第9回
モノ・カネを中心とした組織から「つながり」を中心とした新しい「職場とルール」づくり
1.これからの就業規則はリスク管理+企業文化つくり
就業規則は、会社の憲法といわれるくらい大切なもので、その会社の企業文化を成文化したものといっても過言ではありません。
しかし、就業規則というと、いままでの時代の流れを反映して社員からは権利主張を明文化したもの、逆に経営側からはリスクマネジメントの点からどのようにつくるのかといったことが、この不透明な時代には重要視されてきたように思います。
これからの市場はモノよりも小さな物語のなかの共感や体験といったコト中心の自己投影型の社会になっていきます。
これまでのような商品やサービスより企業文化を重視するという時代の中で今、私たちが自社の持続可能な経営のために考えなければならないのは、この新しい時代に見合った新たな会社の組織をいかに創り上げていくかということです。
一歩進んだ会社の就業規則は、企業文化を表すという要素を前面に打ち出したグリーンな就業規則に変更することがより一層大切になってくることでしょう。
ではそれはいったいなぜでしょうか。
グリーンクレドの必要性にいち早く気付き、数年前に社員とともにクレド作りをおこなった大川印刷の社長はプロジェクト終了後、こう感想を漏らされました。
「社員には仕事を通じたドラマがある」と。
あなたの会社で働く社員それぞれに、それぞれのドラマがあります。仲間や地域、社会との関わりがあります。ひとりの社員が自らグリーンクレドを通じて行った活動や取組みには、業務の効率性を高めるという視点でみれば必ずしもすぐに業績に直結しないこともあるでしょう。しかし、グリーンクレドを通じて社会に貢献しようとする大きな志をもった社員には、自身の人間的な成長とともに同じ想いをもつお客様や支援者が現れ、共鳴し、ともにウィンウィンの関係を自然と築きあげていきます。
企業の社会的責任(CSR)という言葉が世間に広まり、昨今はCSR意識の高い経営者も多いように思いますが、実際には理念を掲げることだけに留まり、社会に対して表現したり、または行動したりできていないことがあります。もちろん、企業であれば、公正な競争のなかで利益を追求することが大前提ですが、そのためには、まず社員ひとりひとりが使命感をもち、真に「社会によろこばれる会社」に生まれ変わることが必要ではないでしょうか。
モノがあふれきった時代に、小手先の戦術だけ変えてもお客様から喜ばれることはありません。経営者と社員とがともに使命感をもち、社会に対して変化、影響を与えていく。それこそが、「社会によろこばれる会社」として未来100年と持続的に成長し、評価されつづける会社なのだと私たちは考えます。
そして、この「社会によろこばれる会社」を作るために、同じ想いをもって取り組む社員がさらに積極的にこのグリーン活動に参画出来るようにバックヤードから自社の理念を支援していくのが、グリーン就業規則(というひとつのツール)なのです。
2."グリーン就業規則"の3つの顔
では具体的に"グリーン就業規則"とはどのようなものでしょうか?
グリーン就業規則には3つの異なる顔があります。
①リスクマネジメント
ひとつは、本来の就業規則と同様に、会社の労務リスクや労使トラブルを回避するリス
クマネジメントの顔です。グリーン就業規則では、組織や社員間などさまざまな問題の断絶や弱体化を防ぐことを目的としています。
②コンプライアンス記載事項
2つめは、労働基準法が求める記載事項を規定しています。この点は、労働時間や健康
管理等の一般的な内容を規定しています。その中でグリーン就業規則では、育児休業や特別休暇制度等において他とは異なるカラーが出ます。
③つながり・絆
最後のひとつが、グリーン就業規則としては最も特色のある、組織や社員間の様々な"つながり"や"絆"を深めるための規定です。たとえばボランティア支援やランチミーティング等がイメージしやすいでしょう。福利厚生的な印象をもたれる方もいらっしゃると思いますが、何のために行なうものかをグリーン視点で考えると、その意味合いは福利厚生とは大きく異なるものです。
私たちのグリーン就業規則は、もちろん職場のルールに違いはありませんので、日常生活についてまで規定したものではありません。グリーンな取組みを通じて社会に貢献しようという意欲的な社員に積極的に行動してもらうために、ひとりの社員からひとつの会社へ、そして地域全体の社会的活動や環境問題等へ取り組むためのルールを、会社という組織の枠のなかで決めていこうとするものです。
3."グリーン就業規則"が目指すもの
これまでグリーン就業規則について考え方や必要性を書いてきましたが、ここでどうしても経営者の方に注意していただきたいことがあります。
グリーン就業規則は、あくまでも就業規則です。ルールがなければ組織足りえませんが、ルールだけでは人は動きません。その点をふまえ、グリーンという考え方を推進する会社では、グリーン就業規則を含めた3つの柱をもっておくことが重要です。
第一にグリーンという考え方を盛り込んだクレドがあり、これによって個人のリーダーシップ性を高めることです。一個人のリーダーシップが他の社員やひいては社会全体の共感を呼び起こすという使命感をもって行動する社員を増やすこと(属人性)。
第二にそれを組織としての強みにもっていくこと。クレドアセスメントというマネジメントツールを駆使して、リーダーシップや志の高い個々人らを機能的組織として再現し、組織の強みを発揮できるようにすること(再現性)。
グリーン就業規則はこれら2つの視点をつなぎ、同じ思いを持って取り組む社員が積極的にグリーンな活動を通して「社会によろこばれる会社」としての未来の経営のストーリーに参画できるように、会社組織の枠のなかで取り決めていくものです。
それにより、日本中のすべての会社が「社会によろこばれる小さな組織」として生まれ変わることを、私達も全面的に支援していきたいと考えています。
第9回コラム執筆者
本領 晃 (ほんりょう あきら)
(有)人事・労務 チーフコンサルタント
社会保険労務士
大学卒業後、大手半導体製造装置メーカーの技術者、統括管理部門長などを経験。人を育てる社員教育に於いての豊富な経験を持ち、グリーンクレドの導入コンサルを軸とした持続可能な事業活動の運営をサポートしている。元東京労働局企画室総合労働相談員、現在東京簡易裁判所で司法委員として民事訴訟の和解において裁判官の補助を行うなど労働問題を中心に活躍中。災後は、ボランティア休暇、サマータイム、ソーシャルメディア等、新たな社会情勢の変化からソーシャルな職場ルールの作成を手がける等、未来志向の社内ルール作成に力を入れる。
主な著書に、「働く人のモチベーションが上がる人事考課のしくみと人事考課シート集」(共著、税務研究会出版)がある。
●主な講演実績、著書
・「今回の震災の影響下における労務管理」講座 (東京商工会議所杉並支部)
・「解雇に関する基礎知識と注意点」講座 (東京商工会議所 台東市部)
・経営者が知っておきたい、最新:東日本大震災にかかる政府施策と企業対応策
(郡山法人会)
・仕事を通した人生の成功を得る! キャリアデザインセミナー (日本大学)
・経営者が知っておきたい、最新:東日本大震災にかかる政府施策と企業対応策
(社団法人大曲法人会)
・実習で分かる!『評価者訓練』と『賞与分配』のノウハウ (ピーシーエー株式会社)
・働く人のモチベーションが上がる人事考課のしくみと人事考課シート集」(共著)
(税務研究会出版)
プロフィール
現在社長を務める矢萩大輔が、1995年に26歳の時に東京都内最年少で開設した社労士事務所が母体となり、1998年に人事・労務コンサルタント集団として設立。これまでに390社を超える人事制度・賃金制度、ESコンサルティング、就業規則作成などのコンサルティング実績がある。2004年から社員のES(従業員満足)向上を中心とした取り組みやES向上型人事制度の構築などを支援しており、多くの企業から共感を得ている。最近は「社会によろこばれる会社の組織づくり」を積極的に支援するために、これまでのES(従業員満足)に環境軸、社会軸などのSS(社会的満足)の視点も加え、幅広く企業の活性化のためのコンサルティングを行い、ソーシャル・コンサルティングファームとして企業の社会貢献とビジネスの融合の実現を目指している。
Webサイト:有限会社 人事・労務
- 第12回 組織の多様な価値をはかる「クレドアセスメント」の具体的手法とは
- 第11回 組織のきずなをはかる「クレドアセスメント」
- 第10回 グリーン就業規則の各規程について
- 第9回 モノ・カネを中心とした組織から「つながり」を中心とした新しい「職場とルール」づくり
- 第8回 左脳マネジメントから右脳マネジメントへ
- 第7回 若手社員、部下のやる気を持続させるリーダーシップとは
- 第6回 創発により企業文化を創り出す
- 第5回 従業員のES、社会、環境への意識を高めるグリーンクレド
- 第4回 数値目標から人間性を高めるための経営へ
- 第3回 時代は”モノ“から”コト“へ
- 第2回 社会によろこばれる会社がこれからは主役になる時代!
- 第1回 組織の本当の力は、危機に直面した時に試され評価される