Catch the Future<未掴>!

第17回

イノベーションが実現する産業構造

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



「失われた10年いや20年から更に進んで失われた30年になってしまうのではないか」と危惧される日本に、どのようにすればイノベーションを根付かせられるかを考えているところです。今回はイノベーションが根付くために必要と考えられる、新しい視点での産業構造を考えていきたいと思います。



イノベーションに関して「産業構造」という視点

カギとなる条件や要素は、既にお話ししました。「イノベーションと認められるか否かは、製品やサービスが技術的に、あるいは結合として優秀だというよりも、それらによって人々の生活が変わったかどうかが影響する」、「イノベーションには最先端の技術革新だけではなく、既存のものを結びつける新結合という形態などもある」、「技術革新によるイノベーションは強力だが、膨大な原資が必要となる」、「熟した技術を新結合したイノベーションは金のなる木になれる可能性がある」などです。


前回は、熟した技術を活かしてイノベーションを実現した例としてECサイトとしてのアマゾンを考えました。書籍等の通信販売により売上・利益が出せると知られると雨後の竹の子のように競合が参入して草刈り場になる可能性があります。これを恐れてかアマゾンは常に国内外の市場を開拓するため、あるいは取扱商品を増やすため、加えて顧客の利便性を向上するために莫大な投資を行い、利益が出ない産業を装ったと考えられます。この巧みな戦略のおかげで、皆が気が付いた時には侵しようのないほど盤石な市場を広範囲に築くことができました。


今回はもう一つ教訓を加えます。アマゾンは最終需要者に密着するビジネスで熟した技術を用いてイノベーションを実現、市場を席巻して莫大な資金を手にし、これを先行投資に用い、莫大なコンピューター・電子機器を購入しました。裏を返せばアメリカ(もちろん他国もあります)のIT産業が潤った、それでイノベーションの原資を得たことを意味します。このようなBtoB取引の構図がアマゾンを始めとして幾多も成立したことが、アメリカがイノベーション大国になれた原動力になったと考えられます。


産業構造というと第1次、第2次、第3次産業の構成や、戦後の下請構造(中小企業が下請けとして大企業を支える)をイメージすることが多いと思われますが、今後の日本を活性化させるためには「イノベーションが可能となる産業構造とはどんなものか」を探る視点が必要だと考えられます。



熟したイノベーションを成立させる協力関係

以前に、技術革新によるイノベーションには莫大な資金が必要なので、熟した技術を活用した「金のなる木」が必要だとご説明しました。「金のなる木」には表裏の2つの意味があると考えられます。一面はもちろん「それなりの利幅の(もちろん利幅は大きいに越したことはないけれど)製品が、大量に売れる」という側面での意味で、その裏には「製品の機能や特徴を認めて、指名買いしてくれる顧客がいる」という側面での意味があります。前者は、後者が成立するので実現するという関係です。


「利幅が取れる製品を提供する(企画・開発・設計・製造・販売する)」という行為は、供給者が単独で行えます。しかしそれで「大量に売れる」が満足される訳ではありません。顧客から求められる必要があります。顧客は「この製品には私が求めている機能がある!、特徴がある!」と認めたら、特定製品を指名買いします。


今ここは、熟した技術を利用した「金のなる木」を想定しているので、要望にぴったりとマッチする機能や特徴を備えることで顧客を驚かせる原動力は、お金のかかる技術革新を行うことではなく、熟した技術を結合させて「おお、あれとそれを組み合わせることで私の求めている機能・特徴がとても安価に実現したのね、良く考えたね」と認められることを意味しています。これにはイノベーターと顧客との擦り合わせが肝要でしょう。綿密なコミュニケーションにより、それが実現するのです。



イノベーションを協創できる産業構造(横階層構造)

以上から、特に国という枠組みの中でイノベーションの推進を考える時には、イノベーションを協創できる産業構造がポイントになると考えられます。「最先端の技術革新でイノベーションを希求する一方で、その原資を得るために新結合のイノベーションも実施している企業」と、「顧客に密着したビジネスを行っており、提供製品・サービスの多彩化や顧客への訴求度向上、品質や効率等の改善のために必要となるリソースを求めている企業」が、手を取り合うような産業構造が必要なのです。


今までの産業構造把握、特に下請構造は上下関係のある縦階層で捉えられてきたと考えられますが、この構造は「欲しい製品がある。実現してくれ」と「実現して差し上げよう。こちらの提案は・・・」という相互提案の関係、横階層の構造になると思われます。このように需要者と供給者が対等に刺激し合う関係が、イノベーションを実現する協創的な産業構造と言えそうです。




<本コラムの印刷版を用意しています>

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、未来を掴んでみてください。


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なお、冒頭の写真は写真ACから HiroSund さんご提供によるものです。HiroSund さん、どうもありがとうございました。


 

プロフィール

中小企業診断士事務所 StrateCutions 代表
合同会社StrateCutions HRD 代表社員
落藤 伸夫

早稲田大学政治経済学部卒(1985 年)
Bond-BBT MBA 課程修了(2008 年)
中小企業診断士登録(1999 年)
1985 年 中小企業信用保険公庫(日本政策金融公庫)入庫
2014 年 日本政策金融公庫退職
2015 年 中小企業診断士事務所StrateCutions 開設
2018 年 合同会社StrateCutions HRD 設立


Webサイト:StrateCutions

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