第54回
地域の未掴はどのようにして探すのか
StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ 落藤 伸夫
衆議院総選挙では大きな地殻変動がありました。が、本コラムでは政治には触れないことにしています。今回は石破総理が初代大臣となった「地方創生」について考えます。「地域の未掴はどう探すのか?」についてです。
2つの会で考えた地域活性化
先日、地域活性化に関する講演会に参加しました。講師は多彩な経験を持った元政治家で、総選挙も終わったばかりのタイミングだったので話題は様々な方面に飛び、その講師の話術が堪能できました。
地域活性化については話の要所要所に埋め込まれていた中、講演会に付き物の「花」に関する話が印象的でした。壇上の花が景気の浮き沈みを如実に表すことや、土地毎に特色ある花が供されることにまつわる喜劇的エピソードを織り込みつつ、「花はどこにもある産業。6次産業と言われるほど数多くの事業者が関わる」という言葉が印象に残りました。
この話を聞くうちに、他の場所での地域活性化に係る会話を思い出しました。ある交流会で同席した二人が偶然、地域活性化を支援する活動をしていました。一人は長年にわたって地域に根付いて活動してきたが事業承継に苦しんでいる企業について、承継者を探す事業計画書の策定支援を、もう一人は田舎に移住者したい人向けの不動産を扱っていました。
地域の活性化をテーマに働く二人なので話が合うと思いきや、実はかみ合いませんでした。事業承継計画支援を行う者は、いわば「現状を維持する活性化」を目指すところ、不動産業者は「ITの高度活用などによる変化による活性化」を目指していたのです。両者の話は時に鋭く対立していました。
両者から意見を聞かれた筆者は「どちらかが正解、どちらかが不正解との判断は下せない。地域が目指す活性化の方向性によるのではないか」と答えました。
そう答えると不動産業者は不満そうでした。「ITの高度利用」は絶対的正解で、それが否定されるとは全く想定していなかったようでした。それで「ITを使うと、どんなメリットがあるのか」と聞くと「1人でやる仕事が0.5人か、それ以下で対応できるようになる」との答えでした。「0.5人という人間はいないし、そのロジックでは地域の人はどんどん減ってしまうのでは?」と問うたところで交流会が終りました。
地方活性化に正解はあるか、ないか
この2人は、何が違うのか?「正解があるので、それをいかに適切に実現していくかが課題」というアプローチか、「正解はないので、先ずは自分が何をしたいのか考えていくことが課題」というアプローチかの違いのように感じられました。不動産業者は正解があるとの考え方、計画支援者は正解がないとの考え方のようです。
筆者は「地域が活性化していくにあたっての絶対的な正解はない。このため地域毎に『我が地域の活性化策』を考えていくことがポイント。もちろん事業者だけでなく、そこに住む人々、そして自治体などの考えも踏まえる必要がある」と考えています。
一方で「正解がある」との考え方が完全に間違だとも思いません。高度成長期やその後の地域活性への取組は「正解がある」とのスタンスだったように感じます。例えば「都会にある施設(箱もの)を建設すれば地域も活性化する」を正解とする考え方です。今でも「我が地域は〇〇により活性化を目指したい」との案が出て来ない場合には、「正解」を示して推進していくしかないのかもしれません。
但し、箱ものを建設して活性化する地域もあれば活性化しない地域もあります。その差はどうして生じるのか?筆者は「地域の活性化は、そこにいる人々や企業などが元気になれる生態系(エコシステム)を形成することで成立する」と考えています。
箱ものができたことで人々や企業などが元気になれるエコシステムが形成できれば、地域は活性化するでしょう。しかしできないなら、活性化できないでしょう。このような次第で筆者は「地域活性化に絶対的な正解はない。このため地域毎に『我が地域が元気になるエコシステムの姿』を、そこに住む人々、事業者そして自治体が話し合い、描いていくことがポイント」と考えているのです。
「しかしそれを考えるのが難しいのではないか。」ある意味で仰る通りですが、発想を切り替えるとタネは数多く見付けられると思います。
冒頭に述べた講演会の講師は「花」に注目しました。彼は在職中、地域の農産品をベースに地域おこしをしています。それ以外に観光資源や住みやすさ、果ては「何もないところ」まで、地域資源は沢山あると考えられます。
「地域資源をベースにエコシステムを描いていく」ことが、地域が未掴を掴んでいくポイントになると考えられます。
本コラムの印刷版を用意しています
本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、未来を掴んでみてください。
なお、冒頭の写真は Copilot デザイナー により作成したものです。
プロフィール
中小企業診断士事務所 StrateCutions 代表
合同会社StrateCutions HRD 代表社員
落藤 伸夫
早稲田大学政治経済学部卒(1985 年)
Bond-BBT MBA 課程修了(2008 年)
中小企業診断士登録(1999 年)
1985 年 中小企業信用保険公庫(日本政策金融公庫)入庫
2014 年 日本政策金融公庫退職
2015 年 中小企業診断士事務所StrateCutions 開設
2018 年 合同会社StrateCutions HRD 設立
Webサイト:StrateCutions
- 第55回 地域の未掴をエコシステムとして描く
- 第54回 地域の未掴はどのようにして探すのか
- 第53回 日本の未来を拓く構想と新しい機関
- 第52回 新政権に期待すること
- 第51回 日本ならではの外貨獲得力案
- 第50回 未掴を掴む原動力を歴史的に探る
- 第49回 明治時代の未掴、今の未掴
- 第48回 オリンピック会場から想起した日本の出発点
- 第47回 都知事選ポスターから考える日本の方向性
- 第46回 都知事選ポスター問題で見えたこと
- 第45回 閉塞感を打ち破る原動力となる「気概」
- 第44回 競争力低下を憂いて発展戦略を探る
- 第43回 中小企業の生産性を向上させる方法
- 第42回 中小企業の生産性問題を考える
- 第41回 資本主義が新しくなるのか別の主義が出現するのか
- 第40回 「新しい資本主義」をどのように捉えるか
- 第39回 日本GDPを改善する2つのアプローチ
- 第38回 イノベーションで何を目指すのか?
- 第37回 日本で「失われた〇年」が続く理由
- 第36回 イノベーションは思考法で実現する?!
- 第35回 高付加価値化へのイノベーション
- 第34回 2024年スタートに高付加価値化を誓う
- 第33回 生成AIで新価値を創造できる人になる
- 第32回 生成AIで価値を付け加える
- 第31回 価値を付け足していく方法
- 第30回 新しい資本主義の付加価値付けとは?
- 第29回 新しい資本主義でのマーケティング
- 第28回 新しい資本主義での付加価値生産
- 第27回 新しい資本主義で目指すべき方向性
- 第26回 新しい資本主義に乗じ、対処する
- 第25回 「新しい資本主義」を考える
- 第24回 ChatGPTから5.0社会の「肝」を探る
- 第23回 ChatGPTから垣間見る5.0社会
- 第22回 中小企業がイノベーションのタネを生める「時」
- 第21回 中小企業がイノベーションのタネを生む
- 第20回 イノベーションにおける中小企業の新たな役割
- 第19回 中小企業もイノベーションの主体になれる
- 第18回 横階層がイノベーションを実現する訳
- 第17回 イノベーションが実現する産業構造
- 第16回 ビジネスモデルを戦略的に発展させる
- 第15回 熟したイノベーションを高度利用する
- 第14回 イノベーションを総合力で実現する
- 第13回 日本のイノベーションが低調な一因
- 第12回 ミスコンから学んだ将来の掴み方(2)
- 第11回 ミスコンから学んだ将来の掴み方(1)
- 第10回 Futureを掴む人になる!
- 第9回 新しい世界を掴む年にしましょう
- 第8回 Society5.0・中小企業5.0実践企業
- 第7回 なぜ、中小企業も5.0なのか?
- 第6回 中小企業5.0
- 第5回 第5世代を担う「ティール組織」
- 第4回 「望めば叶う」の破壊力
- 第3回 5次元社会が未掴であること
- 第2回 目の前にある5次元社会
- 第1回 Future は来るものではない、掴むものだ。取り逃がすな!