Catch the Future<未掴>!

第13回

日本のイノベーションが低調な一因

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 

日本の活性化に日本発のイノベーションをもっと増やす必要があるとは、よく言われているところです。しかし実際は思惑通りに進展しているとは考えにくい状況です。なぜそうなってしまったのか?今日は、この問題について考えてみたいと思います。



日本発イノベーションの隆興と衰退

日本はイノベーションが不得意なのか?そうではないと思います。以前には日本発のイノベーションで一世を風靡した時代がありました。中でもSonyのウオークマンは誰でも知っているイノベーションでしょう。発光ダイオードも日本のイノベーションで、青色ダイオードの開発で白色の発光が可能になり、利用が格段に進みました。

(公益社団法人発明協会サイト:戦後日本のイノベーション100選)

http://koueki.jiii.or.jp/innovation100/innovation_list.php?age=topten


以前には存在感のあった日本のイノベーションが低調になってしまったのはなぜか?「世界の技術進歩についていけなくなってしまったからだろう。」その指摘は、正しいと思われます。例えば汎用コンピューター(職場や家庭用のコンピューターではなく金融機関の口座・決済システムや大企業の業務・経理統合システムなどを運用するための大型コンピューター)の数十倍の計算速度を持つ科学技術計算を主目的として開発されたスーパーコンピューターはかつて、日本が席巻していました。1990年代ではスーパーコンピューターの性能評価プログラムTOP500において「NWT」や「SR2201」、「CP-PACS」「地球シミュレータ」がトップを占めていたいのです。2011年にも「京」がトップだったことを覚えておられる方もおられるでしょう。しかしその後はトップを占める国産スーパーコンピューターは出ていません。世界を舞台にした開発競争で後塵を拝しているのです。



技術力低下の「なぜ」を問う

スーパーコンピューターで見えた「技術力が後塵を拝するようになったのでイノベーションが生まれなくなった」という構図は分かりやすく、「これで答えが出た。イノベーションを生むためには技術力を高めればよい」と思考が停止しそうですが、もう少し考えてみましょう。


なぜ、日本の技術力は後れを取ってしまったのか?「大学の技術力が低下したから。」もしそうなら、なぜ、大学の技術力が低下したのか?「文部科学省が十分な予算をつけないから。」その理由はなぜ?「国家予算に余裕がないから。」その理由は?「税収が少ないから。企業が儲からないから。」このような指摘になると思われます。逆に言えば、企業が儲かれば今指摘したロジックが拡大方向に働き、大学が貢献できるでしょう。


一方で企業が儲かるなら、税収~大学という迂回路を通らずとも、企業そのものが開発に向けて積極的に投資できるでしょう。結局、企業の収益体質がこの問題のカギになりそうです。



イノベーションへの誤解が原因か?

このように言うと「日本発のイノベーションが振るわない理由として企業の低収益性が挙げられると分かった。一方で企業なぜ低収益なのか考えると、日本発のイノベーションが振るわないからという答えが出るだろう。これは『ニワトリ=タマゴ』問題で、答えは出ない」との指摘があるかもしれません。しかしこの構図は『ニワトリ=タマゴ』問題ではなく、企業の収益体質の改善を先に考えることがソリューションとなります。


「企業の収益体質は、確かに、イノベーションだけの問題ではない。改善活動などによるコスト削減などもあり得る。それを言っているのか?」いいえ、高付加価値商品を実現するアプローチを考えています。「高付加価値商品の開発は多くの場合、イノベーションで実現する。しかしそのイノベーションが困難だとの話をしているのだ。」


もしかすると「イノベーション」について、今までない技術を開発・利用する、スーパーコンピューターのような大規模かつ先進的(今までない、格段に優れている製品を創造)「技術革新」をイメージしていないでしょうか?もちろんイノベーションにその姿もありますが、それが全てではありません。Apple社が開発したiPhoneはイノベーションの実例として取り上げられていますが、それは技術革新や大規模・先進的製品ではありません。携帯電話にカメラや音楽再生、メール、インタネットブラウザなど、既存のものを結び付けた「新結合」です。


イノベーションについて「技術革新に限る」と考えるのは、ある意味で危険な誤解です。イノベーションをより柔軟に捉えて高付加価値製品を数多く生み出していき、その収益を原資に技術革新の投資を積極的に行うサイクルを回すことで、多様なイノベーションを多数実現することが日本の活性化を可能にすると考えられます。




<本コラムの印刷版を用意しています>

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、未来を掴んでみてください。


<印刷版のダウンロードはこちらから>





なお、冒頭の写真は写真ACから azteca さんご提供によるものです。azteca さん、どうもありがとうございました。

 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた。総合研究所では先進的取組から地道な取組まで様ざまな中小企業を研究した。一方で日本経済を中小企業・大企業そして金融機関、行政などによる相互作用の産物であり、それが環境として中小企業・大企業、金融機関、行政などに影響を与えるエコシステムとして捉え、失われた10年・20年・30年の突破口とする研究を続けてきた。

独立後は中小企業を支える専門家としての一面の他、日本企業をモデルにアメリカで開発されたMCS(マネジメント・コントロール・システム論)をもとにしたマネジメント研修を、大企業も含めた企業向けに実施している。またイノベーションを量産する手法として「イノベーション創造式®」及び「イノベーション創造マップ®」をベースとした研修も実施中。

現在は、中小企業によるイノベーション創造と地域金融機関のコラボレーション形成について研究・支援態勢の形成を目指している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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