第34回
2024年スタートに高付加価値化を誓う
StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ 落藤 伸夫

2024年がスタートしました。1月1日には「令和6年能登半島地震」により甚大な被害が発生、翌2日には羽田空港で日航機と自衛隊機が接触事故を起こすなど、波乱の幕開けとなりました。地震や事故に見舞われた方々にお悔やみを申し上げます。私たちは困難な状況にある方々を支える一方で、私たち自身の取組をしっかりと行って社会を支えたいと考えています。中でもポイントになるのは昨年来考えている新しい資本主義での高付加価値実現です。今年は付加価値を付け加えていくノウハウを身につけて自分自身を、企業を、地域社会を、そして日本を豊かにさせていきたいと考えています。
経済の好循環を賃上げで実現しようとするアプローチ
今日本では政府が労働者の給料を引き上げるよう企業に声掛けしています。インフレ対応の意味合いもあるようですが「経済の好循環」を目指してのことだそうです。確かに、給料が上がれば労働者の消費も増えるでしょう。それは他企業の収入になり、企業は労働者に給料を払い、労働者がそれをまた消費するという循環が生まれます。これによりGDPは増大する、つまり人も企業も地域社会も、そして日本が豊かになっていくというロジックです。
ロジックとしては間違いありませんが、効果は限定的と考えられます。給料値上げの根拠として企業、特に大企業が利益をあげているにもかかわらず労働者に分配せず、社内留保としていることが挙げられています。確かに労働分配率の向上は、有能な人材を集め活用する上で有益で、企業にもメリットがあると思われますが、企業はなぜ踏み込まないのでしょうか?社内留保はこれからの変化に対応するための投資の原資でもあり、不透明でリスクが大きい将来に備えるための原資でもあります。2020年からのコロナ禍を経験して、社内留保をもっと厚くしなければならないと考えた企業は多いことでしょう。
これらの事情もあってか2023年春闘で約30年ぶりの約3.6%の賃上げが実現しましたが、物価の上昇ペースに見合う水準ではありません。また労働者は、引き上げられた給料の全額を消費に回すのではなく一部を貯蓄に向けるでしょう。すると循環する金額が減ってGDPへの反映が小さくなり、遂にはゼロとなります。これらが、賃上げによる景気への影響は限定的と考える理由です。
高付加価値化によるアプローチ
筆者は、付加価値を付け加えて今以上の高付加価値を実現するアプローチを勧めています。これは富を生み出すエンジンの強化ですから、分配の争奪戦による制約はありません。付加価値を高めれば高めるほどGDPは大きくなります。担い手として大企業ではなく、この連載コラムで昨年に考えたように中小企業も高付加価値化に参加できることも魅力です。自動車やIT、ビルディングや交通網などの社会インフラなどは関係する企業が多いので、そこで高付加価値化が実現すると恩恵に与る企業が多数に上ります。高付加価値化には賃上げにない波及効果があるのです。また高付加価値化による資金は当然給料にも反映するでしょう。このため経済の好循環を目指すなら賃上げではなく高付加価値化をスタートにするのが適当だと考えられるのです。
高付加価値化を実現する「考え方」
では高付加価値化をどのように実現するのか?これは高付加価値化に成功している欧米や中国等の方向性から学べると考えられます。考え方を切り替えるのです。高付加価値化を考える場合、日本では超最先端技術を獲得して産業化するアプローチがメインだと感じられます。一方で欧米や中国を見ていると、今ある技術をどんどん活用して今までなかった利便性を実現するアプローチが主だと感じられます。後者のメリットは、得られた成果により儲けていく(マネタイズする)期間が短いことと、活用分野を工夫すると非常に大きな市場にアピールできるので得られる儲けが大きくなることです。「既存技術の活用で高付加価値が実現できるのだろうか?」との疑念があるかもしれません。しかし周囲を見るとチャンスは無限にあると分かります。ほんの一例として、腕時計にセンサーを組み入れて常に体調を管理できるという新しい価値を実現してApple社は莫大な利益を得ました。
では欧米や中国は、どのような「考え方」を身に着けて高付加価値化を実現したのか?残念ながら、その側面での研究はないようです(少なくとも発表されていません)。しかし実現したイノベーションを見ることで、それがどのような発想で生まれたかを推察することはできると感じています。日本でも高付加価値化を実現できる考え方を身に着け活用することによって人、企業、地域社会そして国を豊かにしていきたいと考えています。
本コラムの印刷版を用意しています
本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、未来を掴んでみてください。
なお、冒頭の写真は写真ACから BLUEAMBER さんご提供によるものです。BLUEAMBER さん、どうもありがとうございました。
プロフィール
落藤伸夫(おちふじ のぶお)
中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA
日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた。総合研究所では先進的取組から地道な取組まで様ざまな中小企業を研究した。一方で日本経済を中小企業・大企業そして金融機関、行政などによる相互作用の産物であり、それが環境として中小企業・大企業、金融機関、行政などに影響を与えるエコシステムとして捉え、失われた10年・20年・30年の突破口とする研究を続けてきた。
独立後は中小企業を支える専門家としての一面の他、日本企業をモデルにアメリカで開発されたMCS(マネジメント・コントロール・システム論)をもとにしたマネジメント研修を、大企業も含めた企業向けに実施している。またイノベーションを量産する手法として「イノベーション創造式®」及び「イノベーション創造マップ®」をベースとした研修も実施中。
現在は、中小企業によるイノベーション創造と地域金融機関のコラボレーション形成について研究・支援態勢の形成を目指している。
【落藤伸夫 著書】
『日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル』
さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。
Webサイト:StrateCutions
- 第65回 企業が描きたい大戦略
- 第64回 大戦略を描いていくことの大切さ
- 第63回 技術か経営かではなく、技術も経営も
- 第62回 ニッサン・ホンダの破談をどう捉えるか
- 第61回 社会システム変化の軸となる主体性
- 第60回 社会システム視座の必要性
- 第59回 再構築が望まれるエコシステムの姿
- 第58回 突きつけられる課題と、その対応方法
- 第57回 「好ましいインフレ」を目指す取組
- 第56回 「好ましいインフレ」を目指す
- 第55回 地域の未掴をエコシステムとして描く
- 第54回 地域の未掴はどのようにして探すのか
- 第53回 日本の未来を拓く構想と新しい機関
- 第52回 新政権に期待すること
- 第51回 日本ならではの外貨獲得力案
- 第50回 未掴を掴む原動力を歴史的に探る
- 第49回 明治時代の未掴、今の未掴
- 第48回 オリンピック会場から想起した日本の出発点
- 第47回 都知事選ポスターから考える日本の方向性
- 第46回 都知事選ポスター問題で見えたこと
- 第45回 閉塞感を打ち破る原動力となる「気概」
- 第44回 競争力低下を憂いて発展戦略を探る
- 第43回 中小企業の生産性を向上させる方法
- 第42回 中小企業の生産性問題を考える
- 第41回 資本主義が新しくなるのか別の主義が出現するのか
- 第40回 「新しい資本主義」をどのように捉えるか
- 第39回 日本GDPを改善する2つのアプローチ
- 第38回 イノベーションで何を目指すのか?
- 第37回 日本で「失われた〇年」が続く理由
- 第36回 イノベーションは思考法で実現する?!
- 第35回 高付加価値化へのイノベーション
- 第34回 2024年スタートに高付加価値化を誓う
- 第33回 生成AIで新価値を創造できる人になる
- 第32回 生成AIで価値を付け加える
- 第31回 価値を付け足していく方法
- 第30回 新しい資本主義の付加価値付けとは?
- 第29回 新しい資本主義でのマーケティング
- 第28回 新しい資本主義での付加価値生産
- 第27回 新しい資本主義で目指すべき方向性
- 第26回 新しい資本主義に乗じ、対処する
- 第25回 「新しい資本主義」を考える
- 第24回 ChatGPTから5.0社会の「肝」を探る
- 第23回 ChatGPTから垣間見る5.0社会
- 第22回 中小企業がイノベーションのタネを生める「時」
- 第21回 中小企業がイノベーションのタネを生む
- 第20回 イノベーションにおける中小企業の新たな役割
- 第19回 中小企業もイノベーションの主体になれる
- 第18回 横階層がイノベーションを実現する訳
- 第17回 イノベーションが実現する産業構造
- 第16回 ビジネスモデルを戦略的に発展させる
- 第15回 熟したイノベーションを高度利用する
- 第14回 イノベーションを総合力で実現する
- 第13回 日本のイノベーションが低調な一因
- 第12回 ミスコンから学んだ将来の掴み方(2)
- 第11回 ミスコンから学んだ将来の掴み方(1)
- 第10回 Futureを掴む人になる!
- 第9回 新しい世界を掴む年にしましょう
- 第8回 Society5.0・中小企業5.0実践企業
- 第7回 なぜ、中小企業も5.0なのか?
- 第6回 中小企業5.0
- 第5回 第5世代を担う「ティール組織」
- 第4回 「望めば叶う」の破壊力
- 第3回 5次元社会が未掴であること
- 第2回 目の前にある5次元社会
- 第1回 Future は来るものではない、掴むものだ。取り逃がすな!