第12回
ミスコンから学んだ将来の掴み方(2)
StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ 落藤 伸夫
先回は、ある研究会で学んだ将来の掴み方について考えました。グローバル・マーケティングに関する研究会で2018年ミス・インターナショナル日本代表岡田朋峰さんによる「世界の美の競演~ミス・インターナショナル世界大会に参加して学んだこと~」と題したお話しから、ミスコンに参加するとは価値創造に携わることであること、その発想が今を生きる私たち、企業にも有益であると考えたのです。今回は同じお話から、私たちがどのようにして自分たちの存在を磨けるか、考えていきます。
コンテスタントが全員集う学びの場
岡田さんのお話から、ルールも価値基準も決まりのない競争を生きている私たち・企業は「価値創造に携わっている。顧客に認められる価値を一番の外側に現わせられるよう、内面を磨いている。どんな価値を生むかには答えがなく、自分で選ぶことができる。自らが選び身に着けようとする価値を集大成するために、自ら考えながら努力を尽くしている」と考えることで、自分たちの存在を磨き上げ、顧客から認めてもらうことができそうです。
では、その磨き上げをどのように行なっていくか。岡田さんのお話からもう一つ、興味深い示唆をもらいました。ミス・インターナショナル代表を選ぶ日本大会では、予選を勝ち抜いた参加者(コンテスタント)たちは3週間、合宿での学習を行うそうです。そこでは座学の学びの他、企業や団体などの見学などもあるとのこと。参加者は合宿研修中、自分を分析して見極めると共に、日本を代表する“ミス”になれるよう自分を磨いていきます。
集団でお互いから学び合うメリット
ミス・インターナショナルでは日本大会本選前に、なぜこのような集合研修をするのか?岡田さんの口から語られた訳ではありませんが、「コンテスタントが一堂に会して学んだ方が、個人あるいは少人数で学ぶより得るものが多い(個人・少人数では得られない学びが得られる)」と考えられたからではないかと思います。
それを示唆する指摘として岡田さんは「ファイトとコンペティションの違い」を教えてくれました。ファイトとは勝ち負けが全てである対戦、コンペティションとは勝負の経緯や理由にも想いを馳せる対戦です。このため対戦相手に対する尊敬の念(レスペクト)も生まれます。
経緯や理由にも想いを馳せる対戦に備えてレスペクトする対戦者同士が一緒に学ぶと、何が生じるか。一つには、「他人の学び方から学ぶ」ことが可能になります。同じ言葉で教えられ、同じ見本を見せられ、同じ場所を見学しても、受け取り方は人それぞれで活かす仕方も異なるでしょう。「同じ教えを、あの人は私とは違ったように受け取り、違ったように応用したようだ。それもありだな」と感じることで多彩・幾重もの学びが得られます。
もう一つ「他人を見る目を養える(異なる視座を得られる)」があると思います。「今までの常識、現在学んでいること、コンテスタント同士の共通項などからは説明できないけれど、あの人には魅力がある。多くの人もあの人に魅せられている」ことに気付き、「その理由は何だろう」と考えていくうちに、新しい視座が得られるのです。
どれだけ学べるかの競争
以上のように考えると、私たち・企業が置かれた環境も、コンテスタントが合宿で学び合いする状況に似ていると考えられます。競合企業同士が同じ市場で競争し、競合企業がどのような製品を、どのように宣伝しながら売っているか、私たちは見ることができるからです。
この状況で「マーケティング雑誌を見ると、当社の製品よりも他社製品の方が売れているようだ。悔しい」とだけ思うなら、それは“ファイト”です。コンペティションの精神で「競合他社は、なぜ当社よりも売れているのだろう?同じ市場で、同じトレンドを感知して対応しているのに」と考えることで、彼らが自分たちとは違う学びを得ていることが判るかもしれません。そのアプローチではどうしても判明しないなら、新たな視座が必要なのかもしれません。そこから見た時だけ、彼我の違いが、それもくっきりと見えてくる可能性があります。
ビジネスでの競争はルールも価値判断基準もないからこそ、それが価値創造に関わる競争であることを認識し、「自らが選び身に着けようとする価値を集大成するため、自ら考えながら努力を尽くしている」との姿勢で立ち向かうことで糸口が見つかると考えられます。
但し、どのような努力を行えば良いのか、そう簡単には判りません。それについても学び、考え、自ら編み出していく必要があります。幸いなことに私たち・企業は、ミスコンのコンテスタントが合宿で学び合っているように、競合他社と同じ舞台で学び合っている関係にあります。その環境を十二分に活かして「学ぶことに上手になった人・企業」こそが生き残り、勝利が得られるのだと考えられます。
(公式サイト)
グローバル・マーケティング研究会 http://gumaken.org/
岡田朋峰さん https://www.centforce.com/profile/t_profile/okadatomomi.html
<本コラムの印刷版を用意しています>
本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、未来を掴んでみてください。
なお、冒頭の写真は写真ACから acworks さんご提供によるものです。acworks さん、どうもありがとうございました。
プロフィール
落藤伸夫(おちふじ のぶお)
中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA
日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた。総合研究所では先進的取組から地道な取組まで様ざまな中小企業を研究した。一方で日本経済を中小企業・大企業そして金融機関、行政などによる相互作用の産物であり、それが環境として中小企業・大企業、金融機関、行政などに影響を与えるエコシステムとして捉え、失われた10年・20年・30年の突破口とする研究を続けてきた。
独立後は中小企業を支える専門家としての一面の他、日本企業をモデルにアメリカで開発されたMCS(マネジメント・コントロール・システム論)をもとにしたマネジメント研修を、大企業も含めた企業向けに実施している。またイノベーションを量産する手法として「イノベーション創造式®」及び「イノベーション創造マップ®」をベースとした研修も実施中。
現在は、中小企業によるイノベーション創造と地域金融機関のコラボレーション形成について研究・支援態勢の形成を目指している。
【落藤伸夫 著書】
『日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル』
さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。
Webサイト:StrateCutions
- 第65回 企業が描きたい大戦略
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- 第63回 技術か経営かではなく、技術も経営も
- 第62回 ニッサン・ホンダの破談をどう捉えるか
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- 第60回 社会システム視座の必要性
- 第59回 再構築が望まれるエコシステムの姿
- 第58回 突きつけられる課題と、その対応方法
- 第57回 「好ましいインフレ」を目指す取組
- 第56回 「好ましいインフレ」を目指す
- 第55回 地域の未掴をエコシステムとして描く
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- 第48回 オリンピック会場から想起した日本の出発点
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- 第11回 ミスコンから学んだ将来の掴み方(1)
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