第8回
『左脳マネジメントから右脳マネジメントへ』
近年、「右脳の活性化」という言葉を耳にします。右脳を鍛え活性化することによって、 どの様な効果が期待できるのか、検証してみようと思います。
●左脳と右脳の役割とは?
まず初めに、我々の右脳と左脳の機能について、脳科学的な観点から簡単にまとめてみたいと思います。
【左脳】
左脳の役割は「論理的・理論・目標・理論分析」等と関係深く、常に頭の社員の中は緊張や時間、やらされ感といったものに追い立てられ、ともすれば"ストレス"へと発展しやすい思考機能があります。
具体的思考機能としては、下記の様になります。
・理屈 ・目標 ・責任分担
・定量的 ・マシーン ・形式知
・こなす ・やらされ感 ・理論分析
【右脳】
右脳の役割は「ロマン・工夫・人間味・アナログ」等を重視し、感性や創造性、ひらめき等を発揮しながら、当事者意識を持って悪い意味でのストレスを溜め込むことなく、仕事に集中できます。
具体的思考機能としては、下記の様になります。
・主観 ・感覚 ・ロマン
・責任感 ・定性的 ・人間味
・暗黙知 ・工夫 ・当事者意識
以上、右脳と左脳の機能についてご説明しましたが、実際に会社や自分のやっている仕事にロイヤリティを持っている人は、どの位いるのでしょうか。
バブル崩壊後の景気低迷が続く中、多くの日本企業が自らを復活させる手立てとして選んだのが、"目標管理"と"成果主義"を徹底的に導入するということでした。その結果、数字や理論が中心になり、結果が全ての「左脳マネジメント」、即ち、成果主義が主流となりました。 この行き過ぎた成果主義が及ぼした影響は、仕事に疲弊感や疲労感をもたらし、仕事を楽しめない人を増やしてしまった様に感じます。 目標や数字を押し付けられ会社の歯車になるのでは、心を持った社員(個人)はどんどん受身の姿勢となり、仕事に対して疲労感を増していきます。これでは会社の成長にとって本当に必要な"創造性"や"イノベーション"といったものは生まれてこないことは明らかです。
●ストーリーなき仕事では持続できない
3月に発生した東日本大震災で、会社と社員、上司や部下、同僚、地域とのつながりがどの位強いかによって社員の行動が変わってくるのがはっきりした時は、いままでになかったでしょう。 あなたの会社の社員は、普段自分の仕事に対してどの位"熱い情熱"や"思い入れ"を持って仕事を行っていますか。 「あまり気が乗らないけど、ノルマがあるのでこの商品を売っている」とか「上司から言われたので、本当はやりたくないけど、やっている(振りをしている)」といった事態は発生していないでしょうか?
大手企業キヤノンの御手洗冨士夫会長は社長時代に、「目標数値をつくる際には、必ずその数値目標を達成するストーリーを語れ」と良く言っていたそうです。そこに「想い」が込められているかどうかを知るためです。また、同氏はこうも語っています。
「数字なき物語も、物語なき数字も意味がない」
もちろん数字を追いかけることや成果を上げること(=左脳を機能させること)も大切です。しかしその一方で、成果の意味や、自分は何がしたいのか、どうするべきか、といったことを絶えず考え続け、自分の夢や志を高く持つこと(=右脳を機能させること)こそ、これからは大切にしなくてはならないと思います。
この右脳によるマネジメントは、社員一人ひとりの「想い」を大切にし、働く社員たちが自ら考えて行動するといった意味で、ESを軸としたマネジメントと言えるでしょう。
脳科学的に、人は左脳ばかり使っているとストレスを感じ疲れてしまうそうです。そのため、「左脳と右脳はバランス良く使うのがベストだ」ということが多くの研究から実証されています。
そして、それは経営にも同じことが言えると思います。要はバランスのとれた経営をし、"数字"としての目標と"想い"としての目的を融合させていくことが重要と言えるのです。 今まで会社が「左脳マネジメントに偏っていた」と思えるのなら、積極的に「右脳=ESマネジメント」を取り入れていきましょう。実際に、右脳マネジメントを取り入れ、組織の変革を促す際には、企業変革のセオリーとして有名なジョン・P・コッターの「8段階理論」を踏まえると有効です。
この8段階理論の背景には、次の3つの条件があります。
1.情報共感
2.個の主体性
3.ストーリー性
これを基に共感資本によって組織を進化させていくということ、つまり「組織は突然改革するのでなく、この3つの条件により自然と進化していく」といった発想がそこにはあります。 具体的な取り組み例は、次章以降でお伝えしていくことにしますが、上記3つの条件を備えた取り組みが益々必要となってくるでしょう。 今回の地震では、震災後、日本を復興し日本の誇りを取り戻そうというのが大きなストーリーとして進んでいくべき方向なのです
●数値や成長目標から人間性を高めるための経営へ
先程も少し述べましたが、バブル崩壊後に多くの企業が生き残っていくための手段として 選んだ"目標管理"や"成果主義"は、昨今上手く機能せず、崩壊してきていると言われています。
それらは欧米で機能しても、日本においてはその運用があまりうまくいっていないように見受けられます。
原因としては、これらを導入した場合には、結果が全てのノルマのような運用に陥ってしまい、社員が疲労困憊してやる気が失われてしまうことが考えられます。それに加えて、数値目標の達成のために、手段を選ばない社員に対し成果だけで優遇すると、周囲の社員のモチベーションも下がってしまいます。
個人の自主性や「想い」を押し殺してしまうこのような運用方法では、短期的な成果が出たように思えても、長期的にみれば会社にとって一番の宝である人財が、失われてしまうような結果に結びつきかねません。
本来は"人"のための"制度"のはずが、いつのまにか"制度"自体が主役になってしまっているのです。それでは本末転倒と言わざるを得ません。 そもそも「企業の成長」を、一番の目標としてしまうことに間違いがあるのに気づくことが必要です。大切なのは「社会に喜ばれる」ということを一番の目的にし、その結果として"企業が健全に持続的に将来に向かって成長していく"ことが重要なのです。 「社会によろこばれる会社」をつくるには、「人」が主役の経営でなければなりません。そのためにも、10年、20年単位の長期的な視点で、"人財"を育てていく必要があるのです。 松下電器を創業した松下幸之助氏は、部下に「もし、松下はどんな会社なのかと問われれば、『我が社は人を作っております。あわせて電器製品を製造しております』と答えよ」と言ったと伝えられています。
まさにその通りだと思います。いかに社員一人ひとりの人間性を高めていくかが、会社の成長に直接つながっていくのです。そして、そうやって育った「人」が次世代の「人」を育て、永続的に企業が続いていくこととなるでしょう。 いま一度、松下幸之助氏の「企業は人なり」という言葉の本当の意味を見つめ直してみませんか。そして社員一人ひとりの「想い」を大切にし、その能力を引き出すことができるような経営が、これからの時代には求められ、また行っていくことが必要です。
第8回コラム執筆者
齋藤 恵(さいとう さとし)
有限会社人事・労務新潟オフィス チーフコンサルタント
日本ES開発協会 実行委員会 幹事
社会保険労務士
社会福祉士
介護支援専門員
10年間社会福祉施設で働きながら、社会保険労務士・社会福祉士資格を取得。
「職員が満足して仕事をしなければ、利用者なんて満足できる訳がない」をモットーに、介護保険事業所を顧問先とした人事・労務管理制度の構築・運用サポートを提案。現場の勤務経験から培った社会福祉法規・知識・技術・トレンドを盛り込んだ提案は評価が高い。
また、今夏より新潟県では数少ない農業関連団体専門の社会保険労務士として、自身で野菜を栽培しながら活動を開始。現在、野菜ソムリエも勉強中。7月から長岡新聞コラムにて好評連載中。
プロフィール
現在社長を務める矢萩大輔が、1995年に26歳の時に東京都内最年少で開設した社労士事務所が母体となり、1998年に人事・労務コンサルタント集団として設立。これまでに390社を超える人事制度・賃金制度、ESコンサルティング、就業規則作成などのコンサルティング実績がある。2004年から社員のES(従業員満足)向上を中心とした取り組みやES向上型人事制度の構築などを支援しており、多くの企業から共感を得ている。最近は「社会によろこばれる会社の組織づくり」を積極的に支援するために、これまでのES(従業員満足)に環境軸、社会軸などのSS(社会的満足)の視点も加え、幅広く企業の活性化のためのコンサルティングを行い、ソーシャル・コンサルティングファームとして企業の社会貢献とビジネスの融合の実現を目指している。
Webサイト:有限会社 人事・労務
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