Catch the Future<未掴>!

第4回

「望めば叶う」の破壊力

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 

 今、政府は日本が模索すべき姿として“Society5.0”を提唱しています。前号で、社会の進化は次元軸の追加として捉えられるのではないか、“Society5.0”は社会の5次元化を意味しているのではないかとの仮説を提示しました。太古から人類は時間軸・規模軸・分業軸と次元軸を加え、コンピューターの普及により情報軸を加えて4次元化したと考えられます。


 実物を使って実験する必要なく試行錯誤して今までにないスピードで改善を進められるシミュレーションは、情報化の典型例です。そして今日、社会は5次元化しつつあります。そこで加えられるのは「自働化」軸ではないかとの筆者の考えについて、前号に引き続きご説明します。



5次元社会の自働化(願えば叶う)

 「それにしても『自働化』とは面白い言葉だな。『自動化』ではないのか。」良いところにお気付きになりました。まさにそこが”Society5.0”の真骨頂です。


 まず、比較しての「自動化」について。こちらは情報化時代の姿だと言えるでしょう。コンピューターを使ってシミュレーションをする場合、シミュレーションの方法はプログラマーがプログラムしなければなりませんでした。例えば「今、4つの部品を設計した。それを組み合わせると、作り上げたい部材になるのだろうか」をプログラミングして、それをコンピューターに計算させるのです。コンピューターは、与えられた仕事を「自動的に」進めますが、それはあくまでも人間の指示に従ってのことだったのです。


 一方で”Society5.0”の「自働化」は違います。「こんな“もの”が欲しい」と願えば実現するのです。「AIの時代だから、一部にはそれも実現しているかもしれない。でも一般的にはそこまで進歩していないはずだが。」そうですね。まだ、コンピューターやITは「願えば叶う」ほどまでには進歩していません。しかし実はもっとアナログな仕組みで「願えば叶う」が実現しています。インターネットを使った発注体制です。


 皆さんはクラウドソーシングの”Lancers”をご存知でしょうか?ネット上で要望をアップすると「その仕事をやりたい」専門家が企画書や試作品、時には製品を提示するので、発注主は最善のものを選べば良いのです。例えば「○○な経営理念を持つ我が社の社章が欲しい」と願えば、専門家が案を提示してくれます。



「願えば叶う」の実践例

 「確かに『願えば叶う』は便利だ。しかし、そんな都合の良い状況は、あまり生じないだろう。先ほど例に挙げたような限られたビジネスに限られるのではないか?」では、アメリカで、つまり世界で最も強大で影響力のある企業群“GAFA”の一翼を担うApple社を見て下さい。「iPhoneやiPad、MACパソコンのメーカーだな。それが何か?」はい、Apple社が自社では製品を製造していないことは、良く知られています。Apple社は魅力的な製品やビジネスモデルを企画・設計して、その実現は他企業に任せているのです。つまり、「願えば叶う」を実践している企業と言えます。


 「それはどうかな。例えばトヨタやニッサンだって下請企業は使っている。たいして違いはないのでは?」そう思われるのも、もっともかもしれません。しかし、トヨタやニッサンは最終製品を自分で生産しています。下請企業が作った部材を集大成して自動車という最終製品に作り上げるノウハウは、自分で囲い込んでいるのです。「願いは、自分で叶える」タイプですね。一方でApple社は、製造に関するノウハウは一切囲い込まず、他社に全面的に任せています。こちらは「願えば叶う」を地でいくシステムを形成しています。



「願えば叶う」の破壊力

 Apple社の「願えば叶う」の力がいかほどか、同業種とのパフォーマンス比較で考えてみましょう。携帯電話(私たちが手にする「携帯電話」という機械)による収益を比べた時、Apple社ほど収益力がある企業があるでしょうか?「残念ながら、そんな会社はない。逆に『携帯端末メーカー』というポジションを死守するため、収益度外視で生産を続けているとしか言いようのない企業もあるようだ。」本当にそうです。この差はどこから生まれたのでしょうか?


 もちろん要因は一つではありませんが、根本原因の一つとして挙げられるのは「Apple社が、製品実現の場面で『願えば叶う』構図を使って最小コスト・最短納期で自分が得たい製品を手に入れられる体制を築く一方で、自分は魅力的な製品・ビジネスモデルの企画開発に集中した」ことにあると思われます。「願うが叶う」の利用は、単にコストや納期上のメリットだけではなく、自らの限られた資源を「最も強みのある」、「最も付加価値の高い」場面に集中できるというメリットをもたらしたと考えられます。




<本コラムの印刷版を用意しています>

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、未来を掴んでみてください。



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プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた。総合研究所では先進的取組から地道な取組まで様ざまな中小企業を研究した。一方で日本経済を中小企業・大企業そして金融機関、行政などによる相互作用の産物であり、それが環境として中小企業・大企業、金融機関、行政などに影響を与えるエコシステムとして捉え、失われた10年・20年・30年の突破口とする研究を続けてきた。

独立後は中小企業を支える専門家としての一面の他、日本企業をモデルにアメリカで開発されたMCS(マネジメント・コントロール・システム論)をもとにしたマネジメント研修を、大企業も含めた企業向けに実施している。またイノベーションを量産する手法として「イノベーション創造式®」及び「イノベーション創造マップ®」をベースとした研修も実施中。

現在は、中小企業によるイノベーション創造と地域金融機関のコラボレーション形成について研究・支援態勢の形成を目指している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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