Catch the Future<未掴>!

第22回

中小企業がイノベーションのタネを生める「時」

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 




日本がFutureを掴むにはイノベーションのタネが多産される必要があり、その役割を果たす上で中小企業に期待が寄せられると、前回に考えてみました。「それは中小企業にとって、荷が重いだろう。」しかし人類が生まれて以来、今まで、イノベーションと言われるものはほとんど中小企業(あるいは個人)が生んできました。今、どんな「時」にイノベーションを生めるか、考えてみます。



モノは5回、生み出される

「人類が生まれて以来、イノベーションはほとんど中小企業(個人)が生んだというが、それは当たり前だ。昔は社会や産業がシンプルだったので、簡単なアイデアを実現するだけでイノベーションと言えた。一方で今は複雑化しているので中小企業には手に負えないのだ」という声が聞こえてきそうです。確かに近年、特に「技術革新」のイノベーションを生み出すには大規模な実験施設と多数の専門家が束になって取り組む必要があるので大企業の独壇場と言えます。一方で現在は、技術革新による成果のストックは目覚ましく、それを活用することでイノベーションを生む「新結合」のチャンスが多数あります。そこで中小企業の活躍が期待されているのです。


今回はもう一つ、別の側面から考えます。以前に「イノベーションと認められるには、技術的な優秀性・希少性等に加えて『これにより多くの人の生活が変わった』と認められているというポイントがある」と申しました。この代表例としてiPhoneがあります。ではiPhoneは何回生まれた末にイノベーションとなったのでしょうか?


「iPhoneが複数回生まれたとは、どういう意味か?」私たちが目にするiPhone(初代iPhoneをイメージしてみて下さい)は、いきなり実現した訳ではありません。まず「今まで各々の専用機が必要だった各種機能を1台で実現する小型機があったら」というアイデアを持つ(発想)ことが出発点です。


次にそれを具体化して「カメラ機能付きの携帯電話ではあるが、小型のCPUと今までのインジケーターよりもはるかに多量の情報を表示できるディスプレイを内蔵、時計機能や計算機能のほかインターネットを閲覧できるブラウザなどまで搭載して『掌に収まる小さなコンピュータ』である商品を作りたい」という姿を描き(企画)、その案が実現可能かをチェックした上で、実際にどんなモノを実現するか設計図を描き(開発・設計)ます。ここまではアイデアや情報など無体物を進化させる段階です。


次に実際の製品を作成して微調整を加えながら最終形を決定(試作)、作りやすさや不良品の出にくさ、コスト低減などの観点からの工夫を加えた上で販売できる製品を製造します(量産)。アイデアが個人の頭の中で浮かぶ発想から、企画、開発・設計、試作、量産と5回誕生(他の分類法もありますが、ここでは5つに分類します)することで、イノベーションが実現できるのです。



5回の誕生における中小企業の関わり方

以上5回の誕生を経てイノベーションが生み出される中で、中小企業はどのように関わるか?戦後の大企業・下請中小企業の二極構造では、中小企業が関わるのはほとんど5番目の量産においてでした。次第に高度な工作機械などを中小企業も持てるようになることで、試作に中小企業が関わることも多くなりました。


一方で、アイデアや情報など無体物を進化させるプロセスに中小企業が関わるのは難しかったのです。「複数の専用機の機能を1台で実現する小型機」という「新結合」を思いついても、各々の機器が別個のシステムで動いている状況では「それらをどうやって結合させる?」という壁にぶつかったら最後、前に進むことはできなかったのです。しかし現在では、それら機能はアプリケーションとしてパッケージ化され、それらを運用するシステム(OS)も整備されており、利用・結合が容易になりました(それを実現したのがiPhoneあるいはiPad、iPod(順不同)によるイノベーションです)。


それを実現する技術もアプリケーション開発言語などの形で公開され、誰でも学べるようになりました。このようにして今や、アイデアや情報など無体物を進化させる段階に中小企業が、あるいは個人が関与するハードルが大きく下がったのです(PCの世界でも、アマゾンのAWS:Amazon Web Servicesなどによる利用の容易化が進んでいます)。このような環境ができあがると、中小企業がイノベーションを担えるケースが増えることが理解できると思います。中小企業は最終顧客・利用者(中小企業・個人)と接触する機会が大企業に比べて格段に多いので、様々なニーズを聞き、シーズを察することができます。


これまではそれらを聞いても「大企業が用意してくれるまで待ちましょう」としか言えませんでしたが、今や「自分が試してみます」と言えます。実際、AmazonやGoogleなどで提供される革新的サービスのほとんどは、このようなプロセスで生まれていると推察されます。


日本の中小企業にも、是非参入してもらいたい事業機会です。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、未来を掴んでみてください。


<印刷版のダウンロードはこちらから>




なお、冒頭の写真は写真ACから FineGraphics さんご提供によるものです。FineGraphics さん、どうもありがとうございました。


 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた。総合研究所では先進的取組から地道な取組まで様ざまな中小企業を研究した。一方で日本経済を中小企業・大企業そして金融機関、行政などによる相互作用の産物であり、それが環境として中小企業・大企業、金融機関、行政などに影響を与えるエコシステムとして捉え、失われた10年・20年・30年の突破口とする研究を続けてきた。

独立後は中小企業を支える専門家としての一面の他、日本企業をモデルにアメリカで開発されたMCS(マネジメント・コントロール・システム論)をもとにしたマネジメント研修を、大企業も含めた企業向けに実施している。またイノベーションを量産する手法として「イノベーション創造式®」及び「イノベーション創造マップ®」をベースとした研修も実施中。

現在は、中小企業によるイノベーション創造と地域金融機関のコラボレーション形成について研究・支援態勢の形成を目指している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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