第44回
競争力低下を憂いて発展戦略を探る
StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ 落藤 伸夫
先日、本コラム掲載元であるInnovationS-i主催の、支援機関に参画する企業・団体のみが参加できる会合に出席し、イノベーションズアイ編集局の編集アドバイザーであり産経新聞社のコンプライアンス・アドバイザーでもある鶴田東洋彦さんによる『「昭和の経営者の気概に学ぶ」~経済記者から見た“経営者の姿”~』という講演を聞きました。往年、世界一と謳われた日本の競争力が今や35位にまで転落した理由について、経済記者として長きにわたって活躍した鶴田さんは「経営者の気概の問題」と断じました。今回は、この話題から、これからの日本を考えていきます。
今、日本の競争力はどれほどなのか
スイスのビジネススクール、国際経営開発研究所(IMD)による「世界競争力ランキング」、世界64カ国を対象にした2023年版総合指標で日本は2022年版より1ランク落して世界第35位となりました。
https://www.imd.org/centers/wcc/world-competitiveness-center/rankings/world-competitiveness-ranking/
このランキングは四つの指標で評価した上で総合指標を導き出しています。第1は国内経済、貿易、国際投資、雇用、物価などの「経済状況」で日本は26位(前年は第20位)、第2は財政、租税政策、制度的枠組み、ビジネス法制、社会的枠組みなどの「政府効率性」で42位(同39位)、第3は生産性・効率性、労働市場、金融、経営プラクティス、取り組み・価値観などの「ビジネス効率性」で47位(同51位)、第4は基礎インフラ、技術インフラ、科学インフラ、健康・環境、教育などの「インフラ」で23位(同22位)でした。
https://www.mri.co.jp/knowledge/insight/20231024.html
インフラや経済状況はそれでも20位台を確保しているのに、政府効率性やビジネス効率性が大きく落ち込んでいることが気になります。特に雇用は5位、科学インフラや健康・環境は8位をキープしており「良いモノ、持っているね」と評価され得る状況なのに、ビジネス分野における生産性・効率性は54位に留まっています。経営プラクティスが62位、政府分野での財政が62位、租税政策が38位、ビジネス法制も38位となっていることが原因していると考えられます。ちなみに技術インフラが33位、教育が35位であることは、将来にも暗い影を落としていると感じられます。
「経営者の気概」が重要な理由
この結果を見てJapan as No.1を知る人々は先ずビックリし、次に理由を問うて「政府・行政のリーダーシップが足りない・間違えている」と糾弾すると思われます。しかし講師の鶴田さんは「経営者の気概」を挙げました。講演では磯田一郎や平岩外四、牛尾治朗などの名前が挙げられ「往年時代の大経営者ほどの気概を持つ経営者が今は少なくなったのではないか?少なくなり過ぎたのではないか」という疑問が投げかけられたのです。
こういうと「経営者の、それも個人の気持ち(気概)がそれほど影響するのか。基本的には政治や行政に頑張るよう求める場面ではないか」との声がありそうです。戦後復興期から高度成長期までの日本の進展を考えると、それも自然な考え方かもしれません。例えば戦後や復興期において政府・行政は重厚長大主義の採用や自動車・繊維産業の整理などでリーダーシップを発揮、成果をあげてきました(少なくとも成果をあげたように見えます)。同様のリーダーシップを望んでのことなのでしょう。
当時において政府・行政のリーダーシップがなぜ有効だったか?それは国内資源配分が復興のカギだったからと考えられます。限られた資源を付加価値が低く波及効果をあまり期待できない下流工程に配分するより、付加価値が高く波及効果の高い上流工程に配分した方が効果的だとの比較的単純な分配論の問題だったので、その徹底が功を奏しました。しかし今や生産インフラは過剰状態で、どう活用するかは各企業が自らと市場・顧客・事業環境を踏まえて考えなければなりません。
このため政治家や行政マンが「国を復興させる」と息巻き企業人が「政治・行政についていこう」と考える構図と、企業人が「我が社を活性化して、ひいては国を元気にする」と決意を固め政治家や行政マンが「企業を後押ししよう」と考える構図のどちらが望ましいか、実現性があるかと考えると、鶴田さんは後者だと考えたのだと思われます。筆者も同意見です。
以上から、国際競争力が第35位にまで凋落した状況の出口を模索して次世代(未掴)を掴むには、企業人が「子供たちに明るい筋道を描き残すぞ!」との気概を持つことがポイントとなると考えられます。一人企業ですが経営者である筆者自身もその気概を持ちながら、全ての経営者にその気概を持ってもらいたいと考えています。
本コラムの印刷版を用意しています
本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、未来を掴んでみてください。
冒頭の写真は写真ACから coji_coji_ac さんご提供によるものです。coji_coji_ac さん、どうもありがとうございました。
プロフィール
中小企業診断士事務所 StrateCutions 代表
合同会社StrateCutions HRD 代表社員
落藤 伸夫
早稲田大学政治経済学部卒(1985 年)
Bond-BBT MBA 課程修了(2008 年)
中小企業診断士登録(1999 年)
1985 年 中小企業信用保険公庫(日本政策金融公庫)入庫
2014 年 日本政策金融公庫退職
2015 年 中小企業診断士事務所StrateCutions 開設
2018 年 合同会社StrateCutions HRD 設立
Webサイト:StrateCutions
- 第55回 地域の未掴をエコシステムとして描く
- 第54回 地域の未掴はどのようにして探すのか
- 第53回 日本の未来を拓く構想と新しい機関
- 第52回 新政権に期待すること
- 第51回 日本ならではの外貨獲得力案
- 第50回 未掴を掴む原動力を歴史的に探る
- 第49回 明治時代の未掴、今の未掴
- 第48回 オリンピック会場から想起した日本の出発点
- 第47回 都知事選ポスターから考える日本の方向性
- 第46回 都知事選ポスター問題で見えたこと
- 第45回 閉塞感を打ち破る原動力となる「気概」
- 第44回 競争力低下を憂いて発展戦略を探る
- 第43回 中小企業の生産性を向上させる方法
- 第42回 中小企業の生産性問題を考える
- 第41回 資本主義が新しくなるのか別の主義が出現するのか
- 第40回 「新しい資本主義」をどのように捉えるか
- 第39回 日本GDPを改善する2つのアプローチ
- 第38回 イノベーションで何を目指すのか?
- 第37回 日本で「失われた〇年」が続く理由
- 第36回 イノベーションは思考法で実現する?!
- 第35回 高付加価値化へのイノベーション
- 第34回 2024年スタートに高付加価値化を誓う
- 第33回 生成AIで新価値を創造できる人になる
- 第32回 生成AIで価値を付け加える
- 第31回 価値を付け足していく方法
- 第30回 新しい資本主義の付加価値付けとは?
- 第29回 新しい資本主義でのマーケティング
- 第28回 新しい資本主義での付加価値生産
- 第27回 新しい資本主義で目指すべき方向性
- 第26回 新しい資本主義に乗じ、対処する
- 第25回 「新しい資本主義」を考える
- 第24回 ChatGPTから5.0社会の「肝」を探る
- 第23回 ChatGPTから垣間見る5.0社会
- 第22回 中小企業がイノベーションのタネを生める「時」
- 第21回 中小企業がイノベーションのタネを生む
- 第20回 イノベーションにおける中小企業の新たな役割
- 第19回 中小企業もイノベーションの主体になれる
- 第18回 横階層がイノベーションを実現する訳
- 第17回 イノベーションが実現する産業構造
- 第16回 ビジネスモデルを戦略的に発展させる
- 第15回 熟したイノベーションを高度利用する
- 第14回 イノベーションを総合力で実現する
- 第13回 日本のイノベーションが低調な一因
- 第12回 ミスコンから学んだ将来の掴み方(2)
- 第11回 ミスコンから学んだ将来の掴み方(1)
- 第10回 Futureを掴む人になる!
- 第9回 新しい世界を掴む年にしましょう
- 第8回 Society5.0・中小企業5.0実践企業
- 第7回 なぜ、中小企業も5.0なのか?
- 第6回 中小企業5.0
- 第5回 第5世代を担う「ティール組織」
- 第4回 「望めば叶う」の破壊力
- 第3回 5次元社会が未掴であること
- 第2回 目の前にある5次元社会
- 第1回 Future は来るものではない、掴むものだ。取り逃がすな!