第42回
海外取引のリスク【第2回 海外取引におけるリスクマネジメント】
株式会社TMR 執筆
1. 海外取引の様々なリスク
2. 海外取引を行う企業の傾向
3. 海外取引におけるリスクマネジメント
4. リスクマネジメントへの取り組み
海外取引を行う企業は増加しましたが、原材料の高騰や急激な円安など環境の変化等による貿易(輸出入)、特に輸入関連では直接現地企業と取引を行う企業が多くなる一方で、海外との取引リスク回避の手段として国内取引に回帰する企業もあります。
リスクマネジメントの側面から、国内取引に限らず海外取引であっても基本的な考え方は同じですが、特に海外取引においては、国内取引とでは想定されるリスクが大きく異なります。
1. 海外取引の様々なリスク
海外取引を行う際に想定されるリスクとしては以下のようなものがあり、取引する国や相手によって優先度や対策が異なります。
カントリーリスク
・ 政治・政情に関するリスク
国際問題や貿易摩擦などの国家間の問題や戦争・紛争、クーデターなど
・ 社会問題に関するリスク
治安問題によるトラブルや公害などの環境問題に関わる可能性など
・ 経済問題に関するリスク
為替相場や株式、競争法など経済活動や法制度など
セキュリティリスク
・ テロの発生や自然災害の発生、情報セキュリティレベルなど、国や地域によって異なるセキュリティレベル
オペレーションリスク
・ 輸出入規制や投資規制、現地法人の操業規制や品質管理、現地企業の与信管理や知的財産権侵害、その他、広告規制や税関連の法律、訴訟制度など
トラブルとなりやすいものとして、輸出入時の商品の破損や紛失、商品や技術の流出、訴訟問題への発展などがあります。
梱包や温度管理など、日本では当然に整備されている物流環境は、海外では当たり前(保証されるもの)ではありません。また、模造品を作られる危険の他、競合他社や第三国への情報・製品の流出などもありえます。訴訟に関しては、日本では最終手段のように扱われますが、すぐに訴訟になる国もありますし、始まった訴訟が遅々として進まない(結論の先延ばしが行われる)こともあります。
2. 海外取引を行う企業の傾向
2023年に行われた1万社以上の国内企業を対象とした海外取引意識調査では、海外取引を行っている企業は3割弱となっており、企業規模に比例して参入数が多い傾向にあるように見受けられますが、従業員が5人以下の小規模事業者でも海外取引を行っている企業は2割を超えており、国内人口の減少に伴う景況悪化を見込んで、中小企業においても海外取引は増加傾向にあります。
一方で、海外取引を既に行っている企業では、昨今の急激な円安進行の影響もあり、為替レートの変動にリスクを感じる企業が非常に多く、未参入の企業では言語や文化(商慣習)の違いに加え、自社で対応できる人材確保が難しいことなどが参入の障壁となっています。
既に海外取引を行っているまたは予定がある企業がリスクと感じていること
・ 外国為替レートの変動 ・ 進出先の政治情勢 ・ 進出先の経済情勢 ・ 製造技術への信頼度(製品ロス率) など
海外取引を行っていない企業がリスクと感じていること
・ 言語の問題 ・ 外国為替レートの変動 ・ 社内人材の確保 など
グローバル化が進む市場において、海外に目を向けたいと考えている企業は多いと思われますが、こういったリスクの対処方法を相談できる窓口は少なく、認知度も低いため、行政と民間企業が協力し、海外取引を支援する取り組みが必要と考えられます。
3. 海外取引におけるリスクマネジメント
インターネットや国際物流の発達により比較的容易に海外取引自体は行えるものの、本来必要な手続きや契約書面の書式などについての知識を持たず自己流で取引を行うと、たった1枚の書類のために大きな痛手を負うことにもなりかねません。
海外取引の場合でもリスクマネジメントの基本的な方法自体は同じですが、異なるのは、想定される海外取引特有のリスクの内容や優先順位です。国内取引では意識しないようなことをリスクとして捉えないといけない項目や、海外取引の場合のみ優先度が高くなる項目などがあります。また、世界情勢の変化による影響を受けるため、世界のニュース等の情報取得も必要となります。
重要なリスクの洗い出し
問題発生時の影響や発生確率、相手国ならではのリスクなどをよく吟味して優先順位をつける必要があります。
現地情報の入手
国の情勢や政治動向、企業調査や与信管理など、より多くの信用できる情報を入手する手段を用意することが望まれます。(現地社員や協力企業、調査会社の定期情報など)
マニュアル化や対応窓口の設置など
緊急連絡先や対応手順など、組織体制やマニュアルを整備しておくことで、トラブルの防止や発生時の早期解決を行える体制が必要です。特に海外とのトラブルは長引くことが予想されるため、早期対応が行えることは国内以上に重要となります。また、環境変化による影響も大きいため、こまめに見直しと改善を行うことも必要です。
4. リスクマネジメントへの取り組み
リスクマネジメントはリスクへの対策を行うだけでなく、知識やノウハウを得る機会としても有効です。
自社に専門部署がある場合や、現地にコネクションが既にある場合などを除き、対応には人員確保やコネクションの構築など、時間とコストが必要となることは想定する必要があるでしょう。
自社でリスクマネジメントを行う
専門部署が存在し、現地法人やコネクションを既に持つような企業であれば自社で管理することも可能ですが、自社の偏った見方により、自社独自で管理すること自体が大きなリスクとなる可能性があります。
専門業者に協力を依頼しリスクマネジメントを行う
調査会社等の専門業者に協力を依頼し、客観的な情報収集や組織構築等を含めたリスク対策を行うことで、リスクへの備えの他、自社の知識やノウハウ蓄積にも繋がります。この場合であっても、自社でしっかりとした管理をする必要があります。
リスクを回避する方法を選択する
海外取引のリスクを踏まえ、商社やコネクションのある企業を経由した間接取引や国内での取引を見直すなど、リスク自体を回避するのも有効な手段です。
直接取引を行うメリットとリスク、行わない場合のデメリットと安全性などを比較検討し判断することが大切です。ノウハウを持つ専門業者などに相談することで、よりよい判断が行えると思われます。
株式会社TMRでは、海外企業の信用調査に加え、リスクマネジメント体制の構築支援を行っています。組織体制の最適化支援や内部通報制度、従業員研修による意識改革など、独自のノウハウと事案発生の企業や弁護士事務所からの多岐にわたる問題解決で得た豊富な実績を元に効果的な支援を行っています。また、海外のネットワークや企業情報のデータベースも保有しており、長年の企業調査の実績により蓄積されたノウハウを活かした各種調査も行っています。
※転載元 株式会社TMR お役立ち情報「海外取引のリスク 第2回 海外取引におけるリスクマネジメント」
プロフィール
株式会社TMRはビジネスにおけるあらゆるリスク対応を支援し、企業価値の向上を全力でサポートします。
・信用を第一に「誠意」「正確」「迅速」をモットーにご納得いただくまで親身にご説明いたします。
・マスコミや弁護士事務所、警察関連組織などへの調査協力も行っており、法令遵守で調査情報の秘密厳守、社会正義に即した調査を行います。
・ISO27001認証を取得しており、調査後の調査資料の廃棄に至るまで厳格に管理しています。
取引先や社員、株主などを対象に「反社会的勢力」との関係をチェックします。情報収集と収集した情報の蓄積を行い、独自でデータベースを構築し、情報利用についても熟知しているため、安心してお任せいただけます。
■信用調査
企業の与信調査(不動産や資産など)から採用時の個人 調査、その他、長年のノウハウを活用したきめの細かい各種信用調査を行います。
与信調査・不動産・資産・債権保全・信用調査・採用 入居者審査・身元調査・市場調査・各種マーケティングリサーチ・テナント調査・身元調査・訴訟関連・債権関連など
ISMS認証のノウハウを活用した情報セキュリティ対策支援やネット風評対策、ハラスメント対策などの企業のリスク対策のほか、盗聴対策などの個人向けの対策を含め、あらゆるリスク対策について対応可能です。
企業リスク対策(情報セキュリティ、情報漏洩等)・ネット風評対策・ハラスメント対策・各種相談窓口開設(コールセンター、内部告発等)・その他 盗聴対策、各種セミナー開催など
Webサイト:株式会社TMR
- 第43回 経営者リスクとは?
- 第42回 海外取引のリスク【第2回 海外取引におけるリスクマネジメント】
- 第41回 海外取引のリスク【第1回 海外取引における信用調査の重要性】
- 第40回 営業秘密の保護
- 第39回 業務上横領にはどう対応すべきか
- 第38回 企業のBCP対策【第2回 BCP対策の手順】
- 第37回 企業のBCP対策【第1回 BCP対策の状況】
- 第36回 企業不祥事の要因【第2回 自動車開発の不正認証取得事例から見る改善ポイント】
- 第35回 企業不祥事の要因【第1回 自動車関連企業の不正】
- 第34回 企業が行うべきリスクヘッジ【第4回 盗聴・盗撮から企業を守るためのリスクヘッジ】
- 第33回 企業が行うべきリスクヘッジ【第3回 情報漏えいのリスクヘッジ】
- 第32回 企業が行うべきリスクヘッジ【第2回 リスクヘッジの取り組み方】
- 第31回 企業が行うべきリスクヘッジ【第1回 リスクヘッジ能力の高い人材の確保と育成】
- 第30回 職場の心理的安全性
- 第29回 注意義務となっている反社チェック
- 第28回 投資先、出資先とのトラブル未然防止と発生後の対処
- 第27回 企業が行うべき反社チェックとは
- 第26回 企業におけるハラスメント 【第4回 企業間で発生するカスタマーハラスメント(カスハラ)とその対応】
- 第25回 企業におけるハラスメント【第3回 カスタマーハラスメントへの対応】
- 第24回 企業におけるハラスメント【第2回 パワーハラスメントの分類と事例】
- 第23回 企業におけるハラスメント【第1回パワーハラスメントがもたらす企業リスク】
- 第22回 企業のリスクマネジメントとして行う素行調査の有効性
- 第21回 反社チェックのポイント(採用編)
- 第20回 採用リスクを回避するバックグラウンドチェック(経歴調査)とは
- 第19回 個人情報との向き合い方【第2回 情報が流出する原因とリスクマネジメント】
- 第18回 個人情報との向き合い方【第1回 個人情報の背景と現在】
- 第17回 外部専門会社を活用した前職調査や身元調査で明らかになるネガティブ情報とは
- 第16回 資金調達における反社会的勢力の規制への対応について
- 第15回 倒産リスクのシグナルを読み取る必要性とポイント
- 第14回 顧客満足度を向上させるための相談窓口の設置
- 第13回 信用取引において必要不可欠な与信管理とは
- 第12回 オンライン面接へシフトする採用市場における調査専門会社の活用
- 第11回 採用時にネガティブ情報をつきとめるバックグラウンドチェック
- 第10回 企業の社会的責任として求められる、組織全体で行う反社対策
- 第9回 自社の内部統制は本当に機能していますか? 【第3回 内部統制の効果的な運用】
- 第8回 自社の内部統制は本当に機能していますか? 【第2回 内部統制の体制づくり】
- 第7回 自社の内部統制は本当に機能していますか? 【第1回 内部統制とは?】
- 第6回 不良債権リスクの高まりでより必要不可欠となる与信管理
- 第5回 コロナ禍の資金調達難に付け入る反社や黒社会の融資や買収の危険性
- 第4回 アリバイ会社との取引が懸念される場合の企業調査対策とは
- 第3回 採用調査で重要性が増しているリファレンスチェック
- 第2回 ビジネス取引において実施される信用調査とは
- 第1回 貸し倒れリスクを回避するための債権回収の対策