第4回
初めてのインターネット
株式会社SOBAプロジェクト 乾 和志
私が初めてインターネットに接続したのは、1988年ごろだったでしょうか。その頃、インターネットという言葉はまだ使われていませんでしたが、私が勤めていた研究所は、慶應義塾大学の村井教授が中心となって進めていた「WIDE」というプロジェクトに参加していました。このプロジェクトを通じて、我々はTCP/IPプロトコルを使って、ネットワーク上にある世界中の他の研究機関や企業のコンピュータと接続することができました。
TCP/IPによって世界が繋がる以前は、世界中のコンピュータ間の情報伝達は主にUUCPという非同期プロトコルによって行われていました。このシステムでは、モデムを使ってサーバ同士が定期的に接続し合い、バケツリレーのように情報を次々と伝えていきました。UUCPによってメールの送受信も可能でしたが、その非同期性のために、送受信に数時間以上を要することが普通でした。また、ニュースグループと呼ばれる掲示板のようなものも存在していましたが、こちらも同様に情報の配信に時間がかかる非同期システムでした。
しかし、TCP/IPによる接続によって、情報の伝達が即時に行われるようになりました。この技術のおかげで、データの送受信が格段に速くなり、コミュニケーションの効率が大きく向上したのです。当時、「WIDE」プロジェクトは純粋に学術目的であり、商用利用は想定されておらず、参加していたのは大学や企業の研究所など限られた機関だけでした。
その中で、特に印象深い出来事がありました。米国ボストンからうちの研究所に来ていた研究者が、私のコンピュータを使ってUNIXのtelnetコマンドを用い、ボストンにあるコンピュータに接続した瞬間です。それまでの非同期通信とは異なり、リアルタイムで他のコンピュータにアクセスできることに、深い感動を覚えました。
その当時はウェブもまだ登場しておらず、世界のコンピュータを繋ぐネットワークが一般人にとっての日常的なインフラとなるとは、ほとんど誰も想像していなかったでしょう。しかし、この進化が、後に全世界を変える巨大な飛躍へと繋がっていきました。当時の私たちには想像もつかなかったような形で、インターネットは人々の生活、仕事、そしてコミュニケーションの方法を根本から変えていきました。
これがわずか30年前の世界です。その後、インターネットは急速に進化を遂げ、今では世界中の人々が瞬時に情報を共有し、知識を深め、人と人との繋がりを強化するための不可欠なツールとなっています。
当時の経験は、今振り返ると、デジタル時代の幕開けに立ち会ったかのような、特別な感慨をもたらします。インターネットの可能性は無限大であり、その進化はまだまだ続いています。
プロフィール
株式会社SOBAプロジェクト
代表取締役社長 乾 和志
広島大学 卒業後、立石電機株式会社(現 オムロン株式会社)に入社し同社のコンピュータ系の研究所に勤務。オペレーティングシステムの研究などを経て、産官学共同プロジェクト「SOBAプロジェクト」開始。株式会社SOBAプロジェクトを創業し、その後 代表取締役に就任。
Webサイト:株式会社SOBAプロジェクト