第2回
やってませんか?こんな失敗
ニュースリリースの思わぬ失敗
広報活動を始めることになったら、最初にするのはニュースリリース(プレスリリースともいいます)を作成することが多いでしょう。そんなときにやってしまいがちな失敗があります。しかも当事者はその失敗には気がついていない!というケースもありますので要注意です。
(1)ニュースではない情報をリリース
「ニュースリリースをしてイベントに集客したい」というご要望をいただいたりします。しかし、ニュースリリースは集客のために使う手段ではありません。記者の方に取材をしたいと思ってもらうために企業のニュースを発信するものです。「それでは、どんなものを書けばいいのですか」というのもよくいただく質問です。その場合は、どのメディアにどんなふうに書かれる記事なのかをまず考えてみることです。このように、記者さんの側の視点で自社の情報をみてみると、ニュースリリースに値する内容かどうかわかると思います。
(2)業界用語と専門用語
ニュースリリースは誰でも分かる明解な表現になっているほうがよいといわれます。ある記者さんの例えでいうと「中学2年生でも理解できる程度」だそうです。そうすると、難しい日本語やカタカナ語はきっと使えないですね。そして、そうです、皆さんの企業ではあたりまえに専門用語や業界用語も気をつけなければなりません。
また「おいしい」とか「色がきれいな」などの、読み手の判断による表現もあいまいですのでニュースリリースにはふさわしくないでしょう。そういう視点で新聞を読んでみると、記事中にカタカナ語が出てこないことにもお気づきになると思います。つまり、ニュースリリースにはできるだけカタカナ語を使用しないで日本語で説明してみましょう。専門用語を使用するのが必要な製品の場合は、ニュースリリースの次ページに「資料編」と称したページを設けることが有効です。
だんだん難しいと感じてきましたか?そう、ニュースリリースは、実は広報的感覚や視点が必要とされる高度な技なのです。ですから最初はとてもたいへんです。ある記者さんは、企業からそのメディアへ向けたラブレターだと思って「愛を込めて書いてください」とおっしゃっていました。伝えたいという思いが伝わるように書くべきという意味だと思います。
(3)ニュースリリース発信のタイミング
ニュースリリースを作成した後は、メディアに向けて発信します。正確には、発信したい時期を決めて、それに間に合うようにニュースリリースを作成することになります。さて、発信する時期はいつがいいのでしょうか。多くの企業のリリースは時間がなさすぎるようです。いま製品ができたからリリースしたいという気持ちは分かりますが、それでは遅すぎるのです。もし新製品の発表なら少なくとも発売開始の1ヶ月前が良いタイミングです。または、その新製品が夏に活躍するものなら、発売開始時期だけではなく初夏の頃にも再度ニュースリリースをしたほうが効果的です。
中小企業にとって、企業としての存在をメディアに知ってもらうことが重要なので、最初のうちはニュースリリースをこまめに発信しましょう。ニュースリリースは、最初のお披露目のリリース、その後の販売状況など経過報告のリリース、イベント終了時等の事後報告のリリースなど、ニュースとして情報を整きちんと整理することでいくつでも発信することができます。
ところで、昨今はメールで一斉同報発信する方も多いかもしれません。一昔前は一斉ファックスでしたね。そして最近ではウェブ上で一斉にリリース配信サービスの会社も多くなっています。このような手法で発信する前に、今一度ニュースリリースの内容の重要度を確認にしてみてください。この理由は、一斉に発信してしまうことでニュースではなくだれでも知っている情報となってしまうことでもよいのか、それによって記者の方が取材したいと思う情報価値が落ちてしまってもよいのかです。大事な情報であればあるほど安易に同報発信せずに大事に発信してほしいと思います。
情報を大事に発信するということは、顔も名前も分からない相手にニュースリリースをばらまくことではありません。特定のメディアに掲載されたいという希望があればそのメディアに訪問することもしてもよいのです。そのような熱意ある行動は広報に活動の中では地味ですがとても重要です。
さらに、最近では自社のウェブサイトを持っている企業がほとんどだと思いますが、ニュースリリースを見た記者さんはまずウェブサイトに見に行きます。それから他で紹介されているかどうかなどの情報も確認します。その際に、広報がはじめての会社であれば他に情報が掲載されていることはないのがあたりまえなのですが、自社のサイトにも何も情報が掲載されていないと、企業への不信感につながってしまいます。ニュースリリースを発信するときには、自社のウェブサイトにも掲載することを忘れずに行ったほうがよいでしょう。
取材対応でのまさかの失敗
ニュースリリースを発信すると取材依頼がくる場合があります。大手の企業は広報担当が毎日その対応をするくらいですから慣れたものですが、中小企業の場合はそうはいかず、社員全員があたふたしてしまうことも多く見受けられます。以下は注意点です。
(1)取材依頼を放置しない
ある会社でニュースリリースを発信後、テレビの情報バラエティ番組から情報収集という理由でいくつかの質問が電話でありました。運悪く広報担当(兼務)者が外出しており、折り返し電話ができたのが翌日の夕方でした。電話が入ってから1日半経ってしまい、他の内容に決定してしまいました。その会社は日本初で発表したばかりの最新のサービスがテレビデビューする機会を失ってしまったのです。
その後この会社は同じ過ち、つまりすぐにメディアの要望に対応せずに、広報としての成果を上げる機会を失うことをこのあと2回経験します。これは広報担当者が別の業務と広報業務を兼務する際の弊害でもありますし、また会社での広報業務の優先順位の低さを物語っています。テレビは早ければ数時間のうちに回答したり、取材対応可能であることをアピールする必要があります。新聞や雑誌、ウェブメディアはもう少しゆっくりしていますが、それでもできるだけはやく、メディアが何を要望しているかを把握することが必要です。もし時間が許せば直接お会いして説明したいところです。
大企業の場合には、どうしてもこの会社を取材したい、というニュースとしての強さ、つまり情報価値があります。しかし、たいていの場合、中小企業にはそれほどの強みはありません。そんなときは、何よりも迅速で顔の見える対応が重要なのです。
(2)取材では隠しごとをしない
取材していただくときには、できるかぎり情報を差し出す姿勢でいるのが基本です。しかし、「それは言えない」という台詞を出してしまう経営者の方がいらっしゃいます。記者さんはいろいろな言い方で質問してきます。中小企業の経営者にとって「これまでにそんなふうに質問されたことがない」と最初は感じてもしかしたら違和感があるかもしれません。
もし、記者さんからの質問にそのまま回答したくない場合は、そのとおりに言えばよいのです。そうすると記者さんは別の質問をしてくれるはずです。ただし、まだ事業計画にも上がっていないような構想状態の事業を安易に話してしまうのはやめましょう。きっとおもしろいはずですので、記者さんは興味を持ちいろいろ質問してくると思います。しかし、それが記事になってしまう可能性があります。その場合、事実になっていないことが報道されてしまい、その会社にとってはもちろんですが、記者さん自身も信頼を失うことになります。事実を誠実にお話ししましょう。
また業界全体の動向や競合他社の動きなどをきちんと把握していることは、広報として強みです。取材対応されるときには、そのようなことも踏まえて情報収集しておき、知っている情報は自社のことも業界のこともオープンに話して、記者さんを会社のファンにしてしまいましょう。
プロフィール
株式会社アルゴバース
広報コンサルティング統括 田熊 秀美
【経 歴】
有機野菜宅配企業で社長秘書、会員向け会報誌の編集を経て1996年、広報チームリーダーに。広報として情報発信することの影響力、活用方法を学ぶ。環境関連財団法人での広報兼務後、経営コンサルティング会社を経て、2002年より現職。生産材(BtoB)企業を中心とした広報コンサルティングのほか、セミナー「小さな会社の広報術実践会」「企業広報実務講座」を運営。広報機能を企業に“移植”することを目指し、基礎知識と実践ノウハウを提供している。2017年よりBtoBの技術マーケティング会社である株式会社アルゴマーケティングソリューションズの一部署として活動し、BtoB分野に特化した記者発表および広報実務請負業に従事している。
問い合わせメールアドレス:prc@argo-ms.com
Webサイト:株式会社アルゴバース