小さな会社の広報術

第10回

広報への誤解

 

経営者からのよくある質問

環境、食、エネルギー関連で大企業に負けない発想とセンスで着実に事業を展開している会社の経営者や広報担当者をサポートするのが当社の主な業務です。これまでの業務の中で経営者や広報担当者からよく聞かれた質問を集めてみました。

あたりまえの疑問から、すこし残念な発言など幅広く取り混ぜてご紹介していきます。同じようなことを考えたことがある方もいらっしゃるでしょう。それについて都度回答させていただいた内容も付記しますので、何かの参考にしていただければと思います。

(経営者)「何がニュースになるのかさっぱりわからないんですよね」

(回答)社内の情報をよく見渡してみることをおすすめします。最新の売り上げ情報、顧客とのやりとりなどなんでも拾い集めてみましょう。「おもしろい」と思えるような自社オリジナルの情報が隠れている場合があります。また、世の中の情報と自社の情報を見比べてみることにも努めてみましょう。BtoBの事業でも同じです。

(経営者)「毎月ニュースリリースを出せば1回くらい記事になりますか」

(回答)今月はコレ、来月はアレ、とリリースを出すことは悪いことではありませんが、リリースの回数と記事になることは比例しません。記事にしたいと思うテーマを優先順位をつけしっかりと腰を据えて地道に発信しましょう。

(経営者)「社会貢献したいのです。植林や寄付など、注目してもらえるようなもの、何かありませんか」

(回答)注目されることが目的であれば、「社会貢献」をダシにしている企業というレッテルを貼られてしまいます。本当に社会貢献を考えるなら、できれば自社の立地に合う地域貢献活動をおすすめします。

(経営者)「世の中の役に立つ事業って何がありますか。何かして記事になりたいと思っているんですが」

(回答)世の中の役に立つこと=記事なること、ではありません。その動機、背景が重要で、「この人」が「~~な理由」で「○○という事業」を「はじめた」という説得力のある「中身」がなければ、ただの売名と受け取られてしまうでしょう。

(経営者)「大企業よりうちはもっとすごいことをしているのに、記事にならないのはなぜなんですか」

補足:某大手旅行代理店がとある僻地に出張所を出した記事が当時掲載され、それを見た小さな旅行会社は、自社の出張所は去年開設したのに記事にならなかった、という経緯からの質問。

(回答)大企業の信用度、その記事による情報の影響力を考慮されます。小さな会社の取り組みは、いつ廃れてしまうかもわからないという危険をはらんでいるため、上記のような内容では特に記事にはなりにくいと思いました。

大手をしのぐ信頼感を勝ち得るにはどうするべきだったか、ということを考えると小さな会社では手だてが限られてしまいます。しかし、記事になることではなく、そこを利用する顧客を考えた対策などを真摯に考え、それをニュースリリースにしていくことができたはずです。

(経営者)「記者さんとどのくらいの頻度で会えば記事を書いてもらえるようになるのでしょうか」

(回答)記事を書いていただけるのは、記者さんと頻繁にお会いするからということではありません。きちんとした情報とそれを伝えたいという熱意を持っているから記事になるのです。記者さんとも、社会人としてあたりまえの人付き合いをすることはあっても、記事になるかどうかは、付き合いの深さで決まるわけではないのです。

(経営者)「皆さん、うちの製品をいいと言ってくれるんです。だから記事になるはず(なのにならない!)」

(回答)自社をとりまく多くのひとが褒めてくれるので、自社の製品に自信を持っているということはわかります。しかし、それは、どのように「いい」のでしょうか。それを第三者に分かっていただく「言葉」や、客観的に理解できるデータを整理してみましょう。アンケートを実施してもよいかもしれません。気づかな「表現方法」を発見できる可能性があります。

いかがでしたか。このようなことを思うまえに、自社の事業について、開始した動機、強み、展望を整理してみること、それを客観的に評価してみること、社会貢献より地域貢献を考えてみること、などをおすすめしたいと思います。

広報担当からのよくある質問

ここからは、広報担当者から飛び出した質問を集めています。最初にまとめてしまうと、常々感じるのは、広報担当業務をタレント活動のようにとらえているひとが案外いらっしゃるということです。

これは当社に就職やパート希望で来られる方にも共通して感じることです。メディアとの付き合い=華やかな世界、そこに身をおくことで、自分が輝ける(のではないか)という錯覚に陥っている図式が思い浮かびます。

また、社内からの見え方も「広報担当はメディアと遊び歩いている」「何をやっているのか分からないセクション」となりがちなことは、広報担当者は知っておくべきです。

メディアの側でも女性をもてはやす傾向が特に増していると感じるので、本人も社内も勘違いしてしまうことも多いでしょう。広報担当者は、会社の顔、社長の代弁者であって、その人「個人」を売る活動ではないことを本人が自覚する必要があります。

(広報担当者)「広報担当になったら雑務ばかり増えて困っている」

(回答)広報業務は、社内でどこも担当しないような業務が集ってくるケースが多いのです。しかしだれかがやらなければならないとしたら、それは広報でやることが適切かどうかの判断もありますが、雑務=困るという発想ではなく、会社の「広報担当として引き受ける」という姿勢で望みましょう。

広報業務は、体力勝負、地道で地味、社内なんでも屋------などと、諸先輩方もいろいろなところでおっしゃっていますが、これらの表現は皆正しいと思います。

(広報担当者)「社内から特別な立場だとみられてしまう。どうしたらよいのでしょう(少し嬉しい気分もあり)」

(回答)特に小さな会社でなくても広報ではひとりの担当者に情報を集約させることがメディア向けにも、社内向けにも都合がよいため、ひとり担当者は珍しくありません。しかし、新たに広報担当を置いた会社などでは、これまでと違う立場、役割をどう社内に理解してもらうか、経営者が通達するべきです。

経営者の方が、あまり熱心に広報について社内に語ってくれない場合は、広報担当者自身が、社内の誤解を解く努力をすることになります。

これは、ときには、気持ちが萎えてしまうような行程を経る場合もあります。各社の状況にもよりますが、広報からの活動報告を社内に向けてこまめにしていくことが小さくとも改善への一歩ではないでしょうか。

(広報担当者)「初対面の記者さんに、会社説明はどこまですればよいのでしょうか」

(回答)すべてです。しかし、本来参考にしてほしいのは、社長が初対面の記者さんや外部の方に対して、どんな表現でどのように説明するかを何度か同席させてもらって把握してください。記者さんには、自分の言葉で語る前に、社長の代弁者として語ることを重視したほうがよいでしょう。

(広報担当者)「記者さんに一斉メールを出してもいいのですか」

(回答)出さない方がよいと思います。一度でもお会いしたことのある記者さんであればなおさらです。一斉メールでお知らせしたい内容は、しばしばリリースであるようですが、
個人あてに送ることで、しっかり伝えたいというこちらの姿勢が伝わります。そもそも、しっかり伝えたいと思っていますか?リリースすることが単なる作業になってしまっていませんか。伝えたいと思うなら、伝わる方法をとったほうがよろしいでしょう。一斉メールは該当しないでしょう。

(広報担当者)「広報担当としてブログを書きたいのですが」

(回答)書いてよいかどうか、その内容については会社の承認なくしてやってはいけないと考えます。会社が承認した場合でも、広報として書いてよい内容はとても限られます。会社のアピールになるということよりも、どなたにも不快感を与えないと自信が持てる内容を吟味して書くことができるかどうかが重要ではないでしょうか。個人の顔ではなく会社の顔であることを忘れないようにしましょう。

いかがでしたでしょうか。他にもたくさんの質問を日々いただきますが、代表的なものをピックアップしました。皆様の広報活動の参考になれば幸いです。

 
 

プロフィール

株式会社アルゴバース
広報コンサルティング統括 田熊 秀美

【経 歴】
有機野菜宅配企業で社長秘書、会員向け会報誌の編集を経て1996年、広報チームリーダーに。広報として情報発信することの影響力、活用方法を学ぶ。環境関連財団法人での広報兼務後、経営コンサルティング会社を経て、2002年より現職。生産材(BtoB)企業を中心とした広報コンサルティングのほか、セミナー「小さな会社の広報術実践会」「企業広報実務講座」を運営。広報機能を企業に“移植”することを目指し、基礎知識と実践ノウハウを提供している。2017年よりBtoBの技術マーケティング会社である株式会社アルゴマーケティングソリューションズの一部署として活動し、BtoB分野に特化した記者発表および広報実務請負業に従事している。


問い合わせメールアドレス:prc@argo-ms.com


Webサイト:株式会社アルゴバース

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