第32回
企業が行うべきリスクヘッジ【第2回 リスクヘッジの取り組み方】
株式会社TMR 執筆
1.リスクヘッジの重要性
2.リスクヘッジの取り組み方
3.リスク発生時の対応
機密データのデジタル化や働き方改革、設備や機器の技術革新により、私たちを取り巻く環境の変化は速く、また次々に発生する不正や不祥事など、これまでのリスク対処では補えなくなるものや新たに想定が必要となるリスクが発生し、その内容も大きく変化しています。
今回は、リスクヘッジは具体的にどうすればよいのかについてご説明致します。
1. リスクヘッジの重要性
リスクマネジメントとは、言葉の通りリスクを適切にマネジメントすることですが、適切にマネジメントするためには、できる限りリスクを低減させる必要があります。この低減させる行為こそがリスクヘッジにあたります。
リスクがあっても対処方法が想定できていれば、新たな試みにも挑戦しやすくなります。こういった観点で考えると企業活動におけるリスクヘッジは“守る”だけではなく、“攻める”ためにも必要なことがお分かりいただけると思います。変化が速く進化を求められる現代の企業には、企業の存続、発展のためにリスクヘッジはとても重要です。
2. リスクヘッジの取り組み方
リスクヘッジは、まず、リスクを認識できなければなりません。そのためには何がリスクとなり得るのかを認識/想定する必要があります。次に、リスクを発見した場合にどのように行動するのかを理解し、組織として行動できるようにしておくことが必要です。そのために行わなければならないことを以下に挙げます。
① リスクの認識力を育てる
会社(本社)での机上のリスク把握には限界があります。リスクをより早く察知するために、リスクを認識できる社員を育てる必要があります。そのためには、リスクマネジメント講習(基本知識習得)や実際に対処した人の話を聞いて学ぶ(事例研究)など、リスクの概念や具体的なリスクについて教育することが必要です。
また、社外の講習やリスクアセスメントの取り組みも有効です。不祥事で耳にする数値改ざんによる違法行為などは、常習・常態化し、内部ではリスクとして認識できていなかったりします。内部では認識できない重要なリスクもあるため、外部(第三者)の視点でチェックを受け、指摘・指導され、改善することが有効です。
② リスクアセスメントとリスク発見時の行動ルール
リスクアセスメントとは、想定されるリスクを予め特定し、起こりやすさ、影響度などをもとに、リスクの分析・評価を行うことです。リスクアセスメントを行い、できるだけ多くのリスクを把握しておくことで、優先順位により事前対策を立てることが可能です。また、認識もしやすくなります。
変化が激しい現代では、定期的にリスクアセスメントを行いアップデートしていくことがとても大切となります。
リスクは想定外のことや想定通りの現象ではないことも多いため、認識した人が上席者や適任者に通知し、組織で対処できる仕組みづくりがより重要となります。
誰に知らせればよいのか、知らせを受けた上席者は組織をどのように動かすのかなどの行動ルールを策定しておくことが効果的です。
また、現場が認識したリスクを遅滞なく通知してもらうために、上席者(会社)は闊達なコミュニケーションがとれる環境を整えておくことも必要です。通報窓口を有効に活用しても良いでしょう。
③ 人事評価への反映
問題発生時に対処した人を評価することは容易ですが、問題を事前に抑止した貢献度は把握が難しく評価が困難です。
リスクヘッジ能力の高い人ほど、事前に回避することで何も問題が発生していないとも考えられますが、対処した人が評価され、事前回避した人が評価されない評価制度では、リスクヘッジ能力の高い人のモチベーションが低下してしまう恐れもあります。
そこで、問題対応能力だけでなく、リスクヘッジへの積極的な取組みや各人が実施している対策実行などを人事評価項目に加えることも有効です。これにより社員だけでなく、上席者のリスクヘッジに対する意識を向上させることが期待できます。
社員全員の意識が向上し、リスクヘッジ意識が強い組織ができると不祥事やコンプライアンス違反などの抑止にも繋がります。
3. リスク発生時の対応
リスクアセスメントで分析・評価を行った結果、リスクの重要度や優先順位により、その内容に応じた適切な対応方法を具体的に規定しておくことで、より迅速で正確な対応をとることが可能となります。
具体的な対応の前に、基本的な対応方針を決めると良いでしょう。リスクの対応方針は下記の4つに分類され、内容に応じていずれかの方針を選択していると思いますが、リスク発生時においても同様の考え方に基づき、対応することになります。
予測しないリスク発生時には臨機応変な対応が要求されますが、どの方針で対応するのかを見定めることで、後の対応方法も見えてきます。
① リスクの回避 【起こり得るリスクを回避するために活動を停止する】
新商品を開発する際に価格や市場競争力などを調査した結果、リスクを取ることが妥当ではないと判断し、開発を断念する場合などが該当します。
② リスクの低減 【起こり得るリスクを最小限に抑える対策】
地震対策のためのビル補強や拠点分散による稼働維持策など、リスクに対して被害の発生を抑制する対策や発生した際の被害を最小限に留める対応を行うことです。
③ リスクの移転 【第三者にリスクを移転させる】
重要データをクラウドサービスに移管し、クラウドサービス企業にリスクを肩代わりしてもらうような対応です。火災保険や地震保険などの保険加入も移転に該当します。
④ リスクの容認 【リスクの発生を受け入れる】
影響が軽微な場合や発生する可能性が著しく低い場合など、発生してしまった場合は受け入れるというものです。新規事業などでリターンを見越してリスクを容認するリスクテイクなどが該当します。容認できるレベルまでリスクを低減させることがリスクヘッジとも言えます。
リスクヘッジは企業の存続や発展には欠かせない取り組みです。しかし、変化が激しい現代では、既定のマニュアルだけで対応することは困難です。社員一人ひとりが意識を持ち、対応を行えるよう教育することに加え、組織体制の整備も必要です。そして最も大切なのは変化に対応すべく、定期的な改善を行いアップデートしていくことです。
株式会社TMRは、リスクマネジメント研修やリスクマネジメントのコンサルティング、社員の能力育成のしくみづくりの実績が豊富です。組織構築支援や各種相談窓口設置も行っています。長年にわたるリスクマネジメント支援や社員能力育成で培ってきた独自のノウハウをご提供させていただきます。
※転載元 株式会社TMR お役立ち情報「企業が行うべきリスクヘッジ 第2回 リスクヘッジの取り組み方」
プロフィール
株式会社TMRはビジネスにおけるあらゆるリスク対応を支援し、企業価値の向上を全力でサポートします。
・信用を第一に「誠意」「正確」「迅速」をモットーにご納得いただくまで親身にご説明いたします。
・マスコミや弁護士事務所、警察関連組織などへの調査協力も行っており、法令遵守で調査情報の秘密厳守、社会正義に即した調査を行います。
・ISO27001認証を取得しており、調査後の調査資料の廃棄に至るまで厳格に管理しています。
取引先や社員、株主などを対象に「反社会的勢力」との関係をチェックします。情報収集と収集した情報の蓄積を行い、独自でデータベースを構築し、情報利用についても熟知しているため、安心してお任せいただけます。
■信用調査
企業の与信調査(不動産や資産など)から採用時の個人 調査、その他、長年のノウハウを活用したきめの細かい各種信用調査を行います。
与信調査・不動産・資産・債権保全・信用調査・採用 入居者審査・身元調査・市場調査・各種マーケティングリサーチ・テナント調査・身元調査・訴訟関連・債権関連など
ISMS認証のノウハウを活用した情報セキュリティ対策支援やネット風評対策、ハラスメント対策などの企業のリスク対策のほか、盗聴対策などの個人向けの対策を含め、あらゆるリスク対策について対応可能です。
企業リスク対策(情報セキュリティ、情報漏洩等)・ネット風評対策・ハラスメント対策・各種相談窓口開設(コールセンター、内部告発等)・その他 盗聴対策、各種セミナー開催など
Webサイト:株式会社TMR
- 第44回 雇用リスクとは?【第1回 安全配慮義務の対策】
- 第43回 経営者リスクとは?
- 第42回 海外取引のリスク【第2回 海外取引におけるリスクマネジメント】
- 第41回 海外取引のリスク【第1回 海外取引における信用調査の重要性】
- 第40回 営業秘密の保護
- 第39回 業務上横領にはどう対応すべきか
- 第38回 企業のBCP対策【第2回 BCP対策の手順】
- 第37回 企業のBCP対策【第1回 BCP対策の状況】
- 第36回 企業不祥事の要因【第2回 自動車開発の不正認証取得事例から見る改善ポイント】
- 第35回 企業不祥事の要因【第1回 自動車関連企業の不正】
- 第34回 企業が行うべきリスクヘッジ【第4回 盗聴・盗撮から企業を守るためのリスクヘッジ】
- 第33回 企業が行うべきリスクヘッジ【第3回 情報漏えいのリスクヘッジ】
- 第32回 企業が行うべきリスクヘッジ【第2回 リスクヘッジの取り組み方】
- 第31回 企業が行うべきリスクヘッジ【第1回 リスクヘッジ能力の高い人材の確保と育成】
- 第30回 職場の心理的安全性
- 第29回 注意義務となっている反社チェック
- 第28回 投資先、出資先とのトラブル未然防止と発生後の対処
- 第27回 企業が行うべき反社チェックとは
- 第26回 企業におけるハラスメント 【第4回 企業間で発生するカスタマーハラスメント(カスハラ)とその対応】
- 第25回 企業におけるハラスメント【第3回 カスタマーハラスメントへの対応】
- 第24回 企業におけるハラスメント【第2回 パワーハラスメントの分類と事例】
- 第23回 企業におけるハラスメント【第1回パワーハラスメントがもたらす企業リスク】
- 第22回 企業のリスクマネジメントとして行う素行調査の有効性
- 第21回 反社チェックのポイント(採用編)
- 第20回 採用リスクを回避するバックグラウンドチェック(経歴調査)とは
- 第19回 個人情報との向き合い方【第2回 情報が流出する原因とリスクマネジメント】
- 第18回 個人情報との向き合い方【第1回 個人情報の背景と現在】
- 第17回 外部専門会社を活用した前職調査や身元調査で明らかになるネガティブ情報とは
- 第16回 資金調達における反社会的勢力の規制への対応について
- 第15回 倒産リスクのシグナルを読み取る必要性とポイント
- 第14回 顧客満足度を向上させるための相談窓口の設置
- 第13回 信用取引において必要不可欠な与信管理とは
- 第12回 オンライン面接へシフトする採用市場における調査専門会社の活用
- 第11回 採用時にネガティブ情報をつきとめるバックグラウンドチェック
- 第10回 企業の社会的責任として求められる、組織全体で行う反社対策
- 第9回 自社の内部統制は本当に機能していますか? 【第3回 内部統制の効果的な運用】
- 第8回 自社の内部統制は本当に機能していますか? 【第2回 内部統制の体制づくり】
- 第7回 自社の内部統制は本当に機能していますか? 【第1回 内部統制とは?】
- 第6回 不良債権リスクの高まりでより必要不可欠となる与信管理
- 第5回 コロナ禍の資金調達難に付け入る反社や黒社会の融資や買収の危険性
- 第4回 アリバイ会社との取引が懸念される場合の企業調査対策とは
- 第3回 採用調査で重要性が増しているリファレンスチェック
- 第2回 ビジネス取引において実施される信用調査とは
- 第1回 貸し倒れリスクを回避するための債権回収の対策