小さな会社の広報術

第5回

公募イベントで広報する

 

夏休み前の募集が吉

前回に引き続き、「発信できる情報がない」とお思いになりながら、でも「商品やサービスを知ってほしい」という経営者や広報担当者の願いをかなえる広報活動を提案します。それが「公募型イベント」の企画、実施です。

商品をすぐに買ってもらえるわけではありませんが、主催者としての会社名を知らせたり、商品の存在を知らせたりすることにつながります。回り道をしているようではありますが、必ず企業や商品に含まれた思いを感じてもらえるはずです。

公募型イベントには、例えば次のようなものがあります。イラスト、ポスター、写真、体験談(エピソード)、俳句・川柳--。新聞の広告などで大手企業が実施する公募型イベントの告知をみたことがある方も多いのではないでしょうか。

ある経営者は、「うちのような規模でやっても集まるのだろうか」とおっしゃいますが、テーマの設定、開催時期次第で、小さな会社でも十分できるのです。むしろ、小さな会社ほどやってみたほうがよいのではと思います。

応募者は、自社にとっては潜在顧客です。なかなか直接話をする機会はないはずです。そんな応募者の方とイベントを通じてやりとりすることが、社員教育になったという声も聞きます。

では具体的に進めるための段取りを整理してみます。おおまかな流れは、企画~公募~受賞発表~授賞式開催~次年度実施、となります。次年度もやるの?とお思いになったでしょうか。そうです。毎年継続して行うことで企業の認知度、信頼度を上げていくのが目的ですから、1年で終わらせたらもったいない!長いスパンで考えて企画しましょう。したがって、派手で大きなことをやるよりは、できるだけ低コストで人材を割かずに継続できる方法を考えることも大切です。

さて、この夏休みに作品を作ってもらうことを想定した場合、7月頃までに募集告知をする必要があります。準備は簡単です。事務局と担当者を設置します。たいていひとりで、広報担当者や、新人研修の一環で担当してもらう場合が多いです。次に予算確保です。受賞者への賞金や賞品、審査員への謝礼、授賞式の費用等が想定されます。

募集告知は、広告ではなく、公募専門媒体の記事掲載を中心に行います。歴史のある媒体では『公募ガイド』があります。ウェブ上の公募専門サイトもあるので、そこにもニュースリリースを発信します。たいていの場合、簡単に掲載してもらうことができます。ウェブで掲載されると、リンクなどで情報が拡散していきます。ただ、メディアによっては、賞金金額等に規定がある場合があります。たとえば、賞金5万円以下は掲載しない、などです。そのあたりはチェックしてから賞金を決めたほうがよいでしょう。また会社のサイト、facebookがあればそこでも紹介していくことも有効です。

夏休みには宿題もあり、子どもが何かを創作することの絶好の機会ですが、公募型イベントを企画する際には、授賞式を行う時期に照準を合わせて募集告知をしてもよいケースもあります。たとえばエコ関係の公募なら、環境月間である6月に授賞式をすることを想定して公募を開始したり、また農業関連がテーマなら、収穫の秋に授賞式をすることを想定して公募を開始するなどです。またもちろん、応募者はおとなも可能にしてよいと思います。その場合は、審査基準を明確に定めたり、授賞者を年齢別に分けるなどの配慮をしましょう。

応募しやすいテーマ設定を

ニュースリリースの作りやすさも鑑みて、どんなテーマの公募型イベントを企画するかを考えます。ポイントは、応募しやすさです。前出のように、公募型イベントには、様々なものがあります。どれが応募してもらいやすいか、自社の事業に合っているかを考えてみましょう。場合によっては、海外からの応募もあるかもしれません。そうした情報の広がりというのは、公募型イベントならではの醍醐味です。

(H社とT社の事例)
公募型イベントで企画案を募集したH社は「地球にいいこと企画」と称して、自分の行うエコな取り組みを3ヶ月間募集して、100件程度の応募実績でした。イラストコンテストのT社は「○○のイラストコンテスト」というもので、管理のしやすさや手軽さを考慮してハガキ大の用紙指定で募集し、こちらは、1200件を超える応募実績でした。

H社のほうが賞金の金額は大きかったにも関わらず、応募数が少なかったというのは何を意味しているかお分かりになりますでしょうか。また、企画案の募集では、授賞式会場でそれを分かりやすく掲示することが難しかったのですが、イラストの募集は、それをただ展示すればよく、授賞式会場でもよく見栄えがしました。

この事例のように、テーマの分かりやすさ、応募の手軽さに加えて、運営側としての発表のやりやすさも考慮しましょう。

テーマ、事務局名称(○○イラストコンテスト事務局等)を決めたら、呼びかけ文を作成します。ここには広報としての本来業務を徹底します。なぜこのコンテストをやることにしたのか、ということを簡潔に、そして熱心に伝える文章です。この呼びかけ文の入ったリリースやコンテストの案内状を各所に配布します。

審査員、賞品(現金で5万円程度からの設定が応募してもらいやすいという統計があります)、審査日程と方法、受賞作品の発表、授賞式の開催日程などを決めます。公募の開始、募集結果、受賞者の報告を随時リリースすることも忘れずにおこないましょう。審査員には、タレントさんなどが入ると応募者も増えます。しかし、費用なども考えると、学術機関の方やテーマに即したNPO、行政関係の方が望ましいかもしれません。

このように、公募イベントの開催を通じて、広報としてリリースしていくポイントがあり、その都度会社名を知ってくれるひとがいるというだけで、何もしないでいるよりも広報できていると考えることができるのです。

公募イベント終了後は、作品をサイトで紹介したり、イベントで掲示したりすることで、ファンがたくさんついている企業という見せ方ができます。またイベントを継続していくことで、「あのコンテストの会社ね!」というように会社の存在を印象づけることに期待できます。いかがですか?皆様の会社でもやってみませんか?

 
 

プロフィール

株式会社アルゴバース
広報コンサルティング統括 田熊 秀美

【経 歴】
有機野菜宅配企業で社長秘書、会員向け会報誌の編集を経て1996年、広報チームリーダーに。広報として情報発信することの影響力、活用方法を学ぶ。環境関連財団法人での広報兼務後、経営コンサルティング会社を経て、2002年より現職。生産材(BtoB)企業を中心とした広報コンサルティングのほか、セミナー「小さな会社の広報術実践会」「企業広報実務講座」を運営。広報機能を企業に“移植”することを目指し、基礎知識と実践ノウハウを提供している。2017年よりBtoBの技術マーケティング会社である株式会社アルゴマーケティングソリューションズの一部署として活動し、BtoB分野に特化した記者発表および広報実務請負業に従事している。


問い合わせメールアドレス:prc@argo-ms.com


Webサイト:株式会社アルゴバース

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