第10回
グリーン就業規則の各規程について
1."グリーン就業規則"の具体例と解説
皆さんの会社には、社員が職場のルールを守らなかったときに教育・指導を行なうため、就業規則のなかに「懲戒規定」があると思います。懲戒規定は、社員が守るべき約束を破ってしまったときの違反の程度等に応じて制裁罰を規定したものです。
一般的な懲戒規定では以下のように規定することが大半です。(弊社発刊『会社が得する就業規則』より抜粋)
例:(制裁の種類)
この就業規則及び関連する諸規程の禁止・制限事項に抵触する社員は次のいずれかの制裁を行う。
① 訓戒 始末書を取り将来を戒める
② 減給 1回の額が平均賃金の1日分の半額、総額が一賃金支払期における賃金総額の10分の1以内で賃金を減給する
③ 出勤停止 7日を限度として出勤の停止を命じ、その期間の賃金は支払わない
④ 諭旨退職 退職届を提出するように勧告する。尚、勧告をした日から7日以内に退職届の提出がない場合は懲戒解雇とする
⑤ 懲戒解雇 予告期間を設けることなく即時解雇をする。この場合、労働基準監督署長の認定を受けた場合は解雇予告手当は支給しない
グリーン就業規則における「懲戒規定」では、単に制裁罰としての法律的効果を付与するだけでなく、制裁罰として一定期間のトイレ掃除や地域清掃活動等の社会貢献活動を命じることを規定します。条文では次のように規定します。
例:(制裁の種類)
この就業規則及び関連する諸規程の禁止・制限事項に抵触する社員には、次のいずれかの制裁を行う。
① 訓戒 始末書を取り将来を戒める。あわせて会社は訓戒処分に該当する社員に対し、一定期間の社会貢献活動を命じる。
② 減給 始末書を取り、あわせてその金額が1回について平均賃金の1日分の半額、総額が一賃金支払期における賃金総額の10分の1の範囲内で減給する。
譴責処分とは、一般的に始末書を提出させて将来を戒めることですが、始末書の提出そのものについて強制することは難しく、社員自身の任意に委ねられるのが現状です。そのため、始末書の提出がなかった場合には、別途業務命令として「顛末書」を事実報告として出させる場合がありますが、グリーン就業規則では、譴責処分として始末書の提出とあわせ、社会貢献活動を科すことに大きな違いが表れます。
前述のとおり、懲戒規定とは社員が約束違反をしたときに与える制裁罰を通して社員に改善、反省してもらうために規定してあるものです。社員にどのように改善、反省してもらうかについては法律上決められたものはなく(※)、グリーン就業規則では、社会貢献活動を通して違反行為を省みてもらうことに重きをおいています。
またそのほかにも、服務規定に示された自社の理念や考え方、社員が遵守すべき行動規範に対してどうだったのかをグリーン評価制度と連動させ、表彰規定とセットで規定するなども手法としては考えられるでしょう。
2."グリーン就業規則"の各規定の要約
それでは具体的に"グリーン就業規則"の中身を見ていきましょう。
ここではそれぞれの規定がどういうものなのか代表的な規定の要約を挙げています。
(実際の規定については、弊社書式集をご参考にしてください。
1.服務規定
会社内での業務以外に、グリーン活動への積極的な参加を後押しするためのルールを示したものです。グリーン活動も自社の通常の業務同様に重要な活動である旨を明確に掲げ、社員にも認識してもらうために規定します。
2.二重就業規定
二重就業は原則禁止としていますが、社員がグリーン活動推進という目的のもと、会社の企業秩序に影響せず、会社に対する労務提供に格別の支障を生じせしめない程度のものとして会社が認めるグリーン関連活動に限って本来の会社業務のほかに、他団体等での活動を許可するというものです。他団体で行った活動については終了後、ミーティングの場など社内でフィードバックされ、自社でのグリーン活動推進のために全員で共有します。
3.ソーシャルメディア利用規定(ツイッター、フェイスブック等)
メルマガ、ツイッター、フェイスブック等のソーシャルメディアを有効に利用することはグリーン活動の進捗状況や結果報告、また様々な情報を効果的に発信するときの重要なツールとなりますが、私的に使用して良いというものではありません。ガイドラインを設け本来の目的で使用するための規定です。
4.ボランティア支援規定 <>br / ボランティア支援といってもその内容は多岐にわたるため、会社として積極的に行ってほしい活動については特に支援する意味でその内容を規定します。グリーン活動推進のための支援項目としては、大まかには休暇の取得や一定期間の休職、グリーン活動時間への配慮(本来業務についてノー残業デーや早帰り制度の推進)が挙げられます。また同じ社内において本来の業務活動のために積極的なグリーン活動への参加ができない社員にも、社外から大学生等をインターンシップとして受け入れ社員たちの仕事を通して学生が社会人としての心構えや職業観を考えるきっかけの場の提供するための間接的なグリーン活動を推進、支援していきます。
5.私の記念日規定
社員があらかじめ決めた記念日に有給休暇を連続して取得することにより年次有給休暇の取得促進と有効活用することを定めた規定です。
3."グリーン就業規則"の作成時に留意すること
これまでグリーン就業規則の要約を説明しましたが、では次に実際に各規定を作成するときの課題や留意点を「ボランティア支援規定」と「在宅勤務ルール」を例に取って説明していきます。
●ボランティア支援規定
1995年に発生した阪神・淡路大震災では、延べ150万人のボランティアが全国から駆けつけ「ボランティア元年」という言葉が生まれました。それ以後、大手企業を中心にボランティア休暇の導入が進められています。
ボランティア活動といっても震災復興に関するもの以外にその内容は多岐にわたり、またその休暇については法律上で規定があるものではなく、会社が任意で与えるものです。しかし、少しでも社会貢献をしようと志す社員からの申し出に対し、会社が積極的に休暇の付与を推進していくことは、これからの企業のあるべき姿として求められるものです。
1.賃金の取り扱いについて
休暇の与え方としては、年次有給休暇とは別に特別に年何日かの休暇を与えたり、失効した年次有給休暇を積み立て利用することが考えられます。賃金については有給の休暇ではなく無給として処理する、または一定の期間までなら有給で、それを超えるときは無給とする、などいくつかの対応を検討しておく必要があります。
2.休暇の期間
期間については有給とするか無給とするか、またボランティア活動の内容にも依ります。長期の場合は事業運営に与える影響も考慮して決めることが重要です。会社が事前にボランティアプランを設定しておき、それぞれのプランに休暇期間を示しておけば、社員はその中から選択することができるので休暇を取得しやすくなります。長期休暇を取得する場合のために休職の制度を設けておくるのも良いでしょう。
3.対象となる活動の種類
2.と同様に会社が事前にプランを決め、選択できるようにすれば、社員は普段から計画的に休暇を取りボランティアに参加し易くなります。会社のプラン以外にも社員からの申し出により認めることも必要です。
4.災害時の補償
会社の業務として参加させる場合以外は業務災害にはなりませんので、個人での活動の場合はボランティア保険に加入する必要があります。また会社としてボランティア活動中に災害にあった場合、災害補償をするかどうかを決めておくことが重要です。
5.活動報告
ボランティア活動の結果報告をすることは社員の自己の成長の証しとなり、またこれからボランティア活動をしようとする他の社員に対しても非常に参考になります。また会社として活動の報告をCSRレポートやニュースレターとして社内外に情報発信していくことも有効です。
6.対象者
業務への影響などを総合的に考慮する必要はありますが、勤続年数や役職により選別するのは適切ではないといえます。むしろ管理職が率先してボランティア休暇を取ることにより社員の抵抗感はなくなります。会社全体で社会貢献を推進していくという企業文化を育てていくことがボランティア活動を成功させるポイントです。
7.その他
賃金、勤続年数、人事評価など復帰後の取扱で不利益を与えることのないようにしておくことが必要です。休暇期間中は所属部署内で仕事をカバーするなどして復帰後スムーズに業務に戻れる体制をとっておくことも重要です。
●在宅勤務ルール
在宅勤務の制度は元々ワークライフバランスなど従業員の多様な働き方を支援するという考え方や育児・介護休暇を取る従業員の福利厚生的な制度としてみなされてきましたが、東日本震災以後はBCP(事業継続計画)の一環として非常時においても事業を継続できるようにするとの観点から多くの企業で導入が増えています。
1. 情報セキュリティーについて
在宅勤務は会社の情報を自宅に持ち込んで業務を行うことになるので、情報管理の対策をどうするかは大きな課題です。仕事をする部屋の環境、PCが個人所有の場合のハード・ソフトウェアの問題、ウイルス対策など会社では想定のできないトラブルも起こりうることを考えるとどんなに情報の取扱いに注意しても漏洩のリスクをゼロにすることは出来ません。
そこで対応策としては在宅勤務ができる業務内容を限定するということが考えられます。例えば給与計算や、会社の財部上のデータを扱う業務はしないということです。しかし業務内容に制限を与えてしまうと、在宅勤務ができる対象者を制限してしまうことになり、制度の浸透も難しくなります。
オフィスとほぼ同じ環境で同様の業務ができるように最近はクラウドなどを利用し自宅のPCにはデータを保存しないなどの方法もあるので検討しておく必要があります。
他に情報漏洩のリスク低減の対策として、USBメモリに情報を入れて会社から持ち出すことが通常使われていますが、暗号化やパスワード設定をするなど管理方法を明確にしておくことも重要です。
2. 労務管理について
① 労働条件の明示
入社時に労働契約を締結する際に在宅勤務について労働条件の明示が既にされている場合は別として、入社後に在宅勤務をすることになる場合は、自宅を就業の場所とすることや労働時間などについての労働条件を明示する必要があります。
② 労働時間
労働基準法により、本来使用者は労働時間を適正に把握する責務があります。適正に把握するとは単に1日何時間働いたかを把握するのではなく、労働日ごとに始業時刻や終業時刻を使用者が確認・記録することにより何時間働いたかを把握・確定することです。在宅勤務では労働時間を適正に把握するために上司に始業と終業時にメールを出して、始業時には1日の予定を、終業時にはその日の作業報告をするという方法を取っている例もあります。
しかし、使用者の指揮監督が及ばない、業務に係る労働時間の算定が困難ということで、「事業場外労働に関するみなし労働時間制」を採用し所定労働時間労働したとみなす制度を取ることもできます。
みなし労働時間制の場合でも深夜や休日労働は対象には含まれないので、別途把握しなければなりません。また締切に間に合わず所定労働時間を超えて労働した場合の割増賃金の支払いなど労働時間の管理は非常に難しい問題を含んでおり、対応には十分な検討が必要です。
3. 対象者
対象者としては基本的には自己管理ができる一定レベル以上の能力を持っていることが不可欠となります。メールでの業務指示の内容を的確に理解し、仕事を自己完結できる能力が必要です。
勤務する時間帯や自らの健康に十分に注意を払いつつ、作業能率を勘案して自律的に業務を遂行することができるが求められます
4. 人事評価について
在宅勤務の場合、メールでの「ほう・れん・そう」が多くなり上司と顔を合わせる機会が少なくなります。定期的に面談する仕組みを検討することが必要です。
評価方法については従来の労働時間の長さではなく、業務内容や成果で管理し評価する制度を検討して勤務場所により影響が出ない、在宅勤務者に不利にならないようにしなくてはなりません。
5. その他
社内文書の電子化を始め、各種の総務的な手続き、申請、決済、などをWEB上で完結できるようにして在宅勤務者との書類の郵送など無駄を省くことにより在宅勤務の制度推進に役立てることができる。
第10回コラム執筆者
本領 晃 (ほんりょう あきら)
(有)人事・労務 チーフコンサルタント
社会保険労務士
大学卒業後、大手半導体製造装置メーカーの技術者、統括管理部門長などを経験。人を育てる社員教育に於いての豊富な経験を持ち、グリーンクレドの導入コンサルを軸とした持続可能な事業活動の運営をサポートしている。元東京労働局企画室総合労働相談員、現在東京簡易裁判所で司法委員として民事訴訟の和解において裁判官の補助を行うなど労働問題を中心に活躍中。災後は、ボランティア休暇、サマータイム、ソーシャルメディア等、新たな社会情勢の変化からソーシャルな職場ルールの作成を手がける等、未来志向の社内ルール作成に力を入れる。
主な著書に、「働く人のモチベーションが上がる人事考課のしくみと人事考課シート集」(共著、税務研究会出版)がある。
●主な講演実績、著書
・「今回の震災の影響下における労務管理」講座 (東京商工会議所杉並支部)
・「解雇に関する基礎知識と注意点」講座 (東京商工会議所 台東市部)
・経営者が知っておきたい、最新:東日本大震災にかかる政府施策と企業対応策
(郡山法人会)
・仕事を通した人生の成功を得る! キャリアデザインセミナー (日本大学)
・経営者が知っておきたい、最新:東日本大震災にかかる政府施策と企業対応策
(社団法人大曲法人会)
・実習で分かる!『評価者訓練』と『賞与分配』のノウハウ (ピーシーエー株式会社)
・働く人のモチベーションが上がる人事考課のしくみと人事考課シート集」(共著)
(税務研究会出版)
プロフィール
現在社長を務める矢萩大輔が、1995年に26歳の時に東京都内最年少で開設した社労士事務所が母体となり、1998年に人事・労務コンサルタント集団として設立。これまでに390社を超える人事制度・賃金制度、ESコンサルティング、就業規則作成などのコンサルティング実績がある。2004年から社員のES(従業員満足)向上を中心とした取り組みやES向上型人事制度の構築などを支援しており、多くの企業から共感を得ている。最近は「社会によろこばれる会社の組織づくり」を積極的に支援するために、これまでのES(従業員満足)に環境軸、社会軸などのSS(社会的満足)の視点も加え、幅広く企業の活性化のためのコンサルティングを行い、ソーシャル・コンサルティングファームとして企業の社会貢献とビジネスの融合の実現を目指している。
Webサイト:有限会社 人事・労務
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