小さな会社の広報術

第4回

任意団体を作って、自社を広報する

 

自社が持つ理念や問題意識を伝える術となる

メディアに「取材されたい」「記事として紹介されたい」と思う反面、「ニュースリリースとして発信できるような新しい情報が自社内からなかなか出てこない」という声を経営者や広報担当者からよく耳にします。

ここでお考えいただきたいのは、広報活動の基本は「情報発信」であるということです。広報を担当されている方、あるいは経営者の方は、あらゆる情報発信の可能性を前向きに考えていただきたいと思います。今回は、「情報は作るもの」という観点から、一例として「任意団体の設置」について考えてみましょう。

まず、任意団体の設立について基本情報を整理してみます。
大げさな準備が必要とお思いの方が多いですが、公的機関への届け出は必要ありません。
ただし最低限作成しておきたい書類は、定款、設立趣旨書、メンバー名簿です。そこに必要な内容は、団体の名称、事務局の所在地、連絡先、事務局長名などです。

会社のスタンスは、任意団体の設置に「関わり」、その取り組みについて「事務局として」広報していくというのが望ましいでしょう。したがって、ポイントは、メンバーに、社外の有識者や他の協力企業、団体等を加えるということです。設立趣旨には、自社の事業領域に関連しながら世の中の課題解決に尽力するという姿勢を盛り込むことです。

任意団体を作ったら、将来的にはNPO法人化を目指したいところでもあります。NPO法人の場合は、行政への届け出や決算報告の義務がありますので、より公的な組織となります。必要書類は、ウェブにもオープンになっていますので、その様式に準じて準備することになります。しかし、これは時間と人材に余裕があればということでもよいかもしれません。

さて、お気づきの方もいらっしゃると思いますが、任意団体を作っても、収益を上げることには残念ながら直結しません。とにかく売ることだけを最優先としている会社にはおすすめいたしません。多くの中小企業は、その商品やサービスを通じて「世の中に伝えたい思いや社会において解決するべき課題がある」とお考えのことと思います。そのことこそ任意団体として情報を発信していくことに適しているのです。そのような情報発信は、収益には直結しなくても、じわじわと会社の信頼度と知名度を上げる効力を発揮します。それはなぜかというと、一企業だけではないところに、人々の広がりがあり、そこに信用や信頼、そして何より人々の注目が集るからです。

任意団体設立の効果と実践事例

任意団体を作ることがもたらす効果は、次の二つの面で考えることができます。

・社内広報面:会社の方向性の共有、社会との繋がりへの認知、社員としての誇りを感じてもらえるようにする意識改革などの効果が期待できます。 ・対メディア面:商品やサービス自体の情報ではなく、その会社の姿勢を打ち出すことで、これまでとはちがった情報として扱ってもらう可能性が高まります。例えば団体の発足自体や、主催イベントなどを取材してもらうなど、広報として情報発信するニュースが増えてきます。

次に、計画から実践のプロセスをみていきましょう。まず社内にコアメンバーで実務担当チームを作ります。広報担当がひとりの場合は、社員をひとり仲間にいれて、実行してみるのもよいでしょう。

このチームで、活動の主旨を検討します。ここで、自社の事業について、強み、弱みの部分、今後の方針などを再度見直すプロセスにもなります。次に、参加してもらう有識者を検討していきます。

有識者として、大学や公的研究機関の教授、研究者にひとり入ってもらうと、学術的な見地からの裏付けになり、団体の信用につながります。気をつけたいのは、費用です。基本的には謝礼をお渡しすることを考えるのが礼儀だと思いますが、無料で参加していただける場合でも、活動を通じて得られた「成果」の配分など、いろいろなケースを想定して事前に覚え書きを交わすことが必要です。

このプロセスがはっきりしてきたら、メディアに広める絶好のチャンスですので、発足のイベントを記者発表会または記者懇談会のような形式で、ぜひやりたいところです。

また、一企業ではないために、行政から協力を得やすい場合もあります。イベントを開催する際に後援名義が比較的簡単に取れるようになったり、費用面でのサポートが得られるケースもあります。こういうときに、一企業とは違った、任意団体としての活動や情報の広がりに、行政側から期待されていることがよくわかります。いくつかの事例をご紹介します。

事例1
子ども向けに安全な素材のおもちゃを作っているD社では、新製品がたくさん
開発されています。しかし、新製品情報として取り上げられるだけではなく、もっと開発した商品のコンセプトやどんな思いで企画されたのか、ということを取り上げてほしいと思っていました。

そこで、「○○おもちゃ研究会」という任意団体をつくりました。実は、それまで社内のプロジェクトチームがありましたが、それにこの名称をつけ、時々会議に参加してくれていた大学の先生に、メンバーとして入ってもらったのです。ほかに、消費者モニターも数名参加してもらうことにしました。

この研究会は、今後ウェブサイトを立ち上げ、団体発足のお披露目をする予定です。そこで、年間のイベントや、情報発信、セミナーなどの活動計画を報告し、一般の参加者を募っていく予定です。

事例2
K市の地域おこしのために活動したい、という地元の有志が集って「○○文化委員会」を発足させました。日本ではK市にだけ、古くから伝わる伝統文化をもっと知らせ、来街者を増やしたいというのが目的です。

はじめは、すでに地元で作られていたゆるキャラをどうやって世の中に出していくか、ということを検討していたのですが、このゆるキャラの名前をあてはめた「○○文化委員会」として活動することにより、活動内容が明確になりました。はじめは発足のイベントを地元のお寺で行い、その模様を地元新聞で取材していただきました。その取材がきっかけとなって、ゆるキャラが少しずつ地元で認知されるようになっています。

またK市に住む人がもっと地元を愛してくれるようにと、夏にイベント開催を企画しています。そのイベントは、はじめは行政の援助もなく手弁当で行っていましたが、3年目からは少し援助していただけるようになりました。1年目は無理でも、2年3年と続けるうちに協力者を得て、活動の幅も広がっていくことを実感していると事務局長は語っています。

もちろん、取材の依頼も増えてきています。こちらからニュースリリースを出さなくてもウェブ検索でたどってくるメディアの方が多いようです。

以上のような事例はほかにも多くあります。うまくいっている団体の多くは、派手な活動ではなく、地道に情報発信していく姿勢があることです。また、有識者などの有意義な情報を一般に開示していくことで世の中の役に立つなど、共感者を増やしていることです。ぜひこの機会に、考えてみてはいかがでしょうか。

 
 

プロフィール

株式会社アルゴバース
広報コンサルティング統括 田熊 秀美

【経 歴】
有機野菜宅配企業で社長秘書、会員向け会報誌の編集を経て1996年、広報チームリーダーに。広報として情報発信することの影響力、活用方法を学ぶ。環境関連財団法人での広報兼務後、経営コンサルティング会社を経て、2002年より現職。生産材(BtoB)企業を中心とした広報コンサルティングのほか、セミナー「小さな会社の広報術実践会」「企業広報実務講座」を運営。広報機能を企業に“移植”することを目指し、基礎知識と実践ノウハウを提供している。2017年よりBtoBの技術マーケティング会社である株式会社アルゴマーケティングソリューションズの一部署として活動し、BtoB分野に特化した記者発表および広報実務請負業に従事している。


問い合わせメールアドレス:prc@argo-ms.com


Webサイト:株式会社アルゴバース

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