Catch the Future<未掴>!

第23回

ChatGPTから垣間見る5.0社会

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 





現在、社会が新しいフェイズ“Society5.0”に移行しつつあることを以前にお話ししました。2016年1月に閣議決定された「未来投資戦略2018―『Society5.0』『データ駆動型社会への変革』―」で明らかにされた概念です。段階的に次のフェイズに移行して5.0社会になることに、どれほどの意味があるのか、最近話題のChatGPTから端的に垣間見ることができると思います。今回はこのことを考えてみます。



社会フェイズの段階的発展を「軸」の追加から捉える

Society 5.0とはどんな社会か?狩猟社会である1.0、農耕社会である2.0、工業社会である3.0、情報社会である4.0に続く社会としてSociety 5.0は「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)」と説明されました。

https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/


この説明からSociety 5.0とはどんな社会なのかイメージするのは少し難しいと思われます。このため本コラム第2回「目の前にある5次元社会」では、「社会のフェイズがワンランクアップするごとに『次元軸』が一つ増えると理解ができる」とご提案しました。狩猟社会では狩人と獲物の偶然の出会いに頼っていました。偶然性を支配するのは時間なので、狩猟社会は時間軸による1次元の社会といえます。農業社会では作付面積を増やせば収穫も増えるという構図が成立しており、時間軸に規模軸を加えた2次元社会となりました。工業社会では工場での分業が確立して大量生産が実現、分業軸が加わった3次元社会と進化したのです。


そして情報社会では情報軸が加わりました。それにより便利になった例として「情報によるシミュレーション」を挙げたいと思います。「工業社会」で複雑な形状の部材を組み合わせた機械設備を完成するには、実物により無数の実験が必要でした。しかし「情報社会」では3D-CADなどを活用した情報によるシミュレーションが可能になりました。費用がかからず短時間で莫大な回数の試行ができるため、改善レベルが飛躍的に向上しました。


ではSociety 5.0で加わった軸は何か?社会・産業などをつぶさにみると「自働化」という軸が加わったと考えられます。まるで「望めば叶う」と表現できる状況が、他人の能力や仕事、成果をITやインターネット・ネットワークを通じて取り込むことで、実現するのです。



自働化のあり方

自働化の例としては以前に「クラウド・サービス」を挙げてご説明しました。インターネット・サイトで買い物すると履歴をもとにオススメ商品が提案されるのは、売り手・買い手の両者にとって「自働化」です。また今では、買い物の伝票を写真にとってクラウドにアップすれば会計データ化され財務諸表がアウトプットされます。また、システムと連携する金融機関に融資を申し込むとAIを活用して財務情報や銀行取引情報を分析、スピーディーに融資審査が行われてお金が振り込まれます。


自働化は更に、大々的に産業として取り込まれることで、今までにないインパクトを引き起こしました。Apple社は自社では製品を製造していません。魅力的な製品やビジネスモデルの企画・設計、そしてマーケティング、ブランディングなどに集中、製品の実現は他企業に任せています。この事業形態はROA(総資産利益率)を飛躍的に高められることが理解できるでしょう。



ChatGPTによる自働化とインパクト

ここにきて、新たな自働化のあり方が現れてきました。最近、非常によく話題に上るChatGPT等の生成AIです。生成AIと従来のAIは何が違うか?AI(Artificial Intelligence:人工知能)は明確な定義が難しい概念ですが、生成AIが生じる前は「それまでは複雑過ぎて機械やITシステムには難しいとされた(但し人間により正確に記述されたプロセスに基づき)情報収集や判断、アクション等を自動的に行う」のがAIとされてきました。「何をもとに、どんな操作をし、何を生み出すのか」を人間に決めてもらって、実行するのです。


一方で生成AIは「何を生み出すのか」さえ指示されれば、「何をもとに、どんな操作をするのか」は自分で判断します。インターネット上の膨大なデータをもとにパターンや関係等を学習、要望に応じるに適切な操作を選び、アウトプットするのです。こうしてChatGPTは「自働化軸が加わった新しい社会に突入」を端的に示す現象となりました。


今、新聞・雑誌・書籍などではChatGPTなどがしきりに話題に登っています。「使いこなせる人と使いこなせない人では、大きく差が出てしまう」との危惧感からだと思われますが、これこそ自働化が未掴である証拠です。未来は「未だ来ていないもの(時が到来すれば皆に来るもの)」ですが、未掴は「掴もうとする人しか得られないもの」です。Society 5.0の住民になれるか否かの第一歩は「自働化をいかに活用するか」を突き詰めて考えるか否かにかかっているといっても過言ではありません。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、未来を掴んでみてください。


<印刷版のダウンロードはこちらから>





なお、冒頭の写真は写真ACから FreeBackPhoto さんご提供によるものです。FreeBackPhoto さん、どうもありがとうございました。







 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた。総合研究所では先進的取組から地道な取組まで様ざまな中小企業を研究した。一方で日本経済を中小企業・大企業そして金融機関、行政などによる相互作用の産物であり、それが環境として中小企業・大企業、金融機関、行政などに影響を与えるエコシステムとして捉え、失われた10年・20年・30年の突破口とする研究を続けてきた。

独立後は中小企業を支える専門家としての一面の他、日本企業をモデルにアメリカで開発されたMCS(マネジメント・コントロール・システム論)をもとにしたマネジメント研修を、大企業も含めた企業向けに実施している。またイノベーションを量産する手法として「イノベーション創造式®」及び「イノベーション創造マップ®」をベースとした研修も実施中。

現在は、中小企業によるイノベーション創造と地域金融機関のコラボレーション形成について研究・支援態勢の形成を目指している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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