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第28回

新しい資本主義での付加価値生産

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



前回、新しい資本主義における値付けを考えました。お金が少ない以前の資本主義ではコストを積み上げて価格を決めるのが(ごく一部の貴重品を除いて)常識でしたが、資本家自身がお金を増やせる新しい資本主義ではコスト主義に基づく必然性が薄れます。


特に資本家や高額所得者が「この商品の特徴や性能、品質、こだわりへの対応などが素晴らしい。是非とも手に入れたい」と考えるような商品なら「他人に優先して自分が手に入れられるよう、価格が高いものの方が良い」と考えられるようになるので「コストの総額プラス穏当な利益」よりはるかに高い価格が歓迎されるようになるのです。今回はこの点を掘り下げて、日本の泳ぎ方を考えていきます。



商品の価値を高めるアプローチ

付加価値を高めるには新しい資本主義であっても、商品の価値を高めるアプローチが使えます。商品の特徴や性能、品質、こだわりへの対応などを極限まで高めていくのです。


「しかし日本では、過剰品質が問題になっているが。」それは、商品の特徴や性能、品質、こだわりへの対応を極限まで高めていくにあたり生産者目線ではなく、利用者目線である必要であることの教訓となります。


以前なら「耐用年数が5年の機械設備について10年もそれ以上も使えるのが高品質」と定義されたかもしれませんが、それはモノ不足時代の常識です。モノがふんだんにある状況なら、高いメンテナンス費用をかけるより5年で更新する方がコスト面でも管理面でも合理的なことが多いのです。ましてや技術革新で短期間に改善・改革が見込まれるなら「10年使える高い」のは高品質ではなく「5年で壊れる安い」よりも劣る特性と認識されます。


一方で今では、ついこの間まで特徴や性能、品質、こだわりへの対応などの範疇に入っていなかった項目が入ってきた、重視されるようになってきたことに注目できます。例えばSDGs概念が普及することにより「同種製品は原産地国の農地を荒らしているが、我が社の製品は持続可能にしている」とか「同種製品は他国の幼児を働かせて生産されているが、我が社の製品は仕事のない大人を雇用して高い水準の生活を可能にしている」などの価値が認められるようになってきました。資本家や高額所得者にとって高価格でも喜んで購入する貴重な価値であると認識されるようになったのです。



商品以外の価値を高めるアプローチ

一方で現在では商品以外でも価値を高められますます。社会問題を解決したいとの創業者の熱い想いと、失敗にも挫けずトライを続け遂に実現した物語が付加価値の源泉となり「ブランド」に結実している場合があります。


全く別の方向性として支払い手段があります。より支払いやすい手段を提供することで価値が高まったと感じられ、より高い価格が受け入れられたり購入頻度が高まる場合もあるのです。例えば映画ビジネスは、現金等で1回観覧のチケットを売って劇場で見せるだけでなく、クレジットカードによるサブスク契約(定期払い)で様々なコンテンツを提供することで莫大な売上・利益をあげています。動画を配信することには再生産コストがかからないという特性を活かしたビジネスと言えます。



システム(プラットフォーム)化によるアプローチ

ITやインターネット等に関する技術が進歩したことでシステム化が容易となりました。今まで単一機能を持つ機器等を各々持つ必要があったのに、今では電話・メール通信、写真撮影、音楽再生、インターネット閲覧など様々な機能がスマートフォン一つで可能になったのです。小型軽量化だけでなく、撮影した写真を即座にメールで送信できるというシステム化のメリットも享受できます。


更に同一メーカーのコンピューターやタブレットを持てば共通のプラットフォームで連携され情報共有できるというメリットも加わりました。外部のプラットフォームと連携すれば他人とも情報共有できる他、データ処理等のサービスも受けられるというメリットも受けられます。これら現象からお客がお金を払う対象が、個々機能の総計というよりシステム化やプラットフォーム化という新たな付加価値に移っていると解釈できるでしょう。


付加価値のあり方が以上のように変化する中、今の日本はどのような付加価値提供を考えているでしょうか。コスト積上による値付けとなる付加価値提供だけを目指していないでしょうか?


そうではなく、商品及び商品以外の価値を高めると共にシステム化・プラットフォーム化による価値も提供して、資本家や高額所得者が「この商品の特徴や性能、品質、こだわりへの対応などが素晴らしい。是非とも手に入れたい」と考えるような商品を提供することに意識を向ける必要があると思われます。それが新しい資本主義の泳ぎ方だと言えるでしょう。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、未来を掴んでみてください。


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なお、冒頭の写真は写真ACから パンダの中のパンダさんご提供によるものです。パンダの中のパンダさん、どうもありがとうございました。


 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた。総合研究所では先進的取組から地道な取組まで様ざまな中小企業を研究した。一方で日本経済を中小企業・大企業そして金融機関、行政などによる相互作用の産物であり、それが環境として中小企業・大企業、金融機関、行政などに影響を与えるエコシステムとして捉え、失われた10年・20年・30年の突破口とする研究を続けてきた。

独立後は中小企業を支える専門家としての一面の他、日本企業をモデルにアメリカで開発されたMCS(マネジメント・コントロール・システム論)をもとにしたマネジメント研修を、大企業も含めた企業向けに実施している。またイノベーションを量産する手法として「イノベーション創造式®」及び「イノベーション創造マップ®」をベースとした研修も実施中。

現在は、中小企業によるイノベーション創造と地域金融機関のコラボレーション形成について研究・支援態勢の形成を目指している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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