更新する」だけでなく、水槽がエコシステムとして機能する配慮が必要だと気付きます。派手ではない魚や水草も元気になるような策を考える、今まである魚や水草だけでは足りないなら他から移植すると共に、それらも元気になれる策を総合的に考える必要があります。また、その策をずっと続けられる、即ち持続可能な策とする配慮も必要でしょう。


この部分が、先回にご紹介した「花」の話題に集約されるのだと思います。講師の関心は「他と比較すると、ひときわ目立つ花」に寄せられていたのではありません。「花を軸に数多くの事業者が関わるエコシステムの構築」に寄せられていたのではないかと思います。

「我が地域には特徴もエコシステムもないが。」では、まずそれを考えていくことをお勧めします。最近、島根県隠岐諸島の海士町の地方創生が話題になっています。地域をエコシステムと見立て、昔から住んでいる人と共に移住してきた人もハッピーにする地域にする(地域を仕組化する)アプローチが成功した好例と感じています。

<海士町URL>

http://www.town.ama.shimane.jp/index.html




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、未来を掴んでみてください。


<印刷版のダウンロードはこちらから>




なお、冒頭の写真は Copilot デザイナー により作成したものです。

 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた。総合研究所では先進的取組から地道な取組まで様ざまな中小企業を研究した。一方で日本経済を中小企業・大企業そして金融機関、行政などによる相互作用の産物であり、それが環境として中小企業・大企業、金融機関、行政などに影響を与えるエコシステムとして捉え、失われた10年・20年・30年の突破口とする研究を続けてきた。

独立後は中小企業を支える専門家としての一面の他、日本企業をモデルにアメリカで開発されたMCS(マネジメント・コントロール・システム論)をもとにしたマネジメント研修を、大企業も含めた企業向けに実施している。またイノベーションを量産する手法として「イノベーション創造式®」及び「イノベーション創造マップ®」をベースとした研修も実施中。

現在は、中小企業によるイノベーション創造と地域金融機関のコラボレーション形成について研究・支援態勢の形成を目指している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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