Catch the Future<未掴>!

第16回

ビジネスモデルを戦略的に発展させる

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



どのようにすれば日本のイノベーションを促進できるかについて考えているところです。イノベーションには最先端の技術革新だけではなく、既存のものを結びつける新結合という形態などもあります。イノベーションと呼ばれるか否かは、できあがった製品やサービスが技術的に、あるいは結合として優秀だというよりも、それらによって人々の生活が変わったかどうかが影響するとも分かりました。今回も、以上を踏まえながら日本で推進できるイノベーションについて考えていきます。



イノベーションするために金のなる木を育てる

日本のイノベーションがなぜ進まないのか?「最先端のイノベーションを遂げる原資が供給できないから」が一つの仮説として挙げられます。最先端の技術革新を実現するために膨大な資金と優秀な人材が必要となる一方、開発が上手くいかなかったりスピードや機能・性能等の競争に負けてしまうと、つぎ込んだ原資が無駄になってしまうリスクにも直面します。相当な資金量が必要で、これが不足するとイノベーションが実現しないのです。


最先端の技術革新を行う企業でも、それだけを行っている訳ではありません。一昔前の成果(レガシー)を量産・販売しています。実はこれらこそ製品サイクルの「金のなる木」です(PPM:プロダクト・ポートフォリオ理論で、製品を市場成長率と相対的シェアのマトリクスで表現した場合に、儲けが大きくなる象限(成長率低・シェア高)。他に「問題児」、「花形」、「負け犬」がある)。最先端の技術革新を実現している企業は(少数の例外を除けば)「レガシーを金のなる木に育成、しっかり売って儲け、その原資でもって最先端の技術革新を遂げていく。しばらくたって最先端のイノベーションが陳腐化しそうになったら、もう一つ別の知恵を絞って『売れるレガシー』に育て上げ、そのサイクルを回していく」ことが上手な企業だと言えそうです。


では、これからイノベーションを実現しようとする企業は、最先端の技術革新(問題児→花形)から始めるのが良いのか?原資を集める(問題児→金のなる木)から始めるのが良いのか?アマゾンが成功した理由を読み解くと、問題児を金のなる木に育て、原資を集めることから始めるアプローチも「あり」と考えられます。後述するように実際のアマゾンでは起業から利益が出るまで気の遠くなる月日がかかりましたが、それでも「いきなり技術革新」と比較すると、費用が少なく成功確率が高いアプローチだったのではないかと考えられます。



「金のなる木を育てる」発想ができた理由

ではなぜアマゾンは、こちらのアプローチを取ることができたのか?イノベーションを希求する場合の「考え方」に違いがあったからではないかと思われます。「これまでなかった機能を持つ製品を作ろう」あるいは「最先端の機械がなければ不可能な、今まで夢想だにされなかったサービスを提供しよう」と考えると、技術革新型のイノベーションが不可避となります。


一方で「たくさん買ってしまったので重い本を遠くの自宅まで持ち帰らなければならないのが大変だとか、我が家は田舎にあるので本屋に行くこと自体が難しいと感じる人々に、手軽に本を買える利便性を与えたい」と考えると、最先端の技術革新は絶対条件ではありません。アマゾンは、後者のように考え、「ならば新結合の方が確実なだけではなく、安価に実現できる」と考えたのではないでしょうか。



ビジネスモデルの戦略的発展がポイント

一方で、レガシーな成果をベースに新結合を目指すと、実現しメリットが出はじめると他社から模倣される可能性があります。技術革新ほどの差別化要因がないからです。そこでアマゾンは、知恵を絞ったのではないでしょうか?ビジネスモデルを戦略的に発展させたのです。


アマゾンが例えば(実際はアメリカですが分かりやすく)「日本の関東地区限定」ビジネスを目指していたら、そこそこの時点で「不況業種と言われていた書籍販売でもEC通販にすれば存続は可能なのだな。利益が取れるのだな」と知られて、あっという間に雨後の筍のように競合が生まれたでしょう。しかしアマゾンは、地方の津々浦々にまで綿密なネットワークを築きながら全国展開をするというお金のかかる仕組みを構築するために赤字を垂れ流し続けました。次に文具や日用品、オフィス用品、果ては食品までも扱えるよう莫大な先行投資を行って「儲からないビジネス」を装ったのです。


こうやって出来上がった総合通販サイトは、技術等では模倣できても「規模の経済」や「シナジー効果」により競合の参入は困難です。アマゾンは今や電子書籍(Kindle)やクラウドサービス(AWS)のプラットフォームなども取り込むことで、強固無比のビジネスモデルを築きあげました。


以上から、日本にイノベーションを根付かせるヒントが得られるのではないでしょうか。レガシーをベースにした新結合によるイノベーションを実現する共にビジネスモデルを戦略的な発展させて金のなる木とし、これで原資を稼いで技術革新のイノベーションを回していくのです。日本にある資源を生かせば可能だと考えられます。




<本コラムの印刷版を用意しています>

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、未来を掴んでみてください。


<印刷版のダウンロードはこちらから>




なお、冒頭の写真は写真ACから はっぴーもも さんご提供によるものです。はっぴーもも さん、どうもありがとうございました。


 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた。総合研究所では先進的取組から地道な取組まで様ざまな中小企業を研究した。一方で日本経済を中小企業・大企業そして金融機関、行政などによる相互作用の産物であり、それが環境として中小企業・大企業、金融機関、行政などに影響を与えるエコシステムとして捉え、失われた10年・20年・30年の突破口とする研究を続けてきた。

独立後は中小企業を支える専門家としての一面の他、日本企業をモデルにアメリカで開発されたMCS(マネジメント・コントロール・システム論)をもとにしたマネジメント研修を、大企業も含めた企業向けに実施している。またイノベーションを量産する手法として「イノベーション創造式®」及び「イノベーション創造マップ®」をベースとした研修も実施中。

現在は、中小企業によるイノベーション創造と地域金融機関のコラボレーション形成について研究・支援態勢の形成を目指している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

Catch the Future<未掴>!

同じカテゴリのコラム

おすすめコンテンツ

商品・サービスのビジネスデータベース

bizDB

あなたのビジネスを「円滑にする・強化する・飛躍させる」商品・サービスが見つかるコンテンツ

新聞社が教える

プレスリリースの書き方

記者はどのような視点でプレスリリースに目を通し、新聞に掲載するまでに至るのでしょうか? 新聞社の目線で、プレスリリースの書き方をお教えします。

広報機能を強化しませんか?

広報(Public Relations)とは?

広報は、企業と社会の良好な関係を築くための継続的なコミュニケーション活動です。広報の役割や位置づけ、広報部門の設置から強化まで、幅広く解説します。

当サイトでは、クッキーを使用して体験向上、利用状況の分析、広告配信を行っています。

詳細は 利用規約 と プライバシーポリシー をご覧ください。

続行することで、これらに同意したことになります。