第36回
企業不祥事の要因【第2回 自動車開発の不正認証取得事例から見る改善ポイント】
株式会社TMR 執筆
前回は、自動車開発企業の認証取得の不正について、その不正内容と発生要因についてお話しました。今回は、これらの事例を元に、不祥事を防ぐための改善ポイントなどについて、お話していきたいと思います。
1. 自動車開発の不正認証取得における2つの問題
2. 改善ポイント
3. 不正認証取得事例企業の改善策
自動車開発の不正認証取得の問題では、大きく2つの問題が存在します。ひとつは、従業員の意識の問題で、自身とは無関係と思っていたり、不正であることを認識していなかったりする問題です。もう一つは組織の問題で、不正を防ぐ体制が無かったり、そもそも正しい法規認証(※)が困難な体制だったりする問題です。
※ 法規認証:自動車の装置が、国の定めた安全・環境等の基準に適合しているかを事前に確認する制度
1. 自動車開発の不正認証取得における2つの問題
① 意識の問題
I. 法規の認識
道路運送車両に関し、道路運送車両法などの法令等が定められています。また、その開発においては、保安基準等が定められており、開発時に各種試験や計測を行っていることもあり、認証取得は販売するために必要な手続きとして、形式的なものという甘い認識になっていました。
II. 不正の認識
発覚した不正は、長年に渡り慣習として行われているものが多く、不正としての意識自体がない、または問題として認識されていませんでした。
② 組織の問題
I. 企業風土
・困難なスケジュールをクリアすることが最大の目標として定着していた
・企業戦略や目標が自社の実態を把握したものになっておらず、取引先や親会社の都合、競合との差別化などを優先しすぎたものとなっていた
・上席者に意見することが困難、または意見しても全く通らないような企業風土となっていた
・部門間の連携がなく、全体を把握する管理者が存在しないため、現場依存の体制が強くなっていた
II. 品質管理
・書類によるチェックのみ、疑念があっても追及しづらい環境など、品質管理部門が機能していなかった
・法規認証は専門知識が必要だが、専門の人員がおらず、年々更新される内容も把握できず、知識を持つものがいなかった
これらの問題は、従業員だけでなく、経営者を含め企業全体で改善が必要なもので、意識の問題を改善することと組織の問題を改善することは、相互に密接に関係しています。これらを踏まえ、改善ポイントと事例企業が公表した改善方針を見ていきたいと思います。
2. 改善ポイント
① 品質管理部門の強化
品質管理部門が形骸化する要因の一つに権限が弱いということが挙げられます。疑念のある点を追及したり、差し戻したりを行うためにも強い権限が必要です。有効に機能すれば、製造工程改善や問題点改善などにも積極的な姿勢で臨める部門です。また、多様な検査やクレーム対策など、多岐に渡る業務が滞りなく行えるようリソース(人員)を確保することも重要です。
② 法規認証のための体制強化
排ガス規制や燃費計算など、社会情勢や利用エネルギーの多様化などにより、年々基準や規制内容が変化し、法規認証の内容も変化します。こういった最新の法規や規制内容などを常に把握するためには、専門部署の設置が必要と言えます。技術部門の参画を含めた専門知識を持つ者が、検査表や標準書の作成および更新を行うことで、品質管理部門の監査等で基準に合致しない認証試験の不備や不正を見抜くことにも繋がります。
③ コミュニケーションの活性化
コミュニケーションを円滑にするためには、組織内の縦横の繋がりを強化する必要があり、組織構成を見直すことも視野に入れなければなりません。コンプライアンス教育や内部通報制度の構築などの施策を行っても、事態を正確に把握し、改善につなげるといった繋がりを持たなければ正しく機能しません。企業全体として繋がりを持つことで、不正を麻痺させない体制をつくることができます。
場合によっては大がかりな変革となりますが、改善されれば、ガバナンスの強化や職場の一体感が高まるなど、企業としてのメリットも大きく、今後の企業の発展にも繋がります。
品質管理や法規に対する組織改善を行えば、必然的に社員も必ず守らなければならないものとして意識が変わり、改善に向かいます。また、コミュニケーションの活性化により、不正を認識し自浄作用が働いたり、上層部が自社の実態を正しく把握したりすることに繋がります。このように、意識の問題改善と組織の問題改善は密接につながっています。
3. 不正認証取得事例企業の改善策
① 産業車両用エンジンの認証不正を行った企業
上意下達の企業風土であったこの企業は、会長、副会長が退任するとともに、親会社から新しい会長が就任して経営の刷新を実施しています。新しい会長により企業全体の改革を行い、体質を改善することが見込まれています。
② 燃費性能や排ガス性能の認証不正を行った企業
部署間の関係が希薄で組織的な統制が取れていなかったこの企業では、職場懇談会の定期実施、四半期ごとの社長と全従業員の対話、みんなでクルマづくりができる体制構築など、コミュニケーションの改善対策の他、法規認証の担当を技術開発本部から品質管理本部に移管し、法規認証室を法規認証部に格上げするなど、品質管理や法規認証の改善策を既に始めています。③ 衝突安全性能の認証不正を行った企業
開発スピードが最優先となっていたこの企業では、開発スケジュールを4割延ばし、法規認証室の人員を7倍にするとしており、安全性能の評価人員については既に1.5倍に増員しています。また、経営体制については、親会社との協議を行うものと思われ、親会社は役員刷新も検討していると述べています。
詳細な内容は必要に応じて発表されるかと思いますが、大きな方針として、各社とも組織改善と品質管理体制、法規認証体制の強化を発表しています。ただ、第三者から改善策として不十分などの意見も出ており、具体的な対策はこれから更に検討され、実施されていくと思われます。
今回は、自動車開発の法規不正認証取得の事例をもとに、改善ポイントについてお話ししました。企業規模や業種の違いはあっても意識の問題と組織の問題は、常に持ち合わせています。今回は、大企業の事例ではありますが、自社の改善に生かせる点もあるのではないでしょうか。
株式会社TMRでは、リスクマネジメント体制の構築支援を行っています。組織体制の最適化支援や内部通報制度、従業員研修による意識改革など、独自のノウハウと豊富な実績を元に効果的な支援を行っています。
※転載元 株式会社TMR お役立ち情報「企業不祥事の要因 第2回 自動車開発の不正認証取得事例から見る改善ポイント」
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