第61回
社会システム変化の軸となる主体性
StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ 落藤 伸夫
今年そして今後を明るいものにするために、社会システムという視座が必要であることについて、前回に考えました。「賃上げしても物価に追いつかない」とか「金利が引き上げられると家が買いにくくなる」あるいは「今年はどんな景気拡大策が打たれるのか」への関心も重要ですが、「今後にどのような社会システムを築くことが、私たちの幸せに繋がるのだろうか」と想いを寄せることも、一方で大切なことだと考えられます。
社会システムの変化が求められる要因
自動車の自動運転等を含むITやAi等の進歩は私たちの生活を大きく変えていくでしょう。「仕事がなくなる職種のリスト」は、大きなインパクトを与えました。「ルールや過去事例等をできるだけ早く検索して活用する」ことがメインの職種は、高確率でなくなると指摘されていたとの印象です。その流れで法律相談も含まれていたようで、確かに検索する場面ではIT・Ai等に優位性があるでしょう。
しかし得られた結果をどう用いるかとか、顧客とどのように向き合うのかという場面では人間が行った方が良い、人間か関わらなければ業務が完成しないと考えられます。また法律相談においては「本事案が過去事例と異なるため、一般的ルールや判例とは異なる結論を導き出す必要がある」との結論がポイントになる場合がありますが、検索ばかりに意識を集中していたのでは、それは望むことはできません。
このことに気が付かずにIT・Ai化を進めて創意工夫できる人材と置き換えていくと、国際的に競争が熾烈になっている中、この面でも日本が負け組になってしまうかもしれません。
このためIT・Aiの普及・浸透について無為自然に、受動態的に受け入れるのではなく「これから〇〇な世の中にしていきたい」という意思を持って、能動態的に対応する必要があると考えられます。人々の仕事、生活そして社会を意思を持って、能動態的に形成していくのは難しいでしょう。
一方で社会システムについては、意思を持って能動態的に対応することが可能と考えられます。例えばある自動車会社は、自動車の進化を前提にした未来都市構想に取り組んでいるとのこと。こうやって社会システムの視座を持つことで、弊害を防ぐだけでなく、今まで困っていた問題の解決から、生活・幸福度の向上までを目指していけるようになると考えられます。
変化の軸となるのは確立した「個」
「しかし今後がどのような姿になるかが分からない。社会システムについても、考えようがないではないか」との意見がありそうですが、筆者は別意見です。確かに、今度どのような生活になっていくか、社会が望まれるか、そのためにどんな社会システムが必要になるかは、今は分かりません。というか、今後も分からないと思います。常に高速で変化する時代になると予想されるからです。
20世紀の後半を概観すると、日本は戦後から高度成長期まで急速に豊かになりましたが、思考や記録、情報伝達の媒体は紙とペンそして会話と、中世からほとんど変わっていません。過去の仕事ぶりを俯瞰できたら、昭和40年代頃までは本質的に変化していないことに気付くと思います。20世紀末にITが進歩、コンピュータとインターネットの普及により「コンピュータへの打ち込み、ITでの記録・伝達」へと変化したことで、仕事から生活、社会まで大きく変化したと感じています。
そしてAiの普及、特に生成Aiを自由に使えるようになり、更に大きな変化が生じる気配です。生成Aiの普及による変化の特徴は「定着し安定する」に収束しないことにあると考えています。パソコンの利用、あるいは携帯電話やインターネットによる通信でさえ「このように使える、あのようにも使える」が出尽くして(一部例外的にこれまでにない使い方を開発する人・企業はいますが)、安定期に入っていったと感じています。
一方で生成Aiは「質問に答える」ツールです。今までの検索は質問の答えがありそうな記事を示すだけでしたが、生成Aiは答えそのものを返してきます。対話を続けるうちに「人の思考」に直接に働きかけ、刺激を与え、思考をどんどんと飛躍させる力を持ちます。それは仕事や生活、社会を急速に変化させる原動力となるでしょう。すると社会システムも急速に変化せざるを得ません。
このため今後に必要となるのは、「どんな社会システムが必要になるのか」を考えて実現できる思考、社会システムを上から見て設計するメタ思考ではないかと考えられます。
こういうと壮大すぎる話のように感じられますが、その第一歩は「私はどんな人生を送りたいのか、どんな幸せを掴みたいのか」の意思だと考えられます。急速な変化に対応するためには、自分の主体性を確立した個であることがポイントになると感じられます。
本コラムの印刷版を用意しています
本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、未来を掴んでみてください。
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なお、冒頭の写真は Copilot デザイナー により作成したものです。
プロフィール
中小企業診断士事務所 StrateCutions 代表
合同会社StrateCutions HRD 代表社員
落藤 伸夫
早稲田大学政治経済学部卒(1985 年)
Bond-BBT MBA 課程修了(2008 年)
中小企業診断士登録(1999 年)
1985 年 中小企業信用保険公庫(日本政策金融公庫)入庫
2014 年 日本政策金融公庫退職
2015 年 中小企業診断士事務所StrateCutions 開設
2018 年 合同会社StrateCutions HRD 設立
Webサイト:StrateCutions
- 第61回 社会システム変化の軸となる主体性
- 第60回 社会システム視座の必要性
- 第59回 再構築が望まれるエコシステムの姿
- 第58回 突きつけられる課題と、その対応方法
- 第57回 「好ましいインフレ」を目指す取組
- 第56回 「好ましいインフレ」を目指す
- 第55回 地域の未掴をエコシステムとして描く
- 第54回 地域の未掴はどのようにして探すのか
- 第53回 日本の未来を拓く構想と新しい機関
- 第52回 新政権に期待すること
- 第51回 日本ならではの外貨獲得力案
- 第50回 未掴を掴む原動力を歴史的に探る
- 第49回 明治時代の未掴、今の未掴
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- 第47回 都知事選ポスターから考える日本の方向性
- 第46回 都知事選ポスター問題で見えたこと
- 第45回 閉塞感を打ち破る原動力となる「気概」
- 第44回 競争力低下を憂いて発展戦略を探る
- 第43回 中小企業の生産性を向上させる方法
- 第42回 中小企業の生産性問題を考える
- 第41回 資本主義が新しくなるのか別の主義が出現するのか
- 第40回 「新しい資本主義」をどのように捉えるか
- 第39回 日本GDPを改善する2つのアプローチ
- 第38回 イノベーションで何を目指すのか?
- 第37回 日本で「失われた〇年」が続く理由
- 第36回 イノベーションは思考法で実現する?!
- 第35回 高付加価値化へのイノベーション
- 第34回 2024年スタートに高付加価値化を誓う
- 第33回 生成AIで新価値を創造できる人になる
- 第32回 生成AIで価値を付け加える
- 第31回 価値を付け足していく方法
- 第30回 新しい資本主義の付加価値付けとは?
- 第29回 新しい資本主義でのマーケティング
- 第28回 新しい資本主義での付加価値生産
- 第27回 新しい資本主義で目指すべき方向性
- 第26回 新しい資本主義に乗じ、対処する
- 第25回 「新しい資本主義」を考える
- 第24回 ChatGPTから5.0社会の「肝」を探る
- 第23回 ChatGPTから垣間見る5.0社会
- 第22回 中小企業がイノベーションのタネを生める「時」
- 第21回 中小企業がイノベーションのタネを生む
- 第20回 イノベーションにおける中小企業の新たな役割
- 第19回 中小企業もイノベーションの主体になれる
- 第18回 横階層がイノベーションを実現する訳
- 第17回 イノベーションが実現する産業構造
- 第16回 ビジネスモデルを戦略的に発展させる
- 第15回 熟したイノベーションを高度利用する
- 第14回 イノベーションを総合力で実現する
- 第13回 日本のイノベーションが低調な一因
- 第12回 ミスコンから学んだ将来の掴み方(2)
- 第11回 ミスコンから学んだ将来の掴み方(1)
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- 第9回 新しい世界を掴む年にしましょう
- 第8回 Society5.0・中小企業5.0実践企業
- 第7回 なぜ、中小企業も5.0なのか?
- 第6回 中小企業5.0
- 第5回 第5世代を担う「ティール組織」
- 第4回 「望めば叶う」の破壊力
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- 第2回 目の前にある5次元社会
- 第1回 Future は来るものではない、掴むものだ。取り逃がすな!